1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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非情で自己中なウマ娘(3)

*****

 

「先輩、オフサイド先輩。」

 

呼びかける声と同時に肩をポンポン叩かれる感触を感じ、オフサイドはハッと眼を開けた。

盾を抱いて座ったまま、いつのまにか彼女は眠ってしまったらしい。

オフサイドを起こしたのはゴールドだった。

「おはようございます、先輩。」

「…おはよう。」

「休むのはいいですけど、寒い中で寝たら風邪をひきますよ。」

言いながらゴールドは着ていたコートを脱ぎ、オフサイドの肩に被せた。

 

「今、何時かな?」

「2時限目が終わって休憩時間のところっす。先輩が来てるかと思って、ウチここ来たんすよ。はい、先輩これ。」

答えながら、ゴールドは温めなおしていたコーヒーを淹れ、彼女に差し出した。

「…いらない。」

「ライス先輩からの差し入れです!」

ゴールドはぐいっと差し出した。

 

「…。」

オフサイドは黙って受け取ると、コクっと一口飲んだ。

…苦、ライス先輩らしい苦みの濃いブラックコーヒーだ。

でも、不思議と身体が暖まる美味しさがあった。

 

「ライス先輩がここへ?」

半分程飲んだ後、オフサイドは尋ねた。

ライスがここに来るなんて天皇賞前以来だから、ちょっと気になった。

「何か、要件でもあったんですか。」

「別に何も。」

自分のコーヒーも淹れると、ゴールドはカップを手にオフサイドの傍らに座った。

「早朝に、差し入れ持ってきたよーって突然来て、コーヒーを飲みながらちょっと話をしただけです。」

「話?」

「…まあ、最近の色々とか、オフサイド先輩のことでです。どうやらライス先輩、オフサイド先輩と話がしたいみたいでした。」

コーヒーの苦さにちょっと顔を歪ませながら、ゴールドは返答した。

 

「最近の色々…私と話を?それって、まさか…」

「あ。」

しまった。

「まさか、天皇賞のこと?」

突然オフサイドは、杯を握ったままガタガタと慄え出した。

「やだ、絶対やだ…。」

 

「せ、先輩!」

落ち着いて下さいと、ゴールドは慌てて彼女の慄える肩を抱こうとした。

が、

「離して!」

オフサイドはゴールドの腕を払い退けた。

パリンッ。

弾みでカップが床に落ち、破片と液体が飛び散った。

「先輩!」

「出てって!今すぐ出て行って!」

机に突っ伏して頭を抱え、耐えがたい苦悶の表情を浮かべながらオフサイドは叫んだ。

 

「…はい。」

ゴールドは素直に従い、狂ったように苦悶する先輩を置いて、部室を出ていった。

 

やってしまったー。

部室を追い出されたゴールドは扉を背に腰を下ろし、地雷を踏んでしまったことを後悔する様にパチーンと額に手を当てた。

オフサイド先輩は今、身体も精神も再起不能な程にボロボロだ。

あの天皇賞の後、騒然と沸き起こった、先輩への理不尽な攻撃のせいで。

 

 

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