1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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粉々(3)

 

*****

 

 

今日。

ステイゴールドはこの日も学園の競走場で、3日後に迫った有馬記念への調整を入念に行っていた。

 

昼過ぎ、競走場の片隅でトレーニングの休憩をしていた時のこと。

ゴールドは、調整の取材に来ていた報道陣達の様子が妙に騒ついていることに気づいた。

眺めると、学園関係者と何やら口論している。

なんだろ?

少し気になったが、反感を抱いてる報道連中のことはほぼ無視していたので、そこまで気にならなかった。

 

その後、報道陣の姿が競走場からいなくなった。

なんか取材違反でもしたのかな。

そう考えたゴールドは、内心清々とした。

これで一層調整に集中出来るなと思いつつ、ゴールドは休めていた腰を上げた。

 

 

ところが、調整再開してしばらく経った頃。

 

「ゴールド先輩!」

共に競走場で調整していた後輩のウマ娘が数人、只事でない様子で駆け寄ってきた。

「どうしたの?」

「ニュース、見ましたか?」

「ニュース?」

スマホを手に動揺と驚きの様子を見せている後輩に、ゴールドは怪訝な表情を浮かべた。

何があったんだろ。

ゴールドもポケットからスマホを取り出し、ニュースを見た。

 

そして、学園の断行を報道するニュースの文字を見、

「え…」

愕然とした、声にならない呟きが洩れた。

 

どういうこと…?

ニュースの内容と学園の断行が、明確にオフサイドトラップ(『フォアマン』)に関することだと分かった。

なんで?私、何も聞かされてないよ。

こんな大変なことを起こすならば、最大の関係者の一人である自分にも事前に相談されてる筈だ。

一体何が?

状況が全く分からず、ゴールドはスマホを握ったまま、茫然とした表情で天を仰いだ。

彼女の脳裏にすぐ浮かんだのは、オフサイドの姿だった。

肌が粟立つような悪寒と共に、ゴールドはスマホをしまうと校舎へ駆け出した。

 

 

ゴールドが向かった先は、生徒会室だった。

 

バンッ ドンドンッ。

「どなたですか?」

生徒会室の扉を乱暴にノックすると、室内からマックイーンの返答が聞こえた。

「失礼します!」

ゴールドは扉を乱暴に開け、室内に飛び込んだ。

 

室内には生徒会長のマックイーンの他に、学園理事長の大平の姿もあった。

だがゴールドはマックイーンだけを見ていた。

「生徒会長、一体何が起きているのですか!」

蒼白な表情と血走る瞳で、ゴールドは叫んだ。

 

「マックイーン、失礼する。」

室内に突入してきたゴールドを見、大平はマックイーンにそう断ると、淡々とした様子で部屋を後にしていった。

「はい。ではまた。」

マックイーンも表情を全く変えず、彼を見送った。

…。

自分の傍らを通り過ぎて部屋を出ていった大平に、ゴールドは一瞬気になるような視線を見せたが、すぐにマックイーンに向き直った。

「ニュースを見ました。何故、私達に事前相談も何もなくこんなことを断行したのですか!」

 

「事前相談も何もなかったことは、申し訳ありませんわ。」

マックイーンは立ったまま、冷静な表情とともにゴールドを見つめ返しながら答えた。

「ただ、状況的に事前相談をする猶予もありませんでした。」

「状況的に?」

 

表情を歪めたゴールドに、マックイーンは懐から一通の手紙を取り出し、それを差し出した。

「これは?」

「昨日、オフサイドトラップから私に宛てられた手紙ですわ。」

「先輩の手紙…」

ゴールドは、息を呑んでそれを受け取り、手紙を読んだ。

 

「これは…。」

それを読み終わった時、手紙を握るゴールドは驚愕と動揺のあまり腕から全身にかけて震えていた。

 

「なんで?オフサイド先輩?何故?どうして?…」

言葉にならない悲嘆が彼女の口から次々と洩れた。

「何故こんなことに⁉︎オフサイド先輩は今どこにいるんですか⁉︎」

悲嘆を洩らした後、ゴールドは血相を変えてマックイーンに詰問した。

 

詰問されたマックイーンは、現在オフサイドの身柄がメジロ家の別荘に保護されていることを明かした。

それを聞いたゴールドは即座に要求した。

「今すぐ私と会わさせて下さい!」

 

「分かりましたわ。」

マックイーンはすぐに了承した。

「車両を手配します。一度寮に戻って下さい。そちらに車を手配します。」

もう間もなく学園の周囲は騒然とするだろう。

ここでゴールドをメジロ家の車両に乗せるのは得策ではないとマックイーンは判断した。

「分かりました。」

ゴールドは手紙を返し、まだ血走っている瞳でマックイーンを見据えながら頷いた。

 

生徒会室を出たゴールドは、制服姿に戻ると学園をすぐに後にした。

報道陣の連中には遭遇しなかった。

 

 

数十分後、ゴールドは寮に着いた。

寮の前には既にマックイーンが手配したメジロ家の車両が待機していた。

すぐにゴールドはそれに乗ろうとしたが、ふとあることを思い出し、一旦寮の自室に戻った。

 

自室に戻ったゴールドは、机の引き出しを開けた。

中には、昨日届いたオフサイドからの郵便物が入っていた。

ゴールドはそれを全て取り出し、懐にしまうとすぐに部屋を出た。

 

ゴールドはメジロ家の車両に乗り込んだ。

運転手はメジロ家の使用人で、既にマックイーンから彼女をオフサイドの元へ送迎するよう命を受けており、すぐに車を発進させた。

 

車が発進した直後、ゴールドは運転手に幾つかオフサイドに関する質問をしたが、運転手は役目から全ての質問に言葉を濁し明確な答えは言わなかった。

ゴールドは内心苛立ったがそれは仕方ないかと受け入れ、後部座席に座り直した。

そして、自室から持ってきた郵便物を取り出した。

 

昨日オフサイドからの郵便物は、数冊のノートと二通の手紙の封筒。

うち手紙の片方だけは読んだが、他の物には手をつけてなかった。

ノートに関してはオフサイドの競走生活の記録だと記されていたが、もう一つの手紙は…。

ゴールドはそれを手に取った。

 

『有馬記念が終わった後に読んで下さい』

 

封筒の表面に書かれているそれを見、ゴールドは蒼白な表情を歪ませた。

昨晩見た時も謎だったが、今は謎どころじゃない…。

ゴールドは震える指先でその封筒を開け、中身の手紙を取り出した。

不安に高鳴る鼓動を歯食いしばって抑えつつ、ゴールドはそれを読み始めた。

 

 

 

それから数時間後の、18時前。

ゴールドを乗せた車両は、オフサイドのいるメジロ家別荘に着いた。

 


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