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時刻は流れ、夜明け前のメジロ家の屋敷。
門前で待機していたメジロ家の車両に、制服姿のメジロマックイーンが乗り込もうとしていた。
「マックイーン。」
車に乗った彼女に、見送りに出ていたメジロパーマーがドアの側に来て声をかけた。
「気をつけてね。何かあったらすぐに連絡して。」
「…はい。」
マックイーンは力のない小声で答えた。
普段の冷徹な威厳が今の彼女には全くなく、雨にうたれた草花のように打ちひしがれてみえた。
目元には泣き腫れた痕が残っていた。
「どうか無事で。」
パーマーも顔を顰めながら、祈るようにいうとドアを閉めた。
そのままマックイーンを乗せた車が走り去っていくのを見送ると、パーマーは屋敷に戻り、登校の準備を始めた。
朝陽が見え始めた頃、パーマーも屋敷を出た。
学園に向かう車中、パーマーはマックイーンを乗せた車の運転手に通知を送った。
『マックイーンに何かあったらすぐに連絡下さい』
通知を送り終えると、パーマーは座席にもたれかかって眼を瞑った。
自然と込み上げた涙を抑える為に。
ライスシャワー…
パーマーもまた、深夜にマックイーンからライスの訃報を知らされていた。
既にライスの脚の限界を知っていたマックイーンやブルボンと違い、パーマーはライスの状態について何も知らなかった。
心の準備も何も出来てない中での突然過ぎる悲報に、ただ茫然とするしかなかった。
まさか、こんなに早く逝ってしまうなんて…
車窓から登りかけている朝陽を眩しそうに見つめているパーマーの眼に涙が光っていた。
現役時代のライスとパーマーは、ブルボンやマックイーンのようにお互いを意識するほどの関係でこそなかったものの、4度レースで対決した。
その4戦は全てG1であり、ライスと最も多く大舞台で闘ったG1ウマ娘はパーマーだった(対戦成績はパーマーの3勝ライスの1勝)。
彼女とのレースの思い出は色々あるが、やはり印象的なのは5年前の天皇賞・春、現役最強王者マックイーンを倒す為お互い限界にまで仕上げで挑んだレースだった。
3人で後続を引き離して最後の直線に入り、一線に並びかけた時の震えるような感覚は今でも覚えている。
そして、自分もマックイーンも無情に千切り捨てたライスの漆黒の末脚も。
さよなら、ライスシャワー…
朝陽を見つめつつ当時の記憶を思い返しながら、パーマーは胸のうちで言った。
悲報を受けたにも関わらず、パーマーは今無情にも学園へと向かっている。
何故ならば、ライスの遺体と対面するのは目の前で起きている事が終わった後にしようと決めたから。
今、自分達にはウマ娘の未来がかかった事案が目の前に待ち構えている。
同胞の帰還を悼める余裕はない。
マックイーンだって、療養施設へ向かった目的はライスの遺体と対面する為じゃないのだから。
ライス…
パーマーは涙を拭うと一つ息を吐き、改めて朝陽を見つめた。
現状起きている事がどうなるか、まだ明るい見通しは立ってない。
もしかすると残酷な未来が待ち受けているかもしれない。
でも。
「たとえどんな未来になろうと、あなたの無二の親友の心は…マックイーンの心だけは、家族であるこのパーマーが絶対に守るから。」
悲しい朝の光を見つめて、パーマーは呟いた。
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再び、療養施設。
夜明けの空に朝陽の光が広がっていく中、施設の屋上に一人は膝を組んで座りながらその光景を眺めている美久の姿があった。
ライスが帰還した後、彼女はずっとこの場に留まり続けていた。
「三永美久。」
屋上に、ブルボンが入ってきた。
「まだ、こちらにおられたのですか?」
「…。」
涙痕が光る表情を高原に向けたまま、美久は何も答えなかった。
ブルボンは彼女の側に歩み寄り、持ってきた一通の封筒を差し出した。
「受け取って下さい。ライスが、あなたに書き遺した手紙です。」
「…。」
美久は再び涙を滲ませて、それを受け取り、胸に抱き締めてうずくまった。
「…ライスの遺体は、今どこに?」
うずくまったまま、美久は尋ねた。
「施設内の一室に安置されています。」
「みんな、ライスの帰還を知ったの?」
「ええ。沖埜トレーナーもサイレンススズカもステイゴールドもホッカイルソー達も、ライスの遺体と対面しました。スペシャルウィークもつい先程…。」
「ダンツシアトルは?」
「ダンツシアトルは、まだ部屋の方で一人になりたいと。」
「そう。施設の療養ウマ娘達は?」
「今のところ、療養ウマ娘達にはライスの帰還を伏せる方針です。」
「…オフサイドには、」
美久は、更に尋ねた。
「オフサイドトラップには、ライスの帰還を伝えたの?」
「岡田トレーナーに伝えました。ライスがオフサイドに書き遺した手紙も、彼女の元へ送りました。」
「…オフサイドの決意は、動くと思う?」
「…。」
その問いかけにブルボンは答えず、上着を脱ぐとうずくまったままの美久の肩にそれを被せた。
「…今は真冬です。身体をご自愛ください。」
「…ブルボンこそ、」
美久は被せられた上着に触れながら、言葉を返した。
「今は、心が凍えないように…自分をいたわって。」
「…はい。」
ブルボンは無表情で答えると、踵を返し屋上を去っていった。
去り際、ブルボンの瞳から涙の滴が幾つか舞い散り、結晶となって消えていった。