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場は変わり、理事長の大平宅。
宅内の一室には、大平を含むトレセン学園の理事達が集まっていた。
彼らはマックイーンら生徒会の断行への対応について話し合う為集まっていた。
「今回の事に対して我々は生徒会の意向を尊重し、我々の干渉は控えたいと思います。」
理事長である大平は、集まった理事達にそう要求した。
「いいのですかそれで。」
理事長の言葉に、理事達は次々反発の色を見せた。
「生徒会の行動は明らかに世間の反発を招いています。今後の学園の運営に大きな影響を与えることは間違いありません。」
「彼女達は事態の大きさを分かっていない。このままではウマ娘と人間の間に大きな軋轢が生じる可能性が大だ。」
「オフサイドトラップの件で、学園の運営と将来を中心として考えてきた我々の意向を生徒会は真っ向から否定した。固定観念に囚われて大局を見失っているのは明白です。」
「放っておくと事態は更に悪化して、全てが手遅れになるのでは。まだ間に合ううちに止めるべきだと。」
「各々の意見はよく分かります。」
理事達の反発の声に、大平は頷きながら返答した。
大平自身運営に携わる人間として、彼らの言い分は理解していた。
「もし生徒会が一時的な感情に暴走しての断行だったならば私も阻止に動きました。だが今回の断行はそんな浅慮な軽挙妄動ではありません。ウマ娘の華やかな表舞台の裏で、積もり積もっていた負の側面が遂に爆発したものだと思います。」
「負の側面とは、彼女達が言う『レースの尊厳』ですか?」
「正しくは『ウマ娘の尊厳』です。彼女達はこの世界での種族としての尊厳を我々人間に問いかけてきたのです。」
大平は、断行前にあったマックイーンとの話の内容を話した。
「人間にとってウマ娘とはなにか、それを明確にするよう、現生徒会は求める覚悟なのです。」
「何故そんなことを…」
「それは決まっています。この世界で必要とされずに消えてゆくウマ娘達の為です。彼女は同胞達を救う為にこの行動に出たのです。」
「愚かなことをするものですね。」
理事の何人かが険しい表情を浮かべた。
「ウマ娘が尊厳などを主張する権利などありません。彼女達は、自分らが人間の保護によってこの世界に存在出来ていることを分かっていないのでしょうか。」
「歴史を顧みれば、人間が保護しなければウマ娘はこの地上から絶滅する危機に瀕していたことは明白だ。それすら忘れたのか。」
「私達人間は、限られた中でもウマ娘達の未来の為に多くの苦労をしてきました。それに対してウマ娘達は人間の未来の為に動いたことはあるのでしょうか。」
「それらは当然認識しているでしょう。認識している上で彼女達は行動を起こしのです。」
大平は冷静な表情で声を上げた理事達を見回し、整然とした口調で続けた。
「彼女らのこの行動により、学園の運営に大きな支障が出ることは必至です。最悪学園の閉鎖の可能性すらあるかもしれません。我々外部からの関係者にも大きな影響を及ぼすでしょう。それでも私は、ここは事態を見守りたいと考えています。」
「理事長、それは余りにも無責任では?」
「運営に携わる人間としての自覚を問われます。」
理事達は非難の声を上げたが、大はなおも続けた。
「無論、事態が悪化した際は責任を取ります。ですがそれでも私は、ウマ娘の断行を支持すると決めました。今はウマ娘と人間が共存していく未来への大きな岐路であり、利害は二の次だと考えたからです。」
そう言うと、大平はつと書類を取り出し、理事達全員に配った。
「これは?」
「私なりに調べた生徒会が事を起こした最大の理由です。」
書類の内容は、学園を去った後消息不明となった歴代の生徒の数と内容が記録されていた。
「これには、諸君が知っているであろう有名なウマ娘の名も含まれている筈です。」
「…。」
表情を硬らせた理事達に、大平は言葉を続けた。
「それとここには記されていませんが、不遇な扱いを受けて不幸な最期を遂げたウマ娘も多くいました。中央だけでなく地方含めた全体でみれば、ここ10年でもその数は優に1000を超えてるでしょう。」
「このことは我々も知っています。ですが、」
理事の一人が書類を見ながら口を開いた。
「確かに業界の暗部ではあり表には出せない事実ではありましたが、この数は年々減ってきている筈です。我一人でも多くのウマ娘が不幸にならないよう我々も手を尽くしてきました。ウマ娘だってそれを…」
「分かってるいるでしょう、当然。」
理事の言葉を大平は遮り、続けた。
「それでも、現実として長年の間幾多のウマ娘が不幸な末路を強いられてきました。未来を手に入れられる実績を挙げた筈の者も含めて。そのことが業界内で隠匿され続けてきたことに、限界が来たのでしょう。それらに未来を与える為、生徒会は断行したんです。」
「理解が出来ません。」
理事は納得出来ないようだった。
「もしそうだとしても、やり方は他にあった。今回の生徒会のやり方は余りにも突然で横暴じみてます。意識して人間を敵に回したといっても過言ではない程…」
「安易な発言は控えてください。」
大平はその理事を静かに睨んだ。
「トレセン学園が発足しウマ娘のレースの歴史が始まって以後、ウマ娘も人間もお互い多くの艱難辛苦を乗り越えてきました。だが決定的に違うものがあります。それは犠牲になった者の数です。そのことに対してのウマ娘の苦悩は我々人間の比ではありません。彼女達の誰もがその負の側面を背負って生きてきた。レースで数多の栄光を手にしたウマ娘も含めて。」
「…。」
「多少横暴かもしれませんが、彼女達の苦悩を受け止めることが我々人間の責務だと思います。無意識のうちにウマ娘を人間より下の種族に見るようなことはしてはなりません。…理事の諸君にもそれぞれ立場や意見はあると思いますが、ここは事態を見守るよう重ねてお願いします。」
冷静な口調に有無を言わせない凄味を含めて、大平は理事達にそう要求した。
その後。
遂にここまで来たか…
理事達との会合が終わった後、大平は一人になった部屋で煙草を吸っていた。
現状、マックイーンらが下した断行の影響は、既に各所で大きく出始めていた。
人間に当てはめればプロスポーツ選手が主催者やファンを敵に回すような行動をとったのだから当然といえば当然だ。
極力深刻な対立にならないよう各所に手はうっているが、学園にとって厳しい状況になるのは避けられない見通しだ。
天皇賞・秋後の騒動がここまで大きな事態に繋がるとはな…
煙草を吸うパイプを手に、大平は窓の外を見た。
業界の負の側面が重なり続けた結果とはいえ、発端の原因となったものがオフサイドトラップという一人のウマ娘の言動からだということに、大平は思うものがあった。
“地獄からの生還者”
大平はオフサイドに対し、そんなイメージを抱いていた。
オフサイドトラップは、絶対に逃げられない筈だった不幸と運命を乗り越えた生還者。
人知れず消えゆく未来しかなかった筈の者が表の世界の頂点に立ったのだから、この事態が起きることも必然だったかもしれないな…
大平は思った。
もっとも、大平が生徒会の断行を支持した理由は天皇賞・秋後の騒動が理由ではない。
彼はウマ娘の現総責任者であるマックイーンの決意を見て支持を決めた。
マックイーン、後始末の方は私がやる。
だからお前はウマ娘の代表として、自分の信じた行動をとりきれ。
学園の理事として長年彼女と接してその姿を見守ってきた大平は胸中でそう問いかけた。
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一方、再び学園。
生徒会室で対峙していたマックイーンとパーマーの元に、美久を連れたヘリオスが蒼い表情で現れた。
「三永美久…」」
「おはようございます、メジロマックイーン先輩。」
来訪した自分を見たマックイーンに、美久は恭しく頭を下げた。
「え…?」
美久の挨拶を聞いて、傍らのパーマーも驚きの表情に変わり、思わずヘリオスの方に目を向けた。
「…。」
ヘリオスは蒼い表情のまま、無言でパーマーに部屋を出ようと促した。
…うん。
パーマーは動揺しながら頷き、ヘリオスと共に生徒会室を出ていった。
「どうぞお座り下さい。」
二人きりになった後、マックイーンは出ていった二人と違い冷静な様子で、美久を室内のソファに促し自分も真向かいに座った。
「本当だったのですわね、あなたが記憶を取り戻したというのは。」
先程、大平宅でマックイーンが受けた通知は、美久が過去重要な記憶を戻したという内容だった。
なのでこのことは既に周知してた。
「他にこのことを伝えたのは、私に通知を送ったブルボンだけですか?」
「…はい。」
美久は頷き、そして尋ね返した。
「…私の正体を知ってる者は、どのくらいいたのですか?」
「私を含めた現生徒会のメンバー、大平理事長などの重要な人間達、そして亡きライスシャワー。その他数名位ですわ。」
深刻なショックが濃く残る表情、その泣き腫れた両眼を見つめて、マックイーンは静かに答えた。