1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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非情で自己中なウマ娘(1)

*****

 

…ん。

目を開けると、カーテンの隙間から眩しい朝日が目に入った。

 

時計の針を見ると、8時になろうとしている。

丁度いいな…

ふあっと欠伸を漏らすと、オフサイドトラップはベッドから起き上がった。

 

 

洗面をし、軽く朝食を摂って、制服に着替えたオフサイドが学園寮を出たのは8時半過ぎ。

既に遅刻は確定だが、彼女は最近敢えてこの時間帯に登校していた。

 

やがて駅に着き、ホームで電車を待っているオフサイド。

冬の朝らしい澄んだ空気と対照的に、彼女の表情にはあまり生気がなかった。

眼の光も雨雲のように暗いし、ウマ娘らしい身体の張りも殆どなく、まるで病人ように元気がない。

まさか彼女が、全ウマ娘の夢である天皇賞制覇を成し遂げだウマ娘だとは、彼女を知る者以外では誰一人として思いも気づきもしないだろう。

いや、気づかない方がいい。

今のオフサイドにとってはそれが一番望ましい。

もし気づいたとしたら…

 

ポトッ。

突然、電車を待っている彼女の足元に、丸められた紙が転がってきた。

「…。」

飛んできた方を振り向かず、オフサイドはそれをそっと拾い上げ、広げてみた。

“冷血ウマ娘”

「…。」

無言でそれを傍らのゴミ箱に捨てると、オフサイドは到着した電車に乗り込んだ。

 

電車に乗ってる最中、オフサイドに対しては周囲から幾つもの視線がぶつけられていた。

ウマ娘はその姿格好からして目立つ。

おまけに、オフサイドは有名ウマ娘(*****)だ。

といって、彼女に集まる視線は羨望や憧れではなく、敵意と侮蔑だったが。

 

やがて、トレセン学園前の駅に着いた。

電車を降り改札口を出ると、彼女の姿に気づく人間と視線はより多く強くなった。

「…みて、あのオフサイドよ」

「うっわ、こんな遅くに登校なんて、さすがエゴイストは違うね〜」

「…冷血ウマ娘。いつになったら学園辞めるのかな…」

コソコソした罵声も聞こえる。

「…。」

ずっと無表情だったオフサイドは早足になり、両耳を閉じながら学園へと急いだ。

 

 

学園に着くと、オフサイドは校舎へは向かわず、チーム『フォアマン』の部室へと向かった。

 

部室に着くと、ほんのり香るコーヒーの匂いに首を傾げながら、どさっと椅子に腰を下ろした。

ふーと大きく吐息をすると、額から滴り落ちていた汗を拭い、死んだように眼を瞑った。

 

しばらく経った後、眼を開けたオフサイドは鞄を開け、ある物を取り出した。

それは、第118回天皇賞の盾だった。

彼女はずっとその盾を、自分のもう一つの生命のように、常に身近に携帯していた。

 

苦しいな…苦しいよ。

盾を胸に抱きしめながら、オフサイドは胸の中で呟いた。

なんで、なんでだろう?どうしてこんなに苦しいの?

私が求めていたものは、何よりも欲していた栄光は、こんなものだったの?

 

彼女の瞳の奥には、もう涙すら失われていた。

 


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