1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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非情で自己中なウマ娘(2)

 

第118回天皇賞・秋のレース後。

 

ニュースや報道の内容は、サイレンススズカの故障一色に染まった。

意識不明のまま救急搬送されたスズカは命も危険なほどの容態になっており、終夜を通して必死の救命治療が行われた。

世間では、彼女の容態に関するニュースが四六時中報道された。

ウマ娘ファンでなくとも、この大スターの存在を知らない人間はいなかった。

全ての者が彼女の悲劇に悲嘆し、その無事を祈り続けた。

 

そして数日後、予断を許さなかったスズカの容態が落ち着き、命は助かったという発表がされた。

また、再起不能も避けられるかもしれないという発表もあった。

そのニュースは速報や号外でいち早く世間に伝えられ、人々はその朗報に安堵し、涙し、歓喜に沸いた。

 

スズカ容態安定のニュースで、世間全体がショックから少しずつ立ち直り出すと同時に、人々はあの天皇賞の回顧を始めた。

 

*****

 

スズカの容態安定ニュースから数日後の朝。

 

トレセン学園『フォアマン』チームの部室では、オフサイドとゴールドと仲間《チームメイト》達が、天皇賞・秋のレースを回顧する報道紙・雑誌・専門誌を集め、皆でその内容を調べていた。

 

「うーん…。」

回顧内容に目を通す仲間達は皆、戸惑った表情を浮かべていた。

何故ならその内容は、似たようなものばかりだった上、勝者であるオフサイドの名が殆ど見当たらなかったからだ

〈スズカは故障しなければ10バ身以上の差で勝っていたとの専門家の分析〉

〈完走してればレコード勝ちは確実だったスズカ〉

〈メンバーからしても、スズカが負ける訳ないレース〉

〈最高の仕上がりだったスズカ。故障までは毎日王冠以上の内容だった〉

〈優勝タイムは平凡。故障がなければスズカが間違いなく千切って勝っていたとトレーナーの分析〉

〈沈黙の日曜日…偉大な歴史の誕生は大欅の向こう側で消える〉

〈稀代の神速ウマ娘に待っていた悪夢。夢のレースは幻に〉

〈ファンも無念!スズカの為にあったレースが悲劇に〉

 

「オフサイド先輩の名前、どこにもありませんね…。」

報道紙を片っ端から調べていた仲間の一人が、溜息を吐いた。

スズカの故障でしばらく天皇賞の回顧はされないのは当然だと理解していたが、ようやくされ始めた回顧の内容がまさかここまで極端だとは予想してなかったようだ。

「いくらスズカさんが注目されてたと言っても、オフサイド先輩やゴールド先輩のこと無視し過ぎじゃない?」

「勝者はオフサイド先輩なのにー。」

オフサイド先輩の勝利を称える記事を楽しみにしていた後輩の仲間達はかなり残念がっていた。

「…。」

紙面の一つ一つに眼を通しているオフサイドの表情も冴えてない。

 

その傍ら、ゴールドは一部のレース回顧の内容にかなり表情をしかめていた。

〈スズカの故障により、天皇賞はG2レベルのレースへ〉

〈スズカ故障後、天皇賞の残骸レースの勝者はオフサイドトラップ〉

〈史上最も悲鳴と嘆きに満たされた天皇賞の覇者はオフサイドトラップ〉

〈結果的な勝者はオフサイドトラップだが、この天皇賞には価値がない〉

〈スズカの悲劇は永遠に忘れまいが、この天皇賞の勝者は誰も覚えないだろう〉

いくらなんでもこれは酷過ぎないか?

先輩や私に喧嘩売ってんのかしら。

ゴールドは思わずその紙面を破り捨てたくなった。

 

と、その時、部室をノックする音が聞こえた。

扉を開けてみると、驚いたことに外には多くの報道陣が集まっていた。

「オフサイドトラップはいますか?」

「はい!」

訪れた報道陣とその数を見て、一瞬オフサイドの表情は綻んだ。

…ようやく栄光への取材が来たか。

彼女だけでなく、ゴールドも他の仲間達もそう思った。

 

ところが、ドタバタと部室内に入って来た報道陣の質問は、そんな願望を砕いた。

「オフサイドトラップ、優勝インタビューで“笑いが止まらない”と発言してましたが、あれはサイレンススズカが怪我したことに対してですか?」

 

「…はい?」

オフサイドもゴールドも仲間達も、呆気にとられた。

「…そんなわけ」

オフサイドが答えるより先に、他の記者達から次々と質問が殺到した。

「スズカの怪我を喜んだのですか?」

「スズカの故障、気分良かったそうですね?」

「あんなレースで勝って笑いが止まらない、それはウマ娘としてどうなんですか?」

「スズカの強さに嫉妬して、怪我を願ってたのでは?」

「非情で自己中ですね。良心とかないんですか?」

「スズカの故障に笑った理由を聞かせてください!」

「悲しみにくれていた全国の人々に謝罪しろ!」

 

質問をぶつけながら、報道陣は一気に部室になだれこんできた。

呆然としていたオフサイドの姿は、怒涛のように押し寄せた報道陣の群れにあっという間に覆い包まれた。

「うわっ、何⁉︎」

「危ない!」

ゴールドや他の仲間達はその群れに押しのけられ、身の危険を感じ全員が部室の外へ逃れた。

 

「…何これ?」

「…どうなってるの?」

レース回顧の内容に続き、常軌を逸した突撃取材の群れを目の前に、チーム仲間達は呆然と立ち竦んでいた。

「…。」

ゴールドも同じように呆然としつつ、あの天皇賞の時を思い出していた。

優勝インタビュー中に場内の大観衆を包んだ、悪寒が走る程のどよめきを。

 

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