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腕時計を見ると、既に12月26日になっていた。
療養施設の屋上。
帰還したライスシャワーを前に涙に暮れていたミホノブルボンは、やがて涙を拭って立ち上がった。
「ライスを移動させましょう…」
「そうね…」
ブルボンの言葉に、傍らの渡辺椎菜も涙を振り払い頷いた。
「ライスの遺体を施設の一室に運ぼう。医師達を呼ばないと。」
「その必要はありません。ライスは私が運びます。」
答えながら、ブルボンはライスの遺体を両腕に抱え上げた。
「分かった。じゃ、ついてきて。」
「はい。」
椎菜は先導するように歩き出し、ブルボンはライスの遺体を抱きしめるように両腕に抱えて、彼女の後に続いた。
二人は移動を始めたものの、一緒に屋上にいた三永美久はまだ座り込んだままだった。
「三永美久、来ないのですか?」
「…私は…後で行きます…」
茫然と夜空を仰いでいる美久の眼からは、まだ涙が溢れ続けていた。
ブルボンはライスの遺体を抱えて、椎菜と共に屋上を出た。
冷たくなったライスの体温を両腕に流れる自分の血が感じ、全身を巡っていくように浸透した。
もう永遠に開かないライスの両眼、その亡骸に遺されている最期の微笑も瞳に映り、懸命に抑えている彼女の感情を何度も揺るがした。
やがて、二人は施設の奥にある一室に着いた。
室内の中心にあるベッドの上に、ブルボンはライスの遺体をそっと寝かせた。
その後、ブルボンは一旦室内から出て行き、椎菜は施設にいる関係者達にライスの帰還を伝えていた。
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「はい、分かりました。これから向かいます。」
ホッカイルソーの病室で、フジヤマケンザンは椎菜からその連絡を受けていた。
既にその事実を覚悟していたケンザンは努めて感情を現すこともなく連絡を受け終えると、室内にいるルソーとステイゴールドを向いた。
「二人とも、行くよ。」
「…どこにですか?」
突然の指示に、まだ屋上での出来事に放心状態だった二人は怪訝そうに聞き返した。
「ライスシャワーのところだ。」
「ライス先輩の?どうしてですか?」
「…行く途中で説明する。」
二人ともその事実を想像すらしてないことを思いつつ、ケンザンは答えた。
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「…はい、私は後ほど行きます。…今は、一人にさせて下さい。」
くっ…
ダンツシアトルの宿泊室
椎菜からライスシャワー帰還の連絡を受けた後、シアトルは崩れ落ちるようにベッドに腰をついた。
彼女の頬には涙が伝っていた。
同胞との永別を経験するのは初めてではなかった。
むしろ彼女はかなり多くのそれを経験していた。
それでも、今回のライスの帰還は、今までにないほど胸に堪えていた。
ライス先輩…
シアトルは、ベッド上に突っ伏した。
彼女が掴んでいるシーツには涙痕が幾つもあった。
私は、先輩のことをずっと尊敬してました。
もっと早く、先輩と再会したかった。
もっと早く、先輩を苦しみから解放させてあげたかった…
シアトルはベッドから起き上がり、窓際に立った。
一面の夜空を仰いでいる彼女の頬から、涙が床に溢れ落ちていた。
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関係者達に連絡を終えると、椎菜は先に来ていた他の医師と共に、ライスを安置したベッドの傍らで関係者達が来るのを待っていた。
涙も悲嘆もおさまっていなかったが、今はそれを胸の奥に押し留めていた。
やがて、室外から駆け足の音が近づいてきた。
「ライス先輩!」
扉を開けて蒼白な表情で室内に駆け込んできたのはゴールドだった。
「嘘、嘘よ…」
ベッド上に安置されたライスの遺体を見て、ゴールドは全身の力が抜けたように膝が崩れた。
「先輩!ライス先輩!…」
膝をついたまま、彼女はフラフラとベッドの傍に近寄った。
「…ねえ先輩、起きてよ…いつものようにコーヒーを淹れて…私を明るく励ましてよ…ねえ、ライス先輩!…」
うわ言のように問いかけたが、ライスの閉じた両眼は何の反応も示さなかった。
その穏やかな亡骸をはっきりと確認した途端、ゴールドはそれが事実であることを悟った。
「…ライス先輩っ…う…うっ…ライスシャワー先輩…うわあああ……」
ゴールドはシーツを掴み、声を上げて泣き出した。
ゴールドの後を追って、ケンザンとルソーも部屋に現れた。
「…ライス先輩。」
ルソーも、信じられないといった表情で松葉杖をつきながら、覚束ない足取りでベッドに歩み寄った。
ゴールドが号泣している傍らでライスの亡骸を見つめ、彼女も両眼から涙を溢れさせた。
「…。」
ケンザンは部屋の扉の前で、腕を組んだまま嘆きを堪えるように無言俯いていた。
そしてその後、沖埜豊と共に車椅子のサイレンススズカも現れた。
「ライスシャワー先輩…」
室内に入ったスズカは車椅子を自分で動かし、ゴールドとルソーがいる反対側のベッド脇に来た。
「そんな…」
震える手を動かして、帰還をしようとした自分を阻止したライスの手のひらに触れた。
ライスの手は、永別を示すように冷たくなっていた。
それを感じると同時に、スズカの茫然としていた表情が歪み、涙が滝のように溢れ出した。
「…うっ…うっ…」
スズカはライスの手のひらを両手に包み、前屈みになって額に押し当て、声を抑えて泣き続けた。
「…。」
沖埜は、ケンザンと同じく扉の傍らで項垂れながら、唇を噛み締めて眼を瞑っていた。
ライスに対する感謝と自責の念を胸中に渦巻かせて。