1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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青信号の悲劇(2・過去話)

 

ファンファーレが鳴ると、出走者達はゲートの前に集まり、一人ずつゲート内に入っていった。

カネツもルソーもロイスもタイアップも、ややゲート入りに難があるシグナルも、スムーズにゲート内に入っていった。

 

11人全員無事にゲートに入り、発走の準備は整った。

『第44回日経賞、スタートです!』

場内実況の声と共に、スタートが切られた。

 

ポーンと好スタートをきったのはカネツとシグナルで、それぞれスタート直後から1、2番手につけた。

タイアップとロイスは中段、ルソーは後方につけた。

 

 

「お、シグナル良いスタートを切ったな。」

『フォアマン』の応援席。

双眼鏡でスタートを観ていたトレーナーは、よしと頷いた。

シグナルはよくスタートで失敗し、焦ってかかる癖があったのだが、今回は好スタートをきれた。

そのまま落ち着いて、好位置につけてレースを運べよー。

一方のルソーは…彼女もしっかり後方待機で進めている。

二人ともいい感じだ。

「出だしは上々ですね。」

ケンザンとオフサイドも、良い手応えを感じていた。

 

 

そのまま、レースは3コーナーから4コーナーを周り、1周めの直線に入ってきた。

先頭はカネツ、2番手にシグナルとテンジン、タイアップとロイスが中段で、ルソーはやや後方といった展開。

 

「シグナル先輩ー!ルソー先輩ー!頑張れー!」

コンコルドとタッチが、直線に入ってきた先輩達に元気よくエールを送った。

「シグナル、ルソー、いい感じだぞー!」

「落ち着いていけよー!」

トレーナーやケンザン、オフサイドも声援を送った。

ブライアンとローレルは黙っていたが、無言の声援を送っていた。

 

他に、

「タイアップ先輩ー!」

「カネツ、折り合いつけていけよー!」

他チームによるメンバーへの声援も賑やかに聞こえた。

「頑張れー!」

「いけー!」

数万の観客も、一周目を迎えた出走者達に大きな声援を送り出していた。

 

 

場内が盛り上がってきた、その時。

 

 

 

ボキッ

 

 

出走者の駆ける音と声援が沸き起こる中で突然、乾いた鈍い音が大きく響き渡った。

 

その音は、数万の観衆の耳に、声援を送るウマ娘達の耳に、『フォアマン』のメンバー全員の耳にもはっきりと聞こえた。

そして、ターフを走っている出走者の耳にも。

 

その音は、場内にいる人間・ウマ娘の殆どが、初めて耳にする音だった。

だがそれが、このターフの世界で最も聞きたくない音だということは、誰もが無意識に分かっていた。

 

一瞬、場内が静まりかえった。

 

そして次の瞬間、

「あっ…あああっ!」

断末魔に似た悲痛な絶叫が、ターフから場内に響きわたった。

 

 

 

誰⁉︎

 

後方待機のまま直線に入ったルソーも、その乾いた鈍い音をはっきりと聞いた。

初めて耳にした、ウマ娘にとって最悪を予感させるその音に、戦慄が走った。

次の瞬間、前方から聞こえた絶叫と、突然脚を止めたウマ娘の姿が、眼の前に飛び込んできた。

 

シグナル⁉︎

 

愕然とした。

眼を疑った。

だが、苦痛にもがきながら競走を中止したそのウマ娘は、紛れもなくシグナルライトだった。

そして、明らかに重度の骨折をした彼女の左脚が、視界にはっきりと飛び込んだ。

 

そんな、嘘でしょ⁉︎

信じ難い悲痛な思いの中、ルソーは競走中止したシグナルのすぐ傍を、他の出走者達と共に眼を瞑って駆け抜けた。

これはレースだ、ウマ娘のレースだ。

止まりたくても、止まるわけにはいかなかった。

「…痛いっ…ううっ…あああっ…」

駆け抜ける刹那、苦痛にもがくシグナルの叫びが、ルソーの耳にはっきりと響き渡った。

 

 

『レースは一周目のホームストレッチであります。先頭はカネツクロスで4バ身程のリード。2番手にテンジンショウグンとシグナルライト…おっとシグナルライト…シグナルライトどうした⁉︎シグナルライト故障発生です!シグナルライト故障!ああこれはっ…これは…シグナルライト競走中止です!』

 

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