ファンファーレが鳴ると、出走者達はゲートの前に集まり、一人ずつゲート内に入っていった。
カネツもルソーもロイスもタイアップも、ややゲート入りに難があるシグナルも、スムーズにゲート内に入っていった。
11人全員無事にゲートに入り、発走の準備は整った。
『第44回日経賞、スタートです!』
場内実況の声と共に、スタートが切られた。
ポーンと好スタートをきったのはカネツとシグナルで、それぞれスタート直後から1、2番手につけた。
タイアップとロイスは中段、ルソーは後方につけた。
「お、シグナル良いスタートを切ったな。」
『フォアマン』の応援席。
双眼鏡でスタートを観ていたトレーナーは、よしと頷いた。
シグナルはよくスタートで失敗し、焦ってかかる癖があったのだが、今回は好スタートをきれた。
そのまま落ち着いて、好位置につけてレースを運べよー。
一方のルソーは…彼女もしっかり後方待機で進めている。
二人ともいい感じだ。
「出だしは上々ですね。」
ケンザンとオフサイドも、良い手応えを感じていた。
そのまま、レースは3コーナーから4コーナーを周り、1周めの直線に入ってきた。
先頭はカネツ、2番手にシグナルとテンジン、タイアップとロイスが中段で、ルソーはやや後方といった展開。
「シグナル先輩ー!ルソー先輩ー!頑張れー!」
コンコルドとタッチが、直線に入ってきた先輩達に元気よくエールを送った。
「シグナル、ルソー、いい感じだぞー!」
「落ち着いていけよー!」
トレーナーやケンザン、オフサイドも声援を送った。
ブライアンとローレルは黙っていたが、無言の声援を送っていた。
他に、
「タイアップ先輩ー!」
「カネツ、折り合いつけていけよー!」
他チームによるメンバーへの声援も賑やかに聞こえた。
「頑張れー!」
「いけー!」
数万の観客も、一周目を迎えた出走者達に大きな声援を送り出していた。
場内が盛り上がってきた、その時。
ボキッ
出走者の駆ける音と声援が沸き起こる中で突然、乾いた鈍い音が大きく響き渡った。
その音は、数万の観衆の耳に、声援を送るウマ娘達の耳に、『フォアマン』のメンバー全員の耳にもはっきりと聞こえた。
そして、ターフを走っている出走者の耳にも。
その音は、場内にいる人間・ウマ娘の殆どが、初めて耳にする音だった。
だがそれが、このターフの世界で最も聞きたくない音だということは、誰もが無意識に分かっていた。
一瞬、場内が静まりかえった。
そして次の瞬間、
「あっ…あああっ!」
断末魔に似た悲痛な絶叫が、ターフから場内に響きわたった。
誰⁉︎
後方待機のまま直線に入ったルソーも、その乾いた鈍い音をはっきりと聞いた。
初めて耳にした、ウマ娘にとって最悪を予感させるその音に、戦慄が走った。
次の瞬間、前方から聞こえた絶叫と、突然脚を止めたウマ娘の姿が、眼の前に飛び込んできた。
シグナル⁉︎
愕然とした。
眼を疑った。
だが、苦痛にもがきながら競走を中止したそのウマ娘は、紛れもなくシグナルライトだった。
そして、明らかに重度の骨折をした彼女の左脚が、視界にはっきりと飛び込んだ。
そんな、嘘でしょ⁉︎
信じ難い悲痛な思いの中、ルソーは競走中止したシグナルのすぐ傍を、他の出走者達と共に眼を瞑って駆け抜けた。
これはレースだ、ウマ娘のレースだ。
止まりたくても、止まるわけにはいかなかった。
「…痛いっ…ううっ…あああっ…」
駆け抜ける刹那、苦痛にもがくシグナルの叫びが、ルソーの耳にはっきりと響き渡った。
『レースは一周目のホームストレッチであります。先頭はカネツクロスで4バ身程のリード。2番手にテンジンショウグンとシグナルライト…おっとシグナルライト…シグナルライトどうした⁉︎シグナルライト故障発生です!シグナルライト故障!ああこれはっ…これは…シグナルライト競走中止です!』