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ほんの僅か前。
…ん?
特別病室に一人待機していた沖埜も、ブルボンやケンザン達が耳にした妙な物音を聞いていた。
何かが落ちたような音…
大した異変を感じるものでもなかったが、沖埜は悪い予感がした。
物が落とされたのは屋上からか?
彼はスマホを取り出し、屋上にいるスペに連絡をとろうとした。
だが、スペのスマホからの応答は何もなかった。
これは…
異変を察知し、沖埜はすぐさま特別病室を飛び出した。
階段を駆け上がって屋上の扉に前に辿り着いたが、鍵がかかっていた為開けられなかった。
まずい!
大変な事態が起こっていることを沖埜はすぐに悟った。
何度も扉のノブを強引に動かして開けようとしたが、扉は固く開かなかった。
「くっそ!」
医師を呼んで開けさせる猶予もなかった。
沖埜は渾身の力を込めて、扉を蹴り上げるように体当たりした。
扉は大きな音をたてて壊れた。
「…。」
扉を蹴り壊した脚に激痛が走ったがそれを全く気にせず、沖埜は屋上に入るとその周囲を見回した。
そして、ベンチ前に倒れているスペと、今まさに屋上から身を投げようとしているスズカが視界に飛び込んだ。
「スズカ…」
「トレーナーさん…。」
強い寒風が吹き付ける中、二人の視線は交錯した。
「お前、やはりその決意だったのか。」
「…。」
愕然と眼を見開いた沖埜に大し、スズカは何も答えず、静かに視線を逸らした。
「…私は言った筈だ。“生きろ”と。」
「…。」
「こっちを見ろスズカ!今すぐそこから引き返すんだ!」
言いながら、沖埜はスズカの元へ駆け出した。
「お許し下さい。」
沖埜が駆け出すより早く、スズカはそう言葉を絞り出すと、沖埜に背を向け、眼下の闇に身体を向けた。
「待てスズカ!」
「私はもう、こうするよりないんです。」
さよなら…
沖埜が駆けつけるより一瞬早く、スズカは屋上から身を投げた。
蒼月が照らす中、スズカの身体が宙を舞った。
だが、
「スズカ!」
駆け寄った沖埜が宙に身を乗り出し、落ちていこうとしたスズカの腕を寸前で掴み止めた。
「離して下さい。」
帰還寸前で捉えられたスズカは、身体を宙に揺らめかせながら、自分の腕を掴んだ沖埜を見上げ、嘆きの声を上げた。
「お願いです…もう私は、こうするよりないんです…」
「誰が…離すか…」
自らも落ちそうな姿勢で身を乗り出しながら、沖埜はスズカの腕を歯を食いしばって掴みつつ声を返した。
「お前だけは…絶対に帰還させないと…私は誓ったんだ…」
沖埜の表情は、普段の彼とは全く違う決死の形相になっていた。
「いけません!このままではトレーナーさんも巻き添えになってします!手を離して…」
「…構うものか…一緒に落ちたのなら、私がお前の下になって…お前の身を守るだけだ…」
スズカは必死に何度も促したが、沖埜はスズカの腕を決して離そうとしなかった。
「なんで助けようとするの⁉︎」
身の危険を省みずに自分を助けようとする沖埜に、スズカは胸が裂けるような声で叫んだ。
「もう私には生きる希望がないのに!この世界に決して消えない絶望と悲しみを与えてしまった…その罪にすら気づかなかった私など…生きていける訳なんてないのに!…なのに…どうして助けようとするんですかっ‼︎」
「お前に生きてて欲しいからに決まってるだろうがっ!サイレンススズカ!」
スズカの叫びに対し、沖埜も叫び返した。
普段冷静沈着な彼とは全く違う、心底の想いを吐き出すような口調だった。