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場は変わり、トレセン学園の生徒会室。
緊迫した雰囲気の室内には、ミホノブルボンとビワハヤヒデを除く生徒会役員全員が集まっていた。
集まった役員達に、生徒会長のメジロマックイーンは昨晩に起きた出来事とその後の経過を説明した。
事前に事が起きたことについては伝えており、その詳細を改めてここで皆に伝えたのだった。
「サイレンススズカの容態は予断を許さないとの状況です。現状、このことは公には明かさない方針ですので、各々ご了承下さい」
「…。」
生徒会長の説明を聞き終えると、室内にいる生徒会の面々は深い嘆息を吐いた。
特に副会長のダイイチルビーが、かなり沈痛な表情になっていた。
「遂に、一番恐れていたことが起きてしまったのね。」
「恐れていたというより、想定外の事態だね。」
メジロパーマーが、指の関節を噛みながら言った。
「まさかステイゴールドが、こんなことを起こすなんて…誰も想定出来ないよ。」
この世界で最もスズカと親しい同胞が、理不尽かつ自爆的な行動をするなんてさ…
「起きてしまった事態は仕方ありません。」
パーマーの傍らのダイタクヘリオスが、場の空気を変えようと整然とした口調で言った。
「私達生徒会がすべきことは、現状を踏まえて適切な行動をすることです。」
「その通りですわ。」
生徒会モードのヘリオスの言葉に、マックイーンは頷きながら冷徹な口調で言った。
「皆、今それぞれがあたっている業務をこれまで通り続けて下さい。百も承知でしょうが、我々が今あたっている事は同胞の未来の為に非常に重大なことです。色々動揺はあると思いますが、どうか宜しくお願いしますわ。」
「…はい。」
マックイーンの言葉に、メンバー中最年少の役員であるマヤノトップガンが、表情を緊張で引き攣らせながらも努めて元気な声で頷いた。
「一つ、質問いいですか?」
比較的落ち着いた様子のヤマニンゼファーが、マックイーンに尋ねた。
「オフサイドトラップは、この事を知っているでしょうか?」
「オフサイド本人には直接伝えていませんが、現在彼女と共にいる岡田正貴トレーナーには伝えましたわ。彼女に伝えるかは彼の判断に任せました。今朝のビワからの報告によると、どうやら岡田トレーナーはオフサイドトラップにそれを伝えたようです。」
「それで、何か反応は?」
「特になかったようですわ。」
マックイーンは冷徹な瞳をやや険しくした。
「オフサイドトラップは、もう有馬記念で散る以外に何も考えていない状態ですわ。」
「…。」
マックイーンの表情を見た生徒会メンバーは状況の深刻さを感じ、一様に同じように表情を険しくした。
その後、マックイーンは役員達にそれぞれ今後の指示を出し、緊急会合は終わった。
役員達はそれぞれ業務を行っている部署に戻っていき、マックイーンは一人生徒会室に残って、業務を行っていた。
「生徒会長。」
一人で業務を始めてしばらく経った頃、パーマーがまとめた書類を手に生徒会室に現れた。
「なんでしょうか、パーマー。」
「調査していたものの一つが纏まりましたので、こちらに。」
会長席に歩み寄ると、パーマーは座っているマックイーンにそれを差し出した。
マックイーンは黙って受け取ると、それを見た。
「天皇賞・秋後に過ちをおかした、同胞のまとめですね。」
「ええ。数が少ない分、早く調べ終わりました。」
「ご苦労でしたわ。」
マックイーンは労うと、その書類をしまった。
「…。」
書類を渡したパーマーだったが、その後室内を去らず、無言で会長席の前に立ち尽くしていた。
「まだ何か用件が?」
怪訝に思ったマックイーンが尋ねると、
「あのさ、マックイーン。」
生徒会の口調から普段の口調に変えて、パーマーはマックイーンを見据えた。
「どうしましたか?」
「あなた、少し休むべきだと思うわ。」
「何を言うのですか。」
パーマーの言葉に、マックイーンは険しく眼を光らせた。
パーマーはその眼光にもたじろかず、無言で見返した。
「この状況下で、私が休むなど許される訳がないですわ。」
「今のあなたが、この状況下でまともな行動が出来ると思ってるの?」
努めて静かな口調で、パーマーは言い返した。
「どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味よ。私だけじゃなく、生徒会の皆がそう思ってる筈だわ。」
威圧感すら眼光に表したマックイーンに、パーマーも気圧されまいと言葉を続けた。
「鏡を見てみなよ。今のあなたはまるで悪夢に取り憑かれたような顔色してるわ。」
「…。」
マックイーンは、僅かに唇を噛みながら頬に手を当てた。
「精神的にも肉体的にも相当疲れてるでしょ…そんな状態じゃ、いつ倒れてもおかしくないわ。」
「ご心配なさらず」
「もう誤魔化さないで。」
いつものはぐらかしの返答を、パーマーは遮った。
「生徒会長であるあなたがこれ以上無理する愚をとるなら、私達生徒会役員は今後あなたの方針には従わないわ。」
「なんですって…」
「自らの状態を把握しながらそれを蔑ろにする生徒会長の方針なんて誰が従える?」
思わず立ち上がったマックイーンを、パーマーは同じくらい冷徹な瞳で見返した。
「別に、今起きてる事はあなたが絶対に必要なわけじゃないのだし。むしろ、こんな状態で行動されたら事態を悪化させる可能性の方が高いわ。」
いつにないパーマーの厳しい言葉に、マックイーンは冷徹な表情を俯かせた。
彼女から視線を逸らさず、パーマーは言葉を続けた。
「マックイーン、今日は屋敷に帰って休みな。事がここまで二転三転してる現状、一度落ち着く時間があなたには必要だわ。」
「分かりましたわ。」
マックイーンは、令嬢らしくなく唇を噛みながら顔を上げた。
「あなたの言う通りにしますわ。」
そう言うと机上にある電話をとり、副会長のルビーを呼んだ。
数分後、ルビーが生徒会室に来ると、マックイーンは心身の疲労が著しい為彼屋敷に戻る旨を彼女に伝えた。
「現場で闘うあなた方役員を差し置いて会長である私が休むなど責任放棄も甚だしいと思いますが、お許し下さい。」
「いいのよ、マックイーン。」
詫びた生徒会長に、副会長は労わるように答えた。
「あなたの状態は私達もずっと気がかりだったから。今日はゆっくり休んで。」
「ありがとうですわ。」
マックイーンは謝すと、懐から書類を取り出し、ルビーに渡した。
「今後の計画がこちらにまとめてあります。後で役員の皆にも見せて下さい。」
「分かったわ。」
ルビーは頷きながらそれを受け取った。
マックイーンは鞄を持ちコートを羽織った。
「では、何かありましたらすぐに連絡ください。」
そう告げると、マックイーンは生徒会室を出ていった。
マックイーンが去った後、ルビーは書類を手に持ったまま、室内に残っていたパーマーを見た。
「あなたが、マックイーンに休むよう言ったのかしら?」
「うん。」
パーマーは頷きながら、腰掛けていた椅子から立ち上がった。
「どう見ても疲労が著しかったからね。生徒会仲間としても家族としても、限界を越えた無理はさせられなかった。」
「正しい判断だわ。」
ルビーは礼をいうように言った。
「今日だけになるとは思うけど、それでもマックイーンには休む時間が必要なのは間違いなかったわ。このままじゃ彼女も壊れる可能性が高いのは明白だった。」
「まだ、危険だけどね。」
マックイーンが(生徒会が)下した今回の断行は、はっきり言って生涯を賭してかからねばならない程に大きなものだ。
ルビーにもパーマーにも、他の生徒会仲間もその覚悟はある。
だけどマックイーンの覚悟は、生涯どころじゃない。
名誉も血も勲しも全て失う覚悟だ。
だから、自らの心身がボロボロになっても顧みようとしなかった。
「今回の事の結末に、未来はあるのかな。」
パーマーは憂げに呟いた。
断行だけじゃなく、オフサイドやスズカの件だってある。
これら全てが混ざり合い暗く渦巻く現状を、果たして打開出来るのだろうか。
「闘うしかないわ。」
ルビーは書類に目を向けながら答えるように言った。
「闘って、闘って、新しい未来を掴み取るしかないのよ。」
言いながら、ルビーの視線は書類に記されているマックイーンの指示の一部分に注がれていた。
『明日、今回の断行&今後のウマ娘と人間の共存について会見を予定』
一方。
生徒会室を出たマックイーンは、メジロの車両を呼んだ後すぐには学園を去らず、裏庭の奥にある敷地へと向かっていた。
敷地内にある石碑の前に立つと、マックイーンはそれに刻まれているウマ娘達の名前をじっと見つめた。
マティリアル・グロリークロス・ワンダーパヒューム・シグナルライト・ニホンピロスタディ…
レースに散った同胞達の名前を見つめながら、マックイーンはオフサイドから渡されたノートを取り出し、胸に抱くと石碑の前に跪き、瞑目した。
「私は、絶対に逃げませんわ。」
絶対に、絶対に…
真冬の蒼天の下、芦毛の美髪を靡かせて誓ったマックイーンの言葉が、切なげな寒風の音と共に響いていた。