『知覚同調』。
それはある血族の間でのみ伝えられていた、”異能”の力を再現したものだ。
その原理を一言で伝えれば、人間の集合無意識……いうなれば意識の根源に接続する事で、同じくそれにつながった別の意識との繋がりを持つ、というものだ。
いうまでもなく、集合無意識等というものに、人間は本来、接続する術を持たない。かつての異能を保有していた者達も、あくまで近しい者との接続に限られたものだったという。
それが、対象を択ばず広範囲に、というのは、果たして技術力の高さ故なのか? それとも、無知故に成しえた偶然の産物なのか?
それに答えを出せる存在は、もはや物理世界に存在しない。ただ言える事は、例えどちらであってでもその技術は極めて高い技術によって生み出された産物であり、そして間違いなく、その事象は完全に解明されていないという事だ。
人間の集合無意識が、どこにあるのか。否、”在る”という概念が当てはまるものなのかすら、人類の認識は把握できないでいる。
”そこ”には、空間の広がりどころか、時間の流れさえ存在するのかどうかもわからない。量子学ですら、当てはまるかどうか。
前置きが長くなった。
つまり、何を語るべきかというと。
何が起きてもおかしくはない、という事である。
その日、共和国の知覚同研究所である事故が起きた。
ある新人の配備に向けた簡単な、適正テスト。その最中に、機材が異様な反応を示したのだ。その結果、接続していた新人は、神経系に大きなダメージを受けた。
重篤な事故である。常識的に考えれば、知覚同調の今後の運用に差し支えかねない。とても危険な、事故だった。
だが、その事故は隠匿された。
他ならぬ、その被害者の請願によって。それによって知覚同調は表向き何の問題もないまま、密かに原因の探求が行われる事となった。
だから当事者達以外、その事を知る者はいない。
それが意味する事を、理解する者はいない。
死神の仮面をつけた、一人の少女を除いては。
「レーナ」
誰かが、呼んでいる。
「レーナ」
低くて、感情を抑えた……でも、とても優しい声。
父ではない。だけど、愛情をこめて、私を呼ぶ誰か。
「レーナ」
誰なの?
私は、その声の方へと手を伸ばして……。
『レーナ』
飛び起きるように、目を見開く。
窓の外からは、薄く朝日が差してきている。早朝の、冷たい空気が嫌に肌に冷たかった。
もはや慣れつつある、悪夢からの目覚め。毎夜毎夜、レーナを闇の向こうから呼ぶ声にこうしてベッドから飛び起きるのが、もはや日常となりつつある。
街はまだ眠っていて、鳥の声が僅かに聞こえているだけ。なのに耳の奥に、冷たい機械仕掛けの呼び声が、まだこびりついているような気がする。
知らない誰か。知らない声。なのに。
「……誰なの」
涙は、とっくの昔に涸れ果て、一筋も流れなかった。それでも。
顔を伏せて、ヴラディリーナ・ミリーゼは、知らない誰かを思って、悲しみを零した。