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時刻は経ち、10時過ぎのトレセン学園。
「経過報告です。」
学園関係者の処分にあたっていたヘリオス・ゼファー・トップガンの三人は、生徒会室でマックイーンにその経過を伝えていた。
「先程、秋天後の騒動に関係したとされる学園の生徒&トレーナー関係者を集め、全員に活動停止と謹慎を言い渡しました。後日改めて各々に事情聴取を行い、最終的な処分を決める予定です。」
「何か混乱はありましたか?」
「人間のトレーナー達は覚悟はあったのか比較的冷静に受け入れていましたが、生徒のウマ娘達がかなり大変でした。まさか処分を受けるなど思っていなかったようで、阿鼻叫喚という程ではないですがショックでパニック状態になった者が多かったです。最終的にはなんとか落ち着きましたが。」
「それは大変でしたわね。退学処分にはしないということは伝えておきましたか?」
「はい。ただ長期の休学或いはレース出走停止処分の可能性は示唆しておきました。」
「報道にはどう説明を?」
「関係者への謹慎処分のことだけは伝えました。詳細についてはまだ決まってないので伏せています。」
「分かりました、ご苦労でしたわ。」
聞き終えたマックイーンは三人を労い、退がらせた。
「疲れたね。」
「ええ。」
生徒室を出た三人は、それぞれ表情に疲労を滲ませていた。
同胞達に処分を下すということはやはり精神的にもかなりの大仕事だった。
しかも処分の対象となったウマ娘は、多くがまだ1年生の者だった。
過ちを犯したとはいえ、まだ入学間もない幼さの残る同胞。
そんな彼女達に処分を下すというのは、やはり心中で辛さを感じたようだ。
「まだ精神的にもかなり未熟な子が多かった。それが今回の過ちの原因だったようですね。」
「でも容赦は出来ません。」
ゼファーが汗を拭いながら息を吐いた。
今回の同胞への処分は前述のようにやや重い処分になる見通しだ。
「深く反省して、二度と同じ過ちを繰り返さないことです。私達も今後、後輩の同胞達にレースの尊厳を教えていかねばなりません。」
「そうですね。」
ヘリオスが深く頷いた。
「もう、こんなことは2度と起きないように。」
疲労の色こそあったが、三人とも毅然とした態度は全く崩れていなかった。
「あら。」
廊下を移動中、三人はパーマーと会った。
「三人とも、生徒会長への報告が終わった所かしら?」
「うん。そっちは?」
「こっちは外部への対応に追われてるわ。そのことで生徒会長に報告があって今いくとこ。」
そう言うと、パーマーは生徒会室の方へ駆けていった。
パーマー…
駆け去っていったパーマーの後ろ姿を、ヘリオスはしばしの間見送っていた。
「どうしたんですか?」
「いやさ、彼女も顔色かなり悪いなと思ってね。」
パーマーとは同期の親友でもあるヘリオスは心配そうな表情だった。
「それは仕方ないでしょう。パーマー先輩は生徒会の一員である他に、生徒会長の家族でもありますから。私達とは別の心労があるのは立場上やむを得ません。」
「そうだよね。」
「それに、パーマー先輩と生徒会長は我々生徒会とは別に動いてる可能性もありますし。」
「別、ねえ。」
ゼファーとトップガンの言葉にヘリオスは爪を噛んだ。
彼女もその点は薄々気づいている。
「まあ、なんてったってメジロ家の代表ですから。その立場上秘密裏の行動があるのは当然です。」
「うん。それは分かってる。」
ヘリオスは唇から指を離して頷き、生徒会モードに口調を変えた。
「私が気にしてるのはそこではありません。果たしてパーマーが、マックイーンの歯止め役になれるかを懸念しています。」
「生徒会長の歯止め役?」
ゼファートップガンも怪訝な表情を浮かべたが、ヘリオスはそれ以上何も言わずにさっさと歩き出した。
私には分かる…
マックイーンとも同期であるヘリオスは、マックイーンの心の奥底にある闇の存在に気づいていた。
今回のライスシャワーの帰還で、その闇が溢れ出そうな段階まで来ていることも。
それを止められるのは、恐らく彼女の家族であるパーマーしかいない。
しかし、もし止められなかったら。
その時は、生徒会の責任としてマックイーンと相対せねばならないね。
ヘリオスは胸に手を当てて思った。
一方。
パーマーは生徒会室に着き、マックイーンと会っていた。
「先程、元学園生徒の先輩ウマ娘の方から、今回の件に関して連絡がありました。」
「どのような内容でしたか?」
「今回の件をかなり憂慮されているようで、生徒会長と直に会って話がしたいと言う内容でした。」
「なんと返事を?」
「生徒会長にお伝えすると返事しました。」
「断らなかったのですか?」
「ちょっと、無下に断るのはあまりにも偉大な先輩でして。」
パーマーは、そのウマ娘の名を口にした。
なるほど…
その名を聞いたマックイーンは納得した。
確かに無下に断れる相手ではない。
「分かりました。ご要望を受けるとお返事お願いします。」
その件の話が終わった後、マックイーンは続けて尋ねた。
「ルビーはどうしています?」
「副会長は、現在ハギノ家から連絡を受けてその対応をしています。」
「ハギノ家というと、ハギノトップレディ先輩からですか。」
「ええ。でも大丈夫です。副会長は絶対に意志を翻したりしませんから。」
表情を一瞬顰めたマックイーンにパーマーは言った。
「了承ですわ。」
頷きながら、マックイーンは深く息を吐いた。
どうやら、我々の断行を阻止する為に、人間達はかつての偉大な同胞達を動かそうとしてるようですわね。
まあ想定内ですが。
無駄な抵抗を…
唇元で呟きながら、マックイーンは懐から書類を取り出した。
「これは?」
「記者会見で話す内容ですわ。皆に渡しておいて下さい。」
怪訝な表情を浮かべたパーマーに書類を手渡しながらマックイーンは淡々と答えた。
「…え?」
書類に眼を通したパーマーは思わず声を洩らした。
「え、これを会見で?」
「はい。」
表情が蒼白になったパーマーと対照的に、マックイーンは全く表情を変えなかった。
「…これは、ダメだよ!」
パーマーは書類を突き返した。
「内容が過激過ぎる。明らかに一線超えてるわ!」
「パーマー、ウマ娘の未来の為ですわ。」
パーマーの見開いた瞳をマックイーンは全く揺るがない翠眼で見返した。
「不幸な末路を余儀なくされる同胞を救う為にも、レースの尊厳を守る為にも、そしてウマ娘と人間の共生の為にも、これを人間達に突きつけなければなりません。」
「絶対に反対だわ。」
マックイーンの威圧感に動ぜず、パーマーは首を振った。
「どんな理由があろうと、これは絶対に表に出してはいけない内容よ。巨大な禍根しか残さない…まさにパンドラの箱同然のものだわ。」
「そう、まさにパンドラの箱ですわ。しかし、今はそれを開かなければなりません。」
言いながら、マックイーンは懐から今度は一冊のノートを取り出し、パーマーに手渡した。
「これは?」
「我々が眼を背けていた、最果ての世界の事柄ですわ。」
「なにこれ…」
数ページそれをめくったパーマーは、その内容の凄まじさにすぐノートを閉じた。
「これ、まさか…」
「オフサイドトラップから託されたものですわ。彼女は、最果ての現場にいてその記録を残していました。」
マックイーンは椅子にもたれた。
「彼女がこれを我々に託した理由は、この現実を変えて欲しいが為。私は、それを果たす決意をしたんですわ。」
「それが、この書類の内容だと?」
「はい。」
「だとしても、私は反対だわ。」
パーマーはノートを返し、断固と首を振った。
「最果ての現状を発信するのなら他に手段がある筈。でもこの内容は行き過ぎてる。はっきり言えば、現実も未来も全てを破壊する目的の内容にしか思えない。」
「全てを破壊…そうかもしれませんわね。」
マックイーンは頬に薄い微笑が浮かべた。
「でも、こうしなければ、未来は変わりはしないでしょう。今まで、どれだけの十字架が我々の歴史に刻まれてきたか顧みれば。」
ハマノパレード、ハードバージ、カネミノブ、ヒカリデユール、オサイチジョージ…
彼女達のようにレースに君臨していたウマ娘だけじゃなく、幾万ものウマ娘が、最果ての世界に消えていった。
その重い歴史を、同胞達はずっと背負い続けてきた。
「私も、これまでの生徒会も、そしてあなたも。これ以上私達が負ってきた苦しみを、次世代の同胞達にまで背負わせたくない。例え『大償聲』を招く危険性があろうとも、私は遂行します。」
言い切ると、マックイーンの冷徹な視線はパーマーを貫くように見据えた。
「マックイーン…」
溢れ出したマックイーンの威圧感、いや『真女王』の領域に、パーマーは身体を震えさせつつも、姿勢を崩さず懸命に対峙したていた。
*****
その頃。
報道陣などで騒然としている校門前を通り抜け、一人の学園関係者が学園内に入ってきていた。
学園関係者ではあるが特に重要な職務にあるものでもないので、その人間は報道陣から殆ど気にかけなかった。
その学園関係者…三永美久は、そのまま校内に入った。
そして廊下で、業務で移動中のヘリオスと鉢合わせした。
「あれ、美久カメラマンじゃん。どうしたの?」
ヘリオスは彼女の姿を見て首を傾げた。
「療養施設にいるって聞いてたけど、戻ってきたの?」
「ええ。生徒会長に用があって来ました。」
「生徒会長は今会える余裕はないと思うけどどういう用事?ライスシャワーのこと?」
「サンエイサンキューに関する用件です。」
「…!」
ヘリオスの腕にあった書類がバサッと床に落ちた。
「ど、どういうこと?」
それにも気づかず、ヘリオスは驚愕のあまり眼を見開きながら口を愕然と動かした。
やっぱりか…
明らかに動揺したヘリオスの様子に、美久は小さく吐息した。