あなたが私のマスターですか?─RE:I AM─   作:つきしまさん

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6話 RXメサイア─模擬戦─

 宇宙で星が瞬くことはない。暗転とした空は人工の天井だ。そこにきらめく光の点が星のように浮かんでいる。

 ライトバックの光を浴びた巨大な人のシルエットが格納庫に浮かび上がった。エンジンが起動しその唸りを響かせている。

 頭部から伸びた一本の角が光った。

 その下にあるマシンの顔ともいえるフェイスは人の顔を思わせるデザインで印象に残りやすいものだ。

 ほっそりとした腰部分から下に伸びたスカートは段構造でどのような動きにも対応可能な装甲部分となっている。

 唯一異なるのは肩の部分だ。よりコンパクトに腕を動かせるように装甲が変更されている。

 白い機体はどこまでも美しい──

 クリス・マリアのデザインしたマシンはブラッドテンプルの姿を再現された形でそこに立つ。

 

『ミノフスキー粒子散布を開始。通信途絶まであと三秒……』

「ふふん♪」

 

 電子機器が奏でる音を鼻歌で流してリズエラは狭いコクピットの中でリズミカルに指を動かす。

 マシンが伝えてくる振動を呼吸のように感じモビルスーツの感覚を広げていく。

 この空間内でのミノフスキー粒子の散布はそれほど意味はなかった。演習場の内部構造と地形をリズエラは知り尽くしている。

 モビルスーツの実機演習はこれで何度目かになる。

 今日対峙するのは同型機一機のみだ。両機が組みあがってから最初の模擬戦であった。

 

「両機ともスタンバイOKだ」

 

 ミノフスキー粒子が散布されていてもラボラトリ―からの直接のオープン回線は繋がる。行動を開始するまでは会話可能だ。

 

「リズエラ機、機体の「損傷」は深刻か」

 

 シミュレーションでよく使う設定をクリスはいつもの癖で口にする。

 パイロットに負荷をかけていかなる状況にも対応できるようにするのも訓練の一環だった。

 出力を絞ってどれだけ戦えるかのテストも兼ねている。

 

「ジェネレーターバイパスを破損、二八%の出力が低下中。稼働可能な時間は後七分一三秒でーす」

「向こうは武器を持っている。ライフルは模擬用のペイント弾だ」

「当たっても痛くもかゆくもないのってシミュレーターの方が実戦ぽいかもですね」

 

 シミュレーターの方が状況を再現できるというのは皮肉だが、実機である以上パイロットの損耗は避け安全を第一に考えられた。

 リズエラはモビルスーツの一歩を踏み出す。

 全高一八メートルの機動兵器はエンジンと駆動音を暗黒の空間に響かせてその全容を現した。

 モビルスーツの機体骨格は宇宙で最も硬いルナ・チタニウムで構築されている。

 その身を覆う装甲は、骨格に対し防御に有効な部位に施され、従来のモノコック仕様のモビルスーツよりも遥かに軽量化され、機動性を重視された造りとなっていた。

 ムーバブルフレームを採用した機体の設計はあくまでもシンプルな構造体だった。

 後にガンダムで知られるコアファイターを内包したコアブロックシステムとは異なり、分離合体のシステムではない。

 限りなく人に近い骨格構造を持つ、モーターヘッドの姿を模したレプリカだ。

 クリスがこだわり開発チームが全力を挙げて完成させた本物のモビルスーツがここにあった。

 アナハイムのガンタンクやガンキャノンとは設計思想そのものを異にする機体は限りなく人に近い動作が可能だ。

 

「これよりRX-M01、02の模擬戦を開始する」

 

 クリスの宣言をリズエラは聞いていなかった。すでに無線の範囲内から遠ざかっている。

 M01。正式名称をメサイアと呼称するモビルスーツが組みあがるまで実戦と呼ぶには程遠いテストしか行ってこなかった。

 もう一機の実験機M02が完成することでようやく同型機による戦いが実現することとなったのだ。

 Mという単語はメサイアのことだ。

 

 それも大きなハンデ付きだが、テストパイロットであるリズエラは文句の一つも言ったことはない。むしろこのハンデを「楽しんで」いる風でもあった。

 少ない稼働時間も、機体の性能低下も彼女にとっては問題ではなかった。どんな状況であろうが切り抜けることを目的として行動する。

 ミノフスキー粒子によってすべてのレーダーは無力化され、視覚でしか標的を確認できない。

 

 リズエラ機は破壊されたモビルスーツを跨いで戦場となる区画に足を踏み入れる。

 破壊された機体の形状はガンタンクだった。

 模擬戦とはいえ実戦だ。性能の確認のためにいくつものモビルスーツとの実戦をしたが、開発陣の満足を得るようなデータは未収穫だ。

 もう一人のテストパイロットがリズエラの相手をした。

 

「距離五四〇……」

 

 外部からの光は頭上でわずかに反射する光線のみだ。センサーや収音機を使わずに震え伝わってくるもう一機の気配のみでその位置を把握する。

 この区画だけコロニーの設備は凍結され闇の中に世界を埋没させていた。

 モビルスーツが触れる外界の情報をそれだけで判断した。その感覚に間違いがないと確信している。  

 ──ロールアウトして間もない実験機M02のコクピットでもう一人のパイロットが大きく息を吐き出した。

 全身を覆うパイロットスーツは最新式で耐G圧ショックや耐放射線に優れた機能を持っている。この機体の突然の加速にも耐えうる設計となっていた。

 閉じたヘルメットに吐き出した白い息がわずかな膜を作る。

 

「行きます……!」

 

 誰が応えるでもない呟きを吐き出して操縦レバーを前進に押し出してモビルスーツは格納ベースから前に踏み出した。

 背後でシャッターが閉まる音を聞きながらM02は武器であるライフルと模擬専用のハンマーを携えて戦場に飛び出すのだった──

 

 

 ピピピ! とけたたましい音を立てて目覚まし時計が起床を告げた。

 起きない主のそばで丸い物体が声を上げる。

 

「アムロ! 起きろ! 起きろ!」

「うるさいよ、ハロ……」

 

 目覚ましハロを蹴飛ばしてアムロは目覚めた。朝の光が窓から差し込んでその眩しさに目を細める。

 すぐに意識の焦点は現実に合わせて明確になった。

 

「ふわ……お腹減ったな……ん?」

 

 空腹を感じて部屋から出ると父テムの部屋の戸が少し空いていた。昨日帰って来た時も開けっ放しだったような気がする。

 明かりもつけっ放しだった。

 

「いいぞ、悪くない動きだ……」

 

 覗いた向こうにテムの背中が見えた。その手に持つのは機械の腕だ。ほぼ人の腕と同サイズでテムが手元の機械で操作している。

 

「何してんだ?」

 

 マシンの指がとても滑らかに動く。

 玩具? かと思ったがそのマシンの腕は無骨すぎる。片腕だけのようだ。

 機械をいじるのはアムロも同じだが大人が玩具で遊んでいるようにしか見えない。

 

「アムロ、勝手に部屋を覗くんじゃない」

 

 アムロの気配に気が付いてテムが振り向いて言った。

 

「鍵をかけてないのは父さんじゃ……それにもしかして寝てないの?」

 

 テムはシャツにスラックス姿だが目の下にはクマが見えた。

 徹夜明けの顔というのはこのところ珍しいものではなかった。

 

「学校はどうした?」

「今日は休みだよ。ボク、お腹減ったんだけど……」

 

 食事の用意を期待したことはないが催促はしてみる。

 

「私はいい。冷蔵庫に買いだめがあるから温めて食べなさい」

「わかったよ父さん。夜更かしはできるだけしないでね」

 

 アムロなりの親への気遣いである。

 

「わかっているさ」

 

 返事を返すテムがこちらに興味を向けないことを見て戸を閉めた。

 アムロは一階に降りて朝食の準備をする。Tシャツに短パン姿だが家の中での格好を気にしたことはない。

 

「コロニー開発の仕事にあんなの使うのかな? 人型のマシンならモビルワーカーかな?」

 

 アムロなりに納得できる理由を探した。ただの趣味であんなの使うのかな? と思いながら。

 テムが仕事の話をすることはあまりないが、アムロにはコロニー開発事業の仕事をしていると教えられていた。

 コロニーのことにはまるで興味はなかったので、アムロからも仕事の内容について父に尋ねたことはほとんどない。

 

「まったく……どっちが子どもなんだか。子どもほったらかして機械の腕で遊んでるんだぜ、ハロ」

「ハロ!」

 

 ハロがアムロの愚痴に返事を返す。

 

「食べたらもうひと眠りするかな……」

 

 パンに焼き卵とベーコンを挟んでかぶりつくのだった。

 

「これより記録を開始する……」

 

 徹夜の疲労感も寝不足もテムにとっては問題外である。彼の頭には機動兵器モビルスーツのことしかないのだ。

 何か月という歳月をそれだけに費やしてきたといってもいいくらいだ。彼を突き動かす原動力となったのは一枚のディスクが発端だ。

 未知のマシン「モーターヘッド」の解析現場を目にしたのだ。テムがこれまで手掛けてきたモビルスーツ事業は何の価値もないものとなってしまった瞬間であった。

 あれ以来、テムは求めるもののために時間を惜しんで新型モビルスーツの創案を考え続けてきた。

 

「稼働可能な部位が増えることで制御システムを再構築したが、このプログラムには難がある。アナハイムの従来のモビルスーツの管制システムでは人間に近い、それ以上の速さを持つ動きを制御するには足りないのだ。あくまでも人間の反応速度に追随してサポートするコンピュータだからだ」

 

 教育コンピュータは光結合回路を使用した非ノイマン型コンピュータだ。学習型コンピュータとして非常に優れており、アナハイムが生産するモビルスーツにはすべて搭載されていた。

 操縦者の動きを覚え、動作プログラムを更新し続けることが可能だ。正確にマシンを動作させるシステムとしてなくてはならないものとなっている。

 人の動きの一歩先を行くが、テムが求めているのは二歩も三歩も先を行くサポートマシンであった。

 

「動態制御をサポートするための新たな管制システムを再構築する。パイロットの意思を実現するため教育コンピュータと連動したものが必要だった。その回路は、人の意思を伝達するシナプスの微弱な電流を察知し読み取る機能を有する」

 

 学習コンピュータに脳波コントロールの概念を加えたシステムがテムの考える新たなプログラムであった。

 テムの考えるモビルスーツは駆動系制御に重点を置いたものとなっている。

 ボディは従来のコアブロックシステムを採用することになるが、モビルスーツの機動性を引き出すことでより戦術的な動きが可能となるはずだ。

 

「システムのアップデート方法も教育型コンピュータの学習機能に準ずるが、データにはない動作を覚えさせるにはパイロットによる操作が必要である。データ通りの動作に不満を持つ場合も、自身が操縦してデータを修正する必要があった。が、この回路を実現させれば、機体は覚えた動きをパイロットの脳波指示で受け取り自由な変形を可能とし常にアップデートし続ける」

 

 テムはモニタの中にあるデータ群から仮想構築したマシンを呼び出して作動させる。

 ガンダム──テムが名付けたモビルスーツの名称。

 

「私は脳科学の専門家にいくつもの設問をし、この回路が人体に与える影響を最小限に留めることを考慮しつつ脳波読み取りの機能と教育コンピュータとの連動を可能にする回路を研究した。憂慮すべき点は人の脳に与える影響である。モビルスーツが受けとる外部の情報が人体に影響を及ぼすことがあってはならない。シナプスへの電流実験では悪影響は確認できていない。しかし感受性が強い人間がどのような影響を受けるのか、そのサンプルは取れていない。被験者としての私の見解を述べた」

 

 その装置もテムの手作りである。頭に着けているヘッドギアは実験のためのものだ。

 シナプスに微弱な電流を与えてスムーズに腕を動かす実験はうまくいっている。

 しかしそれがモビルスーツほどの大きさのものを動かすのにどれだけの資金を費やすことになるのか、その予算を確保できる目途は立っていない。

 首脳陣を納得させるだけのデータが必要であった。 

 

「ストップ。撮れたかな……再生」

 

 寝不足の震える手で録音を再生する。そのときテムの足元に何かが当たった。

 見ればハロがいる。 

 

「ん? 玩具か……アムロめ管理を怠っているな」

「ハロ!」

 

 ハロが返事を返すがテムは再び録音ボタンを押した。

 

「難点は教育コンピュータに直接回路を取り込んだ場合の問題だ……その実証までに外部アセットによる取り外し可能な回路とすることが望ましい。コアブロックシステムもそうした機密保持の観点から作られているが、不具合が生じた場合の対処法としてパイロットがそれを管理する。あくまでも実験データを採集するまでの繋ぎとして扱う。教育コンピュータと同じシステムに組み込めると判断できるまでということだが……」

「ハロ?」

「外部アセットか……持ち運び可能なツール……うむ、ちょうどよい大きさだな」

 

 ハロを見下ろすテムの目があやしい輝きを帯びるのだった。

 

 

 テム・レイがモビルスーツへの野望を燃え上がらせている頃、インダストリアル7で行われた模擬戦はリズエラの勝利で終わっていた。

 

「いたた……」 

「動くな、きちんと貼れないだろう」

 

 パイロットスーツを半ば脱いでハンガーデッキにいるのは赤い髪のニムエだ。  

 

「クリス、あざになってませんかー?」

「痕は残らないから心配はいらん」

 

 クリスがシップを痛めた場所に貼り付けてニムエが小さな悲鳴を上げる。

 

「わかってても負けるのは悔しーですー」 

 

 見上げれば格納ベースに収まった二体のRX-Mが並んでいる。模擬戦を終えて今日の仕事は終わりである。

 M01の開いたハッチからひらひらした服のリズエラが姿を現して昇降機で降りた。その無駄のない動作をニムエは目で追っていた。

 モビルスーツ戦でリズエラはパイロットスーツを身に着けたことがない。

 リズエラの体質に合うスーツは本人があまり好いてないこともあって免除されていた。宇宙空間ではさすがに着なければまずいのだが。

 リズエラは華麗に降り立つとクリスらがいる方へ歩いてくる。

 

「まったく情けない。手も足も出ずに撃破されるとは。それでも選ばれたパイロットか?」

 

 敗戦したニムエにウォンが容赦ない。まるで期待外れという発言だが、ウォンの態度はいつものことだ。

 ビスト側が用意したテストパイロットとはニムエのことであった。

 メサイア二号機が組みあがるまでの間、ガンタンクやガンキャノンで模擬戦を行っていたのもニムエだ。

 モビルスーツの操縦技術は初めのころに比べたら格段に上がっている。

 リズエラの戦闘シミュレーションを元に訓練を繰り返し、今やテストパイロットとして十分な力量を持つまでに成長していた。

 それでもリズエラに勝てる要素はまるでなかったのだ。

 

「ニムエは善戦した。接敵してから一七秒持ちました」

「テストの結果が不甲斐ないと言っているのだ。何のための模擬戦だと思っている? まだシミュレーターの方がマシではないかね?」

「ふええ……」

「よしよしです。よくできました」

 

 ウォンの辛辣なセリフにニムエが涙ぐんでリズエラが慰める。

 戦闘を開始して三分足らずでリズエラ機は無手の状態でニムエ機を撃破している。

 接近戦用の腕に仕込んだ衝角槍がメインカメラである頭を潰し、左腕部を関節技で破損させていた。

 

「あそこまで鮮やかに格闘戦を決められては、武器を持っている方が不利だったというのは確かに参考にはならないな。だが通常のパイロットの反応速度であれば十分な対応をしている。ニムエ、ご苦労様」

「はい、博士」

 

 渡されたコーヒーのカップをニムエが受け取る。敗北のショックは少し和らいでいた。

 他の誰かに負けたのであれば悔しいが、リズエラ様であるのなら仕方ないことなのだ。

 

「そうだ、リズ。この後は研究所に行くのだろう?」 

「はい、今日はたくさん検査をする日です」

 

 クリスに答え、ちょっと苦手な行事にリズエラは眉を寄せた。何せあそこは「甘く」ない。

 

「文句を言うな。これも仕事と思え」

「はーい」

 

 ウォンにすねるようなリズエラの返事が返る。

 ファティマという存在を維持するには莫大な費用と管理するための設備を必要とした。

 そのアレルギー体質から来る身に着けるモノへの制限は最低限の保障に過ぎない。

 劣性遺伝の塊であるリズエラの肉体を維持するための遺伝子的な治療、予防に対応するための研究所が作られた。

 不老の肉体を持ち、人間をはるかに上回る身体能力、知能とマシンに対する親和性を持つリズエラはアナハイムとビストの共同財産として扱われている。

 インダストリアル7に秘密裏に作られた遺伝子研究所はリズエラのために設立されたといってよい。

 表には決して明かされない秘密機関なのだ。

 それは同時にリズエラの研究を進めることでファティマという存在の謎に挑んでいるのだ。

 その指揮を執っているのがマーサ・ビスト・カーバインであった。

 メラニー会長からの信頼とビスト総帥である兄からの協力を取り付けてこの研究所は成り立っている。

 

 それをリズエラは必要なことと理解はしているが、苦手なこととして認識していた。マーサに対する個人的な苦手意識もそれを手伝っている。

 

 人に無条件に従うことをダムゲートというマインド・コントロールの手段によってプログラムされているのがファティマだ。

 しかし、リズエラのダムゲートは変調の兆しを見せて記憶を喪失させるという事態に陥らせている。

 通常のファティマよりも感情豊かな表現をするのは、ファティマという存在からすればすでに異常なことであったのだ。

 本来、騎士しか主と認めないファティマがウォンをマスターとして認識していることがまさに異常性の顕著な例である。

 それを治し、正すことのできる医師はこの世界には存在しない。

 

 宇宙世紀におけるマインド・コントロールの技術はいまだ未知数の分野であり、人の心を精神崩壊させることなく操作できる域には達していない。

 後にニュータイプを人工的に生み出すという目的のためにその技術は発展し、強化人間という存在を生み出すこととなるのだが、この時代におけるマインド・コントロール技術はいまだ未完成なものであった。

 精神的に不安定になりがちなリズエラをファティマの完成体に近い状態に維持することは、彼らにとって目下差し迫ったことであった。

 マーサが指揮する遺伝子研究所は、後の強化人間開発の礎となる基本研究ともなるのだが、今はまだそれを語る時期ではない──

 

 

 メガラニカ最深部──一人の老人が冷凍催眠用のベッドに横たわっている。天井には地球の姿が映し出されていた。

 リアルタイムな地球の姿だ。通常ならばサイド5から遠く離れた地球をリアルタイムで見ることは難しい。

 だがそれをこのメガラニカの真の主は可能とする。サイアム・ビストが世界中に張り巡らせた光のネットワークであった。

 伸びた髪はすべて真っ白で額に金属の輪をはめている。自らの意思を伝達することで電子的な操作を可能とするリングだ。

 寝ながらにしてこの施設内の設備をそれで操作することができた。

 齢いくつなのかもわからぬその肉体は痩せて、もはや自らの力で起き上がることもままならない。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    

 しかし、サイアムは世界中で更新されるあらゆる情報を手にすることができるのだ。

 

「カーディアスか……」

 

 顔を空に浮かぶ星に向けたままサイアムはその名を呼んだ。

 

「おはようございます。お爺様」

 

 ビスト家の現当主カーディアス・ビストが枕元に立つ。

 

「これで何度目の目覚めであったか──」

「冷凍催眠装置に何か問題でも?」

「いや、寝ている間は私は何も感じることもない。故障があったとて気が付くこともなく朽ちていよう」

「ここのシステムは完璧です、故障はあり得ません」

 

 すでにサイアムの齢は九〇を越えている。

 冷凍催眠装置を使って寿命を延ばし時間を稼いでいるのは生への未練ゆえか、それとも過去への悔恨からくるものか──

 

「そうだな……例の娘はどうしている?」

「すでに実験機の起動に成功し二号機もロールアウトしています。実験機同士の模擬戦も行いました」

「モビルスーツか……」

 

 カーディアスが見せる資料にその姿がある。

 

「この時代にまた人は人の姿を模した兵器で争おうとしている。人が求める本能の性か……それが人の希望を実現しうる力となるものであろうか?」

「メサイア計画。人類を救う救世主を生み出す力となるものですか?」

「あれはメラニーの肝いりだ。あの男の望みはユダヤ・シオニズムの実現。地球からすべての人類を宇宙に引き上げたいのだよ」

 

 サイアムはアナハイム会長メラニー・ヒュー・カーバインという男の野心を言い当てる。

 リズエラを保護し、モビルスーツ開発の礎にしたのもその目的のためである。それはメサイア──救世主計画という名からも明らかだ。

 しかしビストがリズエラを庇護下に入れたのはメラニーの意思とは違う理由からだった。

 

「そして理想郷を築くと? すでに宇宙は空に上がった人々が築いたシステムによって運営され、地球のシステムと相反し摩擦を生んでいます。メサイアが世界を切り開く新たな息吹となりえるのでしょうか?」

 

 宇宙に棄てられた人々。

 スペースノイドと地球のアースノイドたちの軋轢。それはもはや抑えられぬ力となっていつか爆発しようとしていた。

 その胎動をカーディアスは感じ取っていた。沈黙を続けるサイド3の動向は気になるところだった。

 人々が新たな世界に求める希望とは──

 

「わからぬ……だが、異なる宇宙より飛来したモノが変革をもたらすきっかけとなりうるものかもしれん。人類はいまだに革新を経ていない。未熟な世界の行く末を導く光であってほしいという願望なのだよ」

 

 天井に浮かぶ星を見つめながらサイアムは願いの言葉を吐き出す。

 

「ニュータイプの出現を促すものとなる、と?」

「そう望む者が未来へと踏み出そうとしている」

「それが戦争を生むモノであろうとですか?」

「我々がアレと遭遇し回収に至ったことは時代が求める一つの流れではないかと思う」

「では会いますか? 彼女に」

「リズエラ・カーバインか。いずれその時が来よう……」

 

 そう告げてサイアムは目を閉じるのだった。




アニメなら3話程度までの展開を終了(´・ω・`)

俺、ガンダム二次の1シーズン投稿し終わったらFSS17巻と水星の魔女見るんだ

  • 水星の魔女は許す、FSSは許さん
  • FSSは許す、水星の魔女は許さん
  • 両方許されない 二次作を完結するまでな!
  • 好きなだけ堪能していいぞ
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