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「先輩、オフサイド先輩。」
呼びかける声と同時に肩をポンポン叩かれる感触を感じ、オフサイドはハッと眼を開けた。
盾を抱いて座ったまま、いつのまにか彼女は眠ってしまったらしい。
オフサイドを起こしたのはゴールドだった。
「おはようございます、先輩。」
「…おはよう。」
「休むのはいいですけど、寒い中で寝たら風邪をひきますよ。」
言いながらゴールドは着ていたコートを脱ぎ、オフサイドの肩に被せた。
「今、何時かな?」
「2時限目が終わって休憩時間のところっす。先輩が来てるかと思って、ウチここ来たんすよ。はい、先輩これ。」
答えながら、ゴールドは温めなおしていたコーヒーを淹れ、彼女に差し出した。
「…いらない。」
「ライス先輩からの差し入れです!」
ゴールドはぐいっと差し出した。
「…。」
オフサイドは黙って受け取ると、コクっと一口飲んだ。
…苦、ライス先輩らしい苦みの濃いブラックコーヒーだ。
でも、不思議と身体が暖まる美味しさがあった。
「ライス先輩がここへ?」
半分程飲んだ後、オフサイドは尋ねた。
ライスがここに来るなんて天皇賞前以来だから、ちょっと気になった。
「何か、要件でもあったんですか。」
「別に何も。」
自分のコーヒーも淹れると、ゴールドはカップを手にオフサイドの傍らに座った。
「早朝に、差し入れ持ってきたよーって突然来て、コーヒーを飲みながらちょっと話をしただけです。」
「話?」
「…まあ、最近の色々とか、オフサイド先輩のことでです。どうやらライス先輩、オフサイド先輩と話がしたいみたいでした。」
コーヒーの苦さにちょっと顔を歪ませながら、ゴールドは返答した。
「最近の色々…私と話を?それって、まさか…」
「あ。」
しまった。
「まさか、天皇賞のこと?」
突然オフサイドは、杯を握ったままガタガタと慄え出した。
「やだ、絶対やだ…。」
「せ、先輩!」
落ち着いて下さいと、ゴールドは慌てて彼女の慄える肩を抱こうとした。
が、
「離して!」
オフサイドはゴールドの腕を払い退けた。
パリンッ。
弾みでカップが床に落ち、破片と液体が飛び散った。
「先輩!」
「出てって!今すぐ出て行って!」
机に突っ伏して頭を抱え、耐えがたい苦悶の表情を浮かべながらオフサイドは叫んだ。
「…はい。」
ゴールドは素直に従い、狂ったように苦悶する先輩を置いて、部室を出ていった。
やってしまったー。
部室を追い出されたゴールドは扉を背に腰を下ろし、地雷を踏んでしまったことを後悔する様にパチーンと額に手を当てた。
オフサイド先輩は今、身体も精神も再起不能な程にボロボロだ。
あの天皇賞の後、騒然と沸き起こった、先輩への理不尽な攻撃のせいで。