あなたが私のマスターですか?─RE:I AM─   作:つきしまさん

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14話 メサイア強奪(後編)

 閃光がほとばしるシーンを見た。それは夢か、現のことなのか── 

 柔らかい緑の光に包まれてリズエラは眠る。現実世界から切り離され浮遊する感覚に意識が揺らぐ。

 胎児のように体を丸めて、外世界で起きるあらゆる音もここには届かない。

 そのたゆたう檻の中で突然に「声」を聞いた。

 そのざわめきは空間に波紋をもたらして広がった。意識は浮上するが、肉体は覚醒せず鈍い反応のみを返してくる。

 薬物によって精神と肉体が乖離している。

 

『彼が来る──』

 

 彼……?

 それは誰?

 眩い太陽の光が差し込むビジョンが浮かんだ。

 青い空の下、風を受けて金色の髪を揺らす青年。青い二つの瞳を持つ若者の傍らに彼より年下のワンピース姿の少女が立つ。 

 それは自分の記憶なのか? それとも誰かの記憶なのだろうか?

 虚空の果てから、不意に多くのビジョンが突き抜けて自我存在を揺さぶった。

 ここにいて見ることはあり得ないビジョンばかりが通り過ぎていく。

 幾万もの記憶と人生の渦。宇宙に広がる意思の集合体──

 

『彼はシャア・アズナブル──』

 

 その名は知っている。光の波が彼の記憶を「私」の中に呼び覚ました。

 エドワウ・マス。

 キャスバル・レム・ダイクン。

 仮面の復讐者。シャア……

 手を伸ばそうとも届かぬ虚空の彼方に「今」の彼はいる。それを既知として「知って」いた。

 

『世界は変革する。この世界にもたらされたモノによって』

 

 先も見た閃光が走って暗い空間に消える。

 無骨な鉄のボディを持つマシン・ザク数機が輸送船に迫る。

 起動するメサイア。

 決意のニムエ。

 叫ぶ若者。

 照準の定まらないビームライフルが狙いを外して宙に消える。

 周囲を囲まれて輸送船を標的にされ判断を喪失するニムエ。

 

『やらせないっ!』

 

 鹵獲のために射出された網がメサイアを捉え強力な電撃が襲い掛かった。

 声にならぬニムエの叫びが聞こえたような気がした。

 それが現実のように焼き切れるニムエの意識と同調した。

 

『目標を確保──』

 

 ノイズ交じりに太い男の声を聞く。

 これは夢?

 これはまだ、これから起きる出来事なのだとリズエラは理解した。

 

(ニムエ……)

 

 意識は突如覚醒する。薬によって鈍った五感が唐突に目覚める。

 裸身であることを意識し、二の腕に触れた。ベッドは一定の温度保たれているが、知覚する世界は寒かった。

 機械が作動する電子音を聞く。動けぬリズエラに中和薬が投与され注射器が自動で収納される音だった。

 

「──中和薬を投与した。もう動けるでしょう?」

 

 その声の後、ゆっくりと瞬きをする。自らを縛る檻、ベッドの中で緑光のガラスの向こうに誰かがいる。

 

(クリス?)

 

 そう認識した声の主は藍色の髪の乙女だ。ピンクとブラックのファティマスーツのラキシスの姿だ。

 知っているようで知らない存在がそこにいた。

 ジョーカー星団における記憶をすべて失い、宇宙世紀の時代に覚醒したリズエラはラキシスを知らない。

 かつては守り、救出する対象であったが、ここに在るラキシスは栗色のラキシスではない。

 藍色のラキシスの存在をかつてのリズエラは知る由もなかった。

 

「起きて」

「はい……」

 

 見上げる形でラキシスと対峙する。クリスと姿形は同じだが異質な神々しさを振りまいている。人知を超えた存在だと知覚する。

 薬物によって麻痺した交感回路が開くのを感じる。

 自然回復に任せるには時間がかかりすぎるが、回路神経に干渉して眠る肉体をリズエラは無理やり起こした。

 いまだに眠っているに等しい体をリズエラは「操作」する。

 かなりの睡眠薬を投与され、中和薬も効いているが、今のリズエラでは自分の体を動かす程度の力を出すのがやっとだった。

 ベッドを包む保護ガラスが開閉しその淵に指先が絡む。裸身を冷たい空気にさらしベッドから降りた。

 起伏の乏しい女の体を目の前の女にさらすことに戸惑いを感じた。

 恥ずかしい? これが恥ずかしいということ……ふと胸の内に沸いた感情に戸惑いを見せる。

 ラキシスが差し出す自分の服を受け取った。

 

「あなたは、誰ですか?」

 

 いつものマントに宇宙のスーツだ。それを胸に抱いて彼女に向き直る。

 

「君が見ているのはもう一人の「私」だ」

 

 クリスの口調でラキシスが答えた。

 

「クリス博士ではないのね……」

「投与された薬が多すぎて中和薬では散らしきれない。これ以上の中和薬の投与は無駄になるし毒だ。後は自分でどうにかなさい」

「はい。どうして私に?」

 

 怜悧な瞳がリズエラを見返して沈黙で答えた。それ以上問うことはやめてリズエラは着替える。

 着替えながら、ベッドの後ろ側に白衣の男が倒れているのを見た。白衣の男はベントナだった。

 死んではいない、昏倒しているだけだと判断する。

 

「行って。あなたのやるべきことをなさい」

「はい……」

 

 ラキシスに促され、通路にさまよい出た肉体を精神でコントロールしながらリズエラはゆっくりと歩きだす。

 向かうのはメサイアがあるハンガーデッキだ。宇宙に出るためのスーツに着替えもしなければならない。

 完全な肉体のコントロールは不可能。麻痺した回路を刺激し続けてどうにか肉体を動かしている。

 体は半覚醒状態でやっと起きているに過ぎない。完全に薬を抜くには丸一日はかかるだろう。

 今の体は子どもにすら抗えないくらい弱っている。

 緊急警報が鳴っている。見たビジョンはこれから起こるもの……いや、現在進行形で進んでいた。

 ──それはメサイアが奪われるビジョンだ。

 

◆ 

 

 月で圧倒的な戦闘力を発揮した角突きが、こうもあっけなく鹵獲できるとは……ランバ・ラルはじめチームのメンバーの誰も思ってもいなかったことであった。

 事前の作戦会議で、直接の指揮官であるドズルが「角突き強奪」作戦を指示し、キシリア機関による諜報で得られた情報がラルチームにもたらされた。

 輸送船の航路情報から、角突きが地上用仕様に換装しているタイミングまで抑えた完璧な作戦は、鹵獲するのに失敗する材料がないと言える内容だった。

 編成されたザクはプロトタイプ機が混じったが、この作戦においてはそれで事足りるという判断だったのだろう。

 すべてがお膳立てされていたことに拍子抜けしながらも、ラルは捕獲命令を下した。

 宇宙空間に漂う機体にザクが近づく。メサイアを襲ったエネルギーは拡散して消えているが、激しい熱にさらされた部分は黒い筋となって残った。

 シャアの機体がメサイアを正面から捕らえた。

 

「降ります。警戒お願いします」

 

 ザクを固定させてシャアが宇宙に出る。その手にあるのはハッチの強制解除装置だ。沈黙したMSのハッチを開くには外からの干渉が必要だ。

 装置を起動させて中のロックを外す。銃を手に構え、開いたハッチ内部のコクピットルームに気絶したパイロットスーツの少女の姿を見た。

 この女があの時の相手だろうか?

 

「開きました。パイロットは確保」

「パイロットは生きているか?」

 

 抱えたニムエをヘルメット越しに一瞥する。ザクであれば無事では済まなかったであろう攻撃を加えたのだ。

 電撃で死亡していればもっと無残な姿であっただろうが、わずかな鼓動をスーツ越しに感じとった。

 

「息はあります」

「シャア、パイロットも回収しろ」

「了解。離れるので角突きの回収願います」

「よし、ガイアとオルテガは角突きを確保。すぐにこの宙域を離脱する」

「了解」

 

 シャアは乗り手を失ったメサイアをガイアたちのザクが確保するのを見届ける。

 多勢に無勢。なおかつ地上戦仕様の機体を宇宙空間で動かすことの無謀さの結果だった。

 月であれほどの機動力と性能を見せつけたマシンも狂った制御システムの前に敗北することとなった。

 ニムエは輸送船に向けられた複数の銃口を前になすすべもなくライフルを放棄せざるを得なかったのだ。

 守るべきものを前に降伏しなければ船は破壊される。ニムエはほぞをかんで無抵抗をさらした。

 そこにラル隊が放った網がメサイアに絡みついて大量の電磁波を浴びせた。

 もしこれがザクのコクピットであったならば中のパイロットもろとも即死だったろう。

 メサイアの全天球卵型のシェルに内蔵されたジェルがコクピットへの電磁干渉を最小限に抑えたのだ。

 

「やはり出てはこないか……」

 

 最も警戒すべき、シャアに恐怖を与えたパイロットともう一機のメサイアは出てこない。

 作戦前のブリーフィングでその可能性はないと断言された。アナハイム内部のジオン協力者が抑えているという。

 腕に抱えた女は人質だ。生存は想定外だが、生きているのであれば利用価値はある。

 ラルもそう判断して人質を持ち帰ることを指示したのだ。

 

「帰投します」

 

 すでに宙域を離れる味方機を追ってシャアのザクが発進する。向かうのはパーミッシュとのランデブー地点だ。

 

 

 メサイアがザク数機になぶられ、銃口が輸送船に向けられたことで船内は大きなパニックに陥った。

 敵からの降伏の宣告はない。このままでは撃たれると、降伏を脳裏に浮かべた者は一人、二人ではなかった。

 あまりにも手際が良すぎる。かつ、こちらが完全無防備にあることを知るのはメサイア計画に関わるわずかな人々のみだ。

 その一人であるマーサは腕を組んだまま拿捕されたメサイアを眺める。その姿に口出しできる者はこの場にはいない。

 ただ一人、マーサに不審の目を向けるのはウォン・リーのみだ。

 

「何を考えている。マーサ・ビスト……」

 

 憶測のみで確かな証拠もない。だが、この女が裏で手を引いているのではないか? という勘には確信めいたものを感じていた。

 ビスト家の者は信じることはできない。

 当主は傑物だが、この女は毒だ。アナハイムに巣くう毒蛇。その毒がいつしか身を亡ぼす毒になりはしないだろうか?

 舵取りをするのは会長だ。その会長が毒蛇を制御することができなければ、右腕として毒蛇の頭を叩き潰すのが自分の役目になるかもしれない。

 

「つくづく損な役割だな。まったく……」

 

 

 そしてデッキではアストナージが一人奮闘していた。彼が乗り込もうとしているのははしけ用のシャトルだ。

 スピードは出るが、長距離の飛行には適していない。

 

「捕まっちまったぞ。連れていかれる!」

「お前、何するつもりだよ?」

「みすみすモビルスーツを取られて黙ってられるかよ!」

「お前、軍人じゃないだろう? シャトル操縦できるのか?」

「操縦くらいどうってことないさ。メカニックだぞ」

「無茶苦茶言うなよ、バカっ!」

 

 アストナージはシャトルのキャノピーに手をかける同僚の手を払おうとして、二人は取っつかみ合いになる。

 

「待って──」

 

 二人の前にリズエラが立った。宇宙に出るスーツに着替えているが、その可憐で美しい様を白のスーツがより引き立てているように思えた。

 

「あんた……」

 

 思わず見とれたアストナージがリズエラを見上げる。

 

「ニムエが捕まりました。私が追って取り返します」

「取り返すたってこいつに武装は……」

「お願いします……すぐに追いかけないと。今の私にあの子は動かせないから」

 

 その視線の先にはメサイアがある。本来の十分の一以下も力を発揮できない状態で、コントロールも定まらない機体で出ることは自殺行為に等しい。

 今の力でも戦うことは可能かもしれない──

 だが、自分だけならともかく、このメサイアだけは失うわけにはいかなかった。敵は決して容赦しないのだから。

 リズエラは自らの能力を過信しない。今の自分にできるのは追いかけることだけだ。

 下手な武装はニムエの命を危険にさらす。それだけはあってはならなかった。

 

「任せていいのか?」

「はい」

 

 躊躇いなく頷いたリズエラにアストナージは席を彼女に譲って降りる。

 

「ハロ! ハロ!」

 

 リズエラがシャトルに乗り込むと同時にハロがコクピットに飛び込んでくる。

 

「ハロ……」

 

 ハロを受け止める。思ってもいない増援だ。

 

「何やってんだよ、アストナージ! 行かせていいのかよ」

「おい、ハッチの開閉頼むぞ!」

「ああくそ、わかったよ!」 

 

 アストナージが指示を出して同僚が跳んでいく。

 

「ごめんよ、俺があの子をちゃんと止めなかったから……」

「あなたが謝らなくていい。あの子は止めてもきっと聞かなかったから、ありがとう」 

「あ、ああ」

 

 キャノピーからアストナージが離れ、窓が閉まってシャトルのエンジンがかかる。

 シャトルが発進する。その姿をアストナージと整備班が見送った。

 

『誰がシャトル発進の許可を出したというの! なぜ彼女があそこにいるのっ!』

 

 艦内放送がヒステリックな声を響かせる。

 リズエラの姿を見て驚愕したマーサの声だった。

 それを聞いてアストナージと同僚は知ったことか、と呟いて自分の仕事に戻る。

 

 

 メサイアを鹵獲したラルチームは荷物を抱えての航行で足が遅い。

 他に追ってこれるような増援を呼ぶことも、戦力もアナハイムが保有していないことは確認済みだ。

 仮にもう一機の角突きが現れたとしても、対処は可能と判断するに足る戦績を挙げている。

 護衛としてシャアが警戒に当たる。ミノフスキー粒子も薄れ通信機能も回復していた。

 チームの緊張感が薄れかけたとき、レーダーに迫る影を捉えシャアが報告する。

 リズエラが乗るシャトルだ。武装はなく、一緒に搭乗するのはハロのみ。

 

「ラル隊長、追手ですがシャトルです。落としますか?」

「武装しているのか?」

「わかりませんが自分が対処します」

 

 わずかな間に応えが帰る。

 

「シャア、任せる。我々は捕獲したモビルスーツを運ぶ。妨害する素振りがあればすぐに撃墜しろ」

「了解」

 

 ラル隊と並行していたシャアのザクが戦列から離れる。コクピットには気を失ったニムエがいる。

 捕縛に当たっての縄も手錠もない。人質を取ることを前提とした作戦ではなかったのだから当然だ。

 鹵獲するのはメサイアのみというのが作戦で、パイロットは考慮に入れられていない。パイロットは損耗品として扱われるのが軍の常だ。

 

「ん……」

 

 わずかな反応で人質が目を覚ましたことにシャアは気が付くと、銃口を目に見える位置にかざす。

 

「角突きのパイロット。君は私の人質になっている。下手なことは考えないように」

「……」

 

 言葉なくニムエはシャアを見返した。気の強い瞳が物怖じしていないな、とシャアに感心をもたらす。

 だが軍人ではなかろう。

 

「健気にもシャトルで私たちを追いかけているのは君の友達かな?」

「知らないわ……」

 

 ニムエが怖いのは銃のみだ。格闘で男をねじ伏せる力はない。それは自覚しているので、ここで暴れ回るような醜態は晒さなかった。

 

「あんなもの一機でどうしようというのだ? そこのシャトル聞こえているな」

 

 通信を開きシグナルを送って会話を試みる。

 

「人質を解放してください」

「女か……」

 

 その返事にシャアが予想外の返事と捉え、ニムエが顔を上げる。リズエラの声だった。

 

「リズエラ様」

「様?」

 

 聞き返したシャアにニムエは視線を逸らす。

 

「そこにニムエがいるのですね?」

 

 淡々と冷静な声が響く。

 

「どうやら君たちはお互いが大事な存在らしい。何の武装もせずにシャトルだけで追いかけてくるとはね。興味深い。聞かせてくれ、君はあの白い角突きのパイロットなのかい?」

「そうです」

 

 半ば試しのつもりの質問に返ってきたのは率直な答えだった。若い、と思った。

 

「私はいま人質の頭に銃口を向けている。私たちの妨害をするつもりであれば彼女の命はない。理解したかな?」

「ニムエを……返してください。こちらの目的は一つだけです」

「それが君の望みか?」

「そうです」

「では、奪われたモビルスーツはどうする?」

「人命に換えるつもりはありません」

「度胸の良い人だ。信じてもいい。この少女は君にとって大事な人かな?」

 

 大事な人──

 胸の内に浮かんだのはアムロの顔だ。

 そして赤毛のニムエの顔も。

 ウォンさんもクリス博士もいた。

 インダストリアル7での初めての出会いから数年があっという間に過ぎ去った。

 いつの間にか、私にはそこにいなければならない人たちがいた。

 こんなにもたくさん……

 なぜこんなに胸が締め付けられるのだろう。

 これが大事という気持ちなの?

 必要だから、という言葉一つだけで説明できなかった。

 この気持ちは何なのだろう?

 

「ニムエは……必要な人です。私にはとても大事な人」

「私なんかをどうして……」

 

 ニムエは震えた。

 勝手なことをして、大事なものを奪われた。この数年間をリズエラ様と共にしたメサイアを奪われたのだ。

 責められて当然。罰を受けて然るべきことだ。

 自分が帰る場所。これまではガエルがそこにいればよかった。そうだとずっと思っていた。

 帰る場所。そこにいてほしい人は彼一人だけではなかった。いつの間に、こんなに、私は弱くなっていたのだろう。

 

「ここまで追ってきた君の律義さに免じて解放するとも。しかし、追うのはここまでにしてもらおうか」

「わかりました……追いません」

 

 シャアの言葉のままにシャトルのエンジンを切って迂回して旋回する機動を作った。

 

「悪いが丁重に送り届けることはできない。今、ここで渡す。いいかな?」

「わかりました。要求を飲みましょう」

 

 通信を切りシャアがニムエに救急用の発信機を渡す。

 

「ニムエと言ったね、ここで君を放り出すことにする。これを絶対に離すな」

「はい……」

 

 ニムエは命綱となる機器を受け取る。

 

「もう聞いたことだが、彼女があの白い角突きのもう一人のパイロットで間違いないね?」

「そうだとしたら?」

「彼女には借りがある。恩と言ってもいいだろう」

 

 屈辱の敗北を受け、私は生き残った。だが、それは一筋の光明となった。それは彼女が見せた光と言っていいだろう。

 もし戦場で会うことがあればもう二度目はない。

 

「それ、どういう──」

「語る時間はない。彼女が受け止めてくれることを祈れ。その発信機が命綱だ」

「待って──」

 

 ザクのハッチが開き、ニムエの言葉を待たずシャアの手がその体を押し出していた。

 ニムエの体が宇宙空間に放り出される。あっという間にザクからその身が離れていく。

 起動したザクがバーニアを噴射して宙域を離脱すると、たちまち孤独の空に漂う感覚に包まれる。

 宇宙空間に放り出された驚きと、次にやってくるのは整理のつかぬ感情の波だった。

 生存本能と恐怖がせめぎ合い、どこが上か下かもわからぬ世界でニムエは必死にシャトルを探した。

 

「リズ……!」

 

 体の芯まで凍り付かせてくる宇宙を感じてニムエは虚空に手を伸ばした。このままでは遠く離れすぎて見つけられないかもしれない。

 発信機のライトをつけると、手元で点滅を繰り返すそれを唯一の希望にして何度も振った。

 

「予測地点。旋回。ニムエ、そのまま真っすぐ」

 

 ハロにシャトルの自動制御を任せ、旋回して目標座標にセットする。

 ニムエを追いかける形で背負ったバーニアを噴射させてリズエラは跳んだ。わずかでも狂えばニムエは宇宙をさまよう迷子となってしまう。

 加速してニムエを追った。そしてバーニアをいったん逆噴射させて減速し速度を緩める。お互いの距離が徐々に縮まっていく。

 リスエラが計算したランデブーポイント。チャンスは一度だけ。それはほんの数秒の間。

 

「ニムエ」

「リズ!」

 

 相対速度が二人を向かい合わせた。

 振り向いたニムエが手を伸ばす。リズエラの手がその指先に触れた瞬間にニムエの体を引き寄せて捕まえていた。

 

「来てくれた……来てくれた!」

「来たよ。帰ろう、ニムエ。私たちのいる場所に」

 

 ギュッとリズエラを抱きしめたニムエとヘルメット越しに対面する。唯一の光源であるライトが二人の位置を宇宙空間に示す。

 

「ごめん、わたし……取られちゃった。馬鹿なことしたばっかりに! ごめんなさい……」

「大丈夫……もう大丈夫だから」

 

 熱い涙を流すニムエの体を抱いたまま、リズエラは旋回しながらランデブー地点で交差するシャトルの動きを捉える。

 操縦システムに連結させたハロがシャトルを動かしている。

 

「ハロ、助ける! ニムエ、助ける!」

 

 旋回するシャトルが二人の背後について、キャノピーを操作して向かい入れる。

 シャトルに帰還して狭い操縦席に二人が収まった。

 

「帰還します」

 

 通信回線を開き、ニムエを回収したことを告げて、シャトルの推進剤が帰還に足らないことも母船に通達する。

 

「彼は……」

「え?」 

「何でもない」

 

 かぶりを振ったリズエラの独白は宇宙の虚空に消えた。

 

 シャア・アズナブル。彼とはまた出会うのだろうか? 次は戦場で? 

 これから起こるであろう人類の存亡をかけた戦いの記憶がリズエラを焼く。

 今はその時までのほんの一瞬の安らぎに過ぎないことを知っている。

 

 宇宙空間に流されるままに救援信号をキャッチしたアナハイムの船に回収されてリズエラとニムエは生還した。

 メサイアを奪われるという苦い痛みを伴うものとなった。

 地球への航行はメサイア強奪の報せを受けて緊急中断された。行先を失った船はインダストリアル7へ向けて航行を再開する。

 おりしもそれはクリスマスイヴの夜のことだった──




アニメ8話くらい

次回はインダストリアル7にてエピソードを展開

俺、ガンダム二次の1シーズン投稿し終わったらFSS17巻と水星の魔女見るんだ

  • 水星の魔女は許す、FSSは許さん
  • FSSは許す、水星の魔女は許さん
  • 両方許されない 二次作を完結するまでな!
  • 好きなだけ堪能していいぞ
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