あなたが私のマスターですか?─RE:I AM─   作:つきしまさん

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5話 メサイア計画

「あれ? お姫様いねーの?」

 

 教室に入って一番に目ざとい男子がリズエラの不在を残念と嘆いた。

 この日のリズエラは学校を欠席していた。モビルスーツ開発の第一段階が詰めに入りつつあり、連日メガラニカの秘密工場に入っていたからだ。

 

「先週も病欠してたよな。今日もか?」

「病弱なんだってさー。すごいよなアナハイムの姫ちゃんはさ。俺らと違って別に勉強しなくても困らねえし。留年しようが落第しようが関係ねえのよ」

 

 席に行儀悪く座って陣取る男子に何人かが集まる。

 

「でも頭の出来は俺らなんかと比べ物にならないじゃん? 特別な人間ってのは本当にいるもんだよな」

 

 やっかみと妬みと羨みの言葉が混じる。アナハイムの会長令嬢という地位はただの学生から見れば殿上人に等しい存在だ。

 

「人のことより自分を心配しろよ。前期の成績Cで落第一歩手前のやつ」

「それくらいすぐ取り戻すさ。いいよなバーチは、親父がここの工場長だろ? 跡を継げばいいやつは気楽だな」

「跡継ぎだって気楽なわけじゃないぞ──」

 

 男子たちの雑談が続く。

 このコロニーも学校もすべてアナハイムという世界企業の一部でしかない。

 彼らからすれば卒業後の就職企業であり、どこに配属されてもアナハイムの息がかかっている会社や工場なのだ。

 リズエラ・カーバインという支配階級にある人間が同級生というのは奇跡である。自然とクラスメイトの間では「お姫様」という名称が定着した。

 頭脳は明晰で機械にも強い。二年生相手にモーターラクロスで奇跡の逆転を果たしたときも相棒はニムエのみで勝利をもたらした。

 リズエラがいるだけで世界は華やいだように変わる。男女の羨望と嫉妬を同時に受ける存在であった。

 

「──だろ? あのお嬢様やべーよ」

「おいよせって……」

 

 お姫様に関する噂に興じるお調子者の男子を見かねてバーチが止めに入る。

 

「何だよ? 本人ここにいねえし……」

「見ろよ、お姫様の取り巻きが睨んでるぜ?」

 

 彼が後ろ指で指した先に赤毛の髪をポニーテールに結ったニムエがいた。男子たちを睨んでいて怖い顔をしている。

 その隣にいるのは地味な黒髪のタリアだ。

 リズエラが親しくすると決めたタリアはクラスメイトとして一番近くの席にいたからだが、理由はともかくとして、そううるさいことを聞いてこないタリアは付き合って問題がない生徒だった。

 

「ふん、だ」

 

 バカな話で調子に乗る男子をニムエが一睨みすると男の子たちは慌てて目線をそらし、集まっていた机から離れる。

 こう見えても目力には自信があるのだ。

 

「ニムエ。リズはどうしたの? 今日もお休みみたいだけど……ごめん、変な詮索してるね」

「リズお嬢様は今朝からお体の具合が悪くて……」

 

 ニムエが用意しておいた言葉をタリアに返す。

 病弱であるためお嬢様はしばし学校を休学する。その間は授業内容をノートに記してリズエラに渡すのが今のニムエの役目となっていた。

 そのお嬢様がメガラニカで行っている実験などについては一切口外は許されないし、情報が漏れることがあってはならないと執事のガエルから厳命されていた。

 

「そうなんだ。お見舞いに行きたいけれど……ダメかな?」

「気持ちは伝えておくわ、ありがとうタリア。この間もノート作ってくれたし」

「いいの……それくらいしかできないから」

 

 かすかに聞き取れる声量でタリアが応える。タリアにとってニムエも特別な存在の一人だ。

 会長令嬢の取り巻きと悪口を聞くこともあるが、ニムエは飾り気のない性格だし、お嬢様であるリズエラも少し変わっているが高飛車なところはない。

 気弱なタリアからすれば、遥か目の上の存在であるリズエラからリズと呼び掛けていいと了承してくれて、それだけでも天に昇るような気持だったのである。

 

「おい、バンクロフトが来たぜ席に着けよ」

「あれ、誰だ?」

「知らねえ……」

 

 男子の囁きを聞きながらニムエは前を見る。

 学年主任のバンクロフトは一人の女性を伴っている。見かけぬ顔だが新しい教員かもしれない。

 

「みんな静かに。今日は新任の先生を紹介する。イズミ先生が育休でしばらくお休みとなるが、担任に新しい先生が入る。自己紹介をどうぞ」

「今日から皆さんと同じ学校の一員となりました。アンナ・リンクスと申します。専門は一般教養課程です。よろしくお願いします」

 

 教壇の前で挨拶をするアンナ・リンクスは相当若く見える。実際彼女は教師になり立ての新人先生であった。

 

「へえ……美人だな」

 

 男子の間で囁き声が漏れる。

 

「まったく男子って。でも、あの先生キレイな人ね……」

「そうだね」

 

 ニムエがタリアの呟きに答える。

 でも、リズエラ様の方が百倍は美しい。どんな美人でもお嬢様の前では霞むほどだ。

 監視対象でありながら、この半年間ですっかりリズエラびいきになっているニムエであった。

 

 

 メガラニカ──秘密工場。一般には知られぬ工場がメガラニカには存在する。ビスト家が管理するため、アナハイムの公式地図には存在しない場所であった。

 そこに組み立て途中の人型を模したマシンがあった。全長一八メートルほどの大きな機体はまさにモビルスーツと呼べるものだ。

 建造途中であるため装甲はなくむき出しのフレーム部分が人体の骨のように露出している。

 唯一頭部の部分は顔らしきものがあって、人の顔を模してはいるが、それが見た目通りの顔というわけではなかった。

 頭部はカメラセンサーの塊といってよいくらい配線が集中している。

 

 モビルスーツ黎明期におけるコクピットの有視界モニターはMS開発の初期段階ではごく限られたものであった。

 プロトタイプとして開発されたジオンのザクは、ほぼ人間の視界と同程度の情報しかカメラで得られなかったのである。

 一年戦争から始まる宇宙世紀の戦争を経て、モビルスーツのコクピットはマルチディスプレイ化。

 三六〇度視界が採用されてパイロットが処理する情報も高度化していく。

 しかし、この時代に採用されていないはずの全方位視界ディスプレイのモニタがこの「機体」には搭載されていた。

 

 突如閃光が弾けてモニタ一を包み込む。三六〇有視界のコクピットではその閃光は防ぎようのない致命的なものとなってパイロットの視界に飛び込んでくる。

 高速で飛行する機体に追いすがるように三機の機影が背後から攻撃を加えた。

 回避運動を行いながら質量のある爆発の衝撃が機体を揺らし、中にいるパイロット──リズエラを襲う。

 かかるG圧のショックが体機能を低下させ、まともな判断力をも奪うのだが、彼女にとってそれは何の障害にもならなかった。

 

「捕捉」

 

 閃光の向こう側にいる三つの目標を捕らえ攻撃する。ビームガンから迸った三条の光線が真空の宇宙を飛ぶ高速戦闘機に命中し爆散する。

 同時に三機を撃墜する離れ業を見せて、リズエラの表情を映さないコンタクトが正常な色合いとなってヴァイオレットの瞳の色彩を覗かせた。

 宇宙戦用に開発されたこのアイコンタクトはリズエラのために作られたものである。

 多くの検証サンプルを開発チームに提供しながら、リズエラが提案した改善案はこうして有用に用いられている。

 元はファティマもこうした表情を映さないアイコンタクトを星団歴に使用していたが、星団歴三〇〇〇年以降はこれを付けないファティマもいて、全体的にファティマを規制する法が撤廃されていった経歴がある。

 リズエラに元の世界を示す記憶は残っていなかったのだが、こうしてファティマとしての姿を再現したのは偶然だろうか。

 

 その額に装着されているのはファティマをサポートするコンデンサシステムだ。

 ヘッドクリスタルの輝きがコクピット内で反射してきらめく。ファティマのみがこの情報電子体にアクセスし使いこなすことができた。

 マシンと統合しあらゆる演算を可能とするクリスタルはファティマの精神と融合しもう一つの頭脳として機能する。

 失われた記憶同様、クリスタルもリズエラに関する情報を明かすことがなかった。

 リズエラでもその原理を説明することができないまま、なぜか扱えるのだという認識しかなかった。 

 アナハイムの技術でもこのクリスタルの分析には失敗し、中身を知ることは一切できなかった。

 無理にこじ開ければファティマの精神崩壊をもたらしかねないものであったが、無理な解析をせずにリズエラの元に返したのは僥倖であったといえよう。

 リズエラをアナハイムの財産として扱うことを決めた会長の意思がそうさせたのだ。

 

 管制室──開発チームが占領するこのエリアでは多くの職員がモニターを観察しデータ収集をしている。

 メガラニカの秘密工場のラボラトリ。多くの技術者がここに詰めている。そのほとんどがマーサ・ビストが連れてきた研究員たちだ。

 開発中のMSシミュレーターはありとあらゆる状況を設定し、体感や受けるショックまで再現可能なアナハイム最新のマシンだ。

 シミュレーター実験を繰り返しながら、検証したデータを基にテスト機の建造計画が進められている。 

 

『目標を撃破しました』

「次は地上戦だ。重力下での再調整をする」

『もうできました、博士』

 

 直ぐに返事が返ってきてクリスは面食らう。

 驚かされるも何度目かだが、どのような難問を与えても、さらりとその先の回答まで用意してくるので、彼女自身がリズエラに挑むという立ち位置の逆転がしばし起こる。

 リズエラが人造人間であること──いずこの機関によって造られたものかは不明だが、アナハイムが保護したこの少女の価値は戦艦一〇〇隻と比べても劣るものではなかった。

 その価値を理解できる者は地球連邦政府や軍関係者にはおそらく存在しないだろう。

 それだけの価値があるとアナハイムが認め、会長の保護下に置いているということはクリスにはよく理解できた。

 戦争下において彼女の存在が知られれば、命の価値など知らない連中に戦いの道具とされる未来しかない。

 

「また勝手にプログラムを書き換えたのか? 山岳地帯。地上MS部隊からの対空砲火と飛行戦隊からの歓迎を受けろ」

『ウェザーコントロールのシミュレーションも可能ですよ』

「そう簡単に言うな。天候システムのバージョンアップは来週だぞ」

『ラジャー』

 

 リズエラはさらりと機械に埋もれたチューブを掘り起こしながら端末片手に改造コードを仕込むのだが、なれた技術者でもそんな簡単にできる作業ではない。

 それができてしまうのがリズエラという少女なのだ。

 あっさりと機械に順応し使いこなしてしまう人種──ニュータイプではないか? という言葉が思い浮かぶが、クリスはその安易な表現を好まなかった。

 ニュータイプとは宇宙に出た人がたどり着く理想の存在である。かつてジオンの指導者はそう説いた。

 そうであるならば、人が人である必然性を脱してはいけないのだ。造られた存在を人が造ったマシンに乗せている。そのこと自体がニュータイプという存在を否定しているようにも思えた。

 それは技術者としての考え方ではない。極めて個人的な感覚で感じるものだった。

 

「──再加速を開始します。G負荷圧上昇中。脈拍呼吸も正常内」

 

 管制室のオペレーターの声が響き、青白い光に照らされた白衣のクリスがモニター群を見つめる。 

 

「体感率を最大レベルに」

「ラジャー。最大レベルに上昇。最大速度に到達」

「地上はどうだ。リズ?」

 

 マイクでクリスが呼びかける。

 

『問題ありません』 

 

 素っ気ないリズエラの返事が返る。

 宇宙の無重力世界から重たい感覚に切り替わるが飛行状態を継続したままマシンの中にいる。

 青い空に浮かぶ白い雲を追い抜いて地上の重力と慣性をその身に受けて彼女は笑った。宇宙でも地上の空でも飛んでいるときの高揚感はこの身にエネルギーを与えてくれるかのようだ。

 

『ゲームを開始します』

「実戦と思いなさい。戦場ではイレギュラーが発生するものだ」

『予期しないエラーのリストなら三千万通りほど作りましたけど使いますか、博士?』

「今は仕事に集中しなさい」

『はーい』

 

 リズエラは再設定された敵の配置を確認する。地上部隊のMSガンキャノン、ガンタンク部隊と戦闘機編隊の組み合わせから成る混成部隊だ。

 シミュレーターでは現実に起こりうるトラブルまでは再現されない。機械系の故障や整備不良、天候不順、磁気を帯びた宇宙嵐etc。

 突発的なトラブルに遭うことはなく、マシンは常に最高の性能を発揮できる状況で動かすことができる。

 急降下し、地上への掃射から開戦を告げて旋回し雲の中に戦闘機部隊を誘い込む。

 リズエラが機械的に撃破していく様子をモニタの前で眺めながら、クリスは最後の一機が打ち落とされるまで微動だにしなかった。

 

「すべて撃破を確認しました──」

「再設定開始。宇宙にデブリを設置して」

「デブリ配置します」

 

 コンソールに自分で打ち込んでクリスがデータを再編集する。

 最終戦は収集したリズエラのデータから再構築した最新のマシンモデルだ。

 飛行形態のマシンが画面に出て兵装を換えていく。まるでゲームで遊んでいるように見えるが、実際のパイロット訓練に用いられる高度なシミュレーター・マシンである。

 現状使っているマシンデータのアップデート版であるので今のリズエラよりも動きが速い。

 

「次はデブリ内で自分と再戦してもらう。五分で片をつけなさい」

『ラジャー』

 

 真っ暗な宇宙のアステロイド・デブリ群をすいすいとかわしながら飛行してリズエラは標的を確認する。

 相手は自分自身を想定している。本気でかかるつもりでリズエラは自分自身の動きをエミュレート開始する。

 

「今日はずいぶんと長いな」

 

 クリスの横にウォン・リーが立つ。

 

「今日はこれでおしまいです。来月までに実験機が組みあがります。乗り込んでのテストも開始できるでしょう」 

 

 クリスは一応の上司に報告する。元は研究者だがウォン自身が現場から離れて長い。会長の懐刀としての活動が主で研究室は彼にとってすでに畑違いの現場となっていた。

 

「脳波コントロールとやらもこいつでシミュレートできるのか?」

 

 むき出しのチューブに繋がれたシミュレーターは一人乗り用でモビルスーツのコクピットを想定した造りになっている。

 リズエラはずっとこの中にこもってデータ採取をしていた。 

 

「シンクロテストはすでに合格しています。実験機のフレーム設計にも組み込まれていますよ」

 

 クリス・マリア・ナガノが提唱する、これまでにないマシン構造体ムーバブルフレームを用いた新たなモビルスーツの建造。

 ボディそのものを装甲として組み立てる従来のモノコック仕様ではなく、人体の構造に近い機体骨格と装甲を二分した構造を持つフレームの開発には当初チーム内からの大きな反響があった。

 周囲の反対はこれまでに培った方式を捨ててでも新しいフレームを作り上げることへの強い不安からくるものだった。

 それに加え開発にかかる資金が莫大なものになるという試算もあった。通常の予算では二、三年では済まないだろう。

 

 しかし、それらの反対を押し切ってでもムーバブルフレームにこだわる理由がクリスにはあった。

 すべてはパナマで見つかったモーターヘッド──その謎のマシンの解析チームに参加したクリスだからこそ設計しうる機体。

 それをモビルスーツとして構築し再現することが彼女の目標となった。

 モノコック仕様のボディの強度に頼った開発ではあのマシンの再現には至らないという結論に達してのことだ。

 元の技術体系が異なりすぎることもあって、完全な再現に至らないことを承知しながらも今の形に持っていくことができた。

 反発はあったがわずか半年ですでに実験機の始動にまで漕ぎつくことができたのは優秀なチームがいたこと。

 さらにビスト家の支援。それにテストパイロットであるリズエラの存在が大きかった。

 一つ実験をするたびにリズエラが上げてくるレポートはクリスが分析した数値以上の成果を出した。

 そのすべてが実験機にフィードバックされている。

 

『撃破。終わりました』 

 

 リズエラの声が少し弾んで響いた。バイタルデータは少し興奮気味──

 

「今日はもう終わりだ。出てきていい」

 

 コクピットが開閉し、マンティックスタイルのリズエラが跳ねるようにシミュレーターから飛び出す。

 

「ウォンさん、見てくれました? 五分かかりませんでしたよ?」

 

 飛びつくようにリズエラはウォンの前で自分の成果を報告する。褒めて褒めてとリズエラはオーラ全開である。

 その様を見れば年頃の少女のようにも見えるのだった。

 

「パイロットならできて当然だ。調子に乗るんじゃない」

「くぅ~ん」

 

 いつものように塩対応のウォンさんなのでした(まる)

 

 

 リズエラの前には紅茶のカップと受け皿、ケーキが乗った皿がある。さらにニムエ特製の糖分控えめクッキーまであった。

 

「あむ……んー!?」

 

 その一口は思考を至高の頂へと誘うものだ。甘々口の中でとろけ疲れた脳を癒しの世界へと誘う。

 

「はむ……もぐ……」 

 

 咀嚼し、味わい、飲み込んで、紅茶の味わいを口に含んでリズエラはさらなる風味の世界に浸る。

 

「ふにゃあ……」

 

 しあわせにゃー。

 警戒感ゼロ。お嬢様の仮面もどこかに放り出してリズエラはすっかりご満悦である。

 ウォンはすでにビスト邸に戻っていた。

 その様をずっと観察していたのはクリスだ。本人も残った紅茶を飲み干してソファにくつろいでいる。

 

「クリス主任はお茶のおかわりはいかがです?」

「いや、私は結構だ」

 

 甲斐甲斐しく給仕するニムエは学校から直接工場に来ているので制服姿だ。

 クリスは片手で端末を操作しながら資料をすごい速さで速読している。

 この部屋は工場に設置されたプレハブで、窓から外を見れば工場のむき出しの天井やキャットウォークなどが見える。

 開発主任室という名目だが、実質ここにクリスは住んでいた。

 ビスト邸に住むことをクリスが拒否したため、セキュリティの観点から工場に住むことを自ら希望していた。

 本人いわく、ここは秘密基地なのだとのこと。必要なものは発注すれば届けられるので本人が買い物などに出向く必要はなかった。

 

「リズ様は?」

「はーい、いただきまふ」

 

 甘さにとろけた声で返す姿は外で見せる会長令嬢の姿とは程遠いのだが、糖分、甘いものなくしてリズエラは稼働できない体質であった。

 ニムエもクリスもリズエラのそういう姿にはもうすっかり慣れっこだ。 

  

「来月にはモビルスーツが稼働するのですね」

「うん、これほど早く稼働実験に移れるとは私も思っていなかったよ。これもみんなの熱意とリズのおかげだ」

 

 資料から目を覗かせてクリスが応える。言葉使いは周囲の大人に対するよりもだいぶ砕けたものとなっている。

 女同士ということもあるが、ニムエとクリスの歳はそれほどの差はなかった。

 一二歳で最初の博士号を取得し、一五歳までに三つ目の博士号を得てアナハイムに入社した英才は、実年齢はまだ一七歳と青春真っ盛りのティーンエイジャーなのであった。

 

「うふふ、私のおかげですね~」

 

 ふふん、とリズエラが得意げにカップを口元に運ぶ。おかわりの紅茶は熱々でフーフーして冷ます。

 

「クリス主任はご家族はどちらに?」

「その主任というのはいいよ。クリスと呼んでくれ」

「じゃあ、クリス?」

 

 ニムエが言い直しクリスは頷く。

 

「うん、グラナダにいるよ。私も家を出るまではずっと月に住んでいたんだ」

「そうなんですか」

「だからコロニーに実は住んだことがなかった。月と地球しか知らないからインダストリアル7が初めて居住するコロニーということになる。もちろんほかのコロニーに行ったことくらいはあるけれど」

「でも博士号三つなんてすごいです。私ってばおバカだから勉強は……」

「ここの学校に入学できているということは才能があるからだ。得意な分野を伸ばすことだ。そうすれば必要とされるようになるさ」

「そうですね、私も負けないよう頑張ります」

「私もまだまだ勉強することが多いよ……」

 

 こんな若輩がモビルスーツ開発計画の中枢に抜擢されるなど、アナハイムという巨大な組織でも通常あり得る人事ではなかった。

 当初の周囲の疑念もあって、開発チームとは大いに議論を白熱させたりもしたのだが、今ではクリスの熱意に押されるようにチームもまとまっていた。

 元より集められたメンバーたちは、組織の中で出た杭として打たれ、閑職部署に飛ばされた才能ある技術者たちで構成されていたのだ。

 多少の苦境くらい反骨精神で乗り越える意思を持った若者たちの集団だ。それが意思を一つにして取り組めば、いくつもの技術的な困難を乗り越える力を発揮した。

 マーサが彼らを選び呼び寄せた。その意図がどうであれ、モビルスーツはついに組みあがろうとしている。

 クリスが先ほどまで読んでいた資料にはこのMS開発計画のプロジェクトネームが記載されていた。

 そこには「メサイア計画」と記されているのだった──

俺、ガンダム二次の1シーズン投稿し終わったらFSS17巻と水星の魔女見るんだ

  • 水星の魔女は許す、FSSは許さん
  • FSSは許す、水星の魔女は許さん
  • 両方許されない 二次作を完結するまでな!
  • 好きなだけ堪能していいぞ
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