1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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歴史の証人者達(1)

 

*****

 

 

場は、再びトレセン学園。

 

学園の一室に、マックイーン以外の学園にいる生徒会役員5人全員が集まっていた。

集まった理由は前述のマックイーンが決めた会見の内容についてのもの。

急を要する件であるので業務は一旦他の学園関係者に任せ、彼女達は集まっていた。

 

集合すると、パーマーとヘリオスは例の書類をルビー・ゼファー・トップガンの三人に見せた。

 

「これは驚きましたね。」

「マックイーン会長…ここまでしますか。」

「…。」

書類を見せられた三人は、後半部分の内容にいずれも驚きの表情を見せていた。

「この書類はブルボン・ビワにも見せたのですか?」

「うん、二人にも通知で送ったわ。」

ルビーの問いかけにパーマーは答えた後、三人に尋ねた。

「この内容をこのまま会見で行っていいのか、皆の賛否を聞かせて欲しい。」

「パーマー先輩とヘリオス先輩はどっちなの?」

「二人とも否です。公していい内容ではないと判断しました。」

ゼファーの問いに生徒会モードのヘリオスは即座に答えた。

 

「私も、これはまずいと思います。」

一番先に、内容を見て動揺している様子のトップガンが答えた。

「私達のような立場の者は認識している事柄とはいえ、世間ではこれを知る者はごく僅かです。その中でいきなりこれを突きつけるのは劇薬です。決して得策とは思えません。」

「私もトップガンと同じです。」

トップガンに続いて、ゼファーも同意した。

「(1)〜(5)はともかく、(6)〜の後半以降は内容の過激さもそうですが、この内容自体が今回の事とずれています。あくまで我々の断行は先の天皇賞・秋に関する事案であり、ウマ娘の尊厳や余生の保障に関しては別の事だと思うからです。やるならばまず今回の件が終わった後にやるべきでしょう。正直、やや私情が加入している感が拭えません。」

ゼファーらしい淡々とした意見と共に反対した。

 

「ゼファーもトップガンも反対ですね。副会長はどう思いますか?」

二人の意見を聞いた後、ヘリオスは黙ったままずっと書類を見続けているルビーに尋ねた。

「…私は、」

ルビーは書類を置き、宝石のように美しい眼をヘリオスに向けて冷静な口調で答えた。

「(9)以降については判断難しいですが、(1)〜(8)までの内容については賛成です。」

 

「…!」

「…。」

他の三人はやや意外な様子でルビーを見た一方、ヘリオスはやっぱりかという表情でやや瞳を伏せた。

 

様々な反応を見せた役員仲間を見渡しながら、ルビーはその理由を説明した。

「ゼファーは関係ないと指摘されてましたが、私から見れば今回の事と充分関連する内容だと思います。天皇賞・秋においてのオフサイドトラップの走りや言動、その根幹にあるのがこのウマ娘界の負の部分だと思っているからです。今回の件が終わった後にやるべき内容とも考えられはしますが、現状世間の耳目がウマ娘界に多くの注目を集めている点、今行うのがこの問題を解決する為にも効果的だと思います。」

 

「いや、それはおかしいです、副会長。」

自身の意見を否定されたゼファーが反論した。

「効果的といってもそれはただ衝撃が大きいだけです。こういった重大な事柄に対しては慎重に順序を踏んで解決への方策を練っていくべきです。いきなり衝撃を与えるのは混乱を招く可能性が大で、ただの気分や勢いに左右される結末になりかねません。それでは何の解決にもならないでしょう。」

 

「私達のように平穏な余生の中にいるウマ娘にとっては、確かにそう思うのが自然でしょうね。」

眼を蒼く光らせたゼファーの反論に対し、ルビーは淡々と返した。

「ですが、この内容はそのような私達の為ではなく、今生死の狭間で闘い続けているウマ娘の為のものです。はっきり言えば、この事柄の公表が1日遅れるだけで一人のウマ娘の余生が失われると考えていいでしょう。」

ルビーはそう言うと役員達を見回し、更に続けた。

「この事柄はこれまで公表出来る機会がなかった。また公表しようとしても阻止されるか、或いは世間に黙殺されてきた。しかし今は、先も言った通り世間の注目が我々に集まっている。この機会を逃してはいけないでしょう。なので私は、生徒会長の決断を支持します。」

 

賛意を表明したルビーの言葉に、反対の役員達は沈黙した。

だが、

「それでも、私は反対です。」

ゼファーが、彼女にしては珍しくやや熱くなった様子で口を開いた。

「この事柄の公表が遅れたらその分同胞達の命が失われていく。それが現実だとしても、未来への最善策の為ならば止むを得ないと思います。」

「ゼファー先輩…」

口調に反して冷徹なゼファーの言葉に、傍らのトップガンが愕然とした。

 

ゼファーは生徒会仲間達を見渡しながら、更に言葉を続けた。

「同胞の不幸の責任を前にしながら、それに動じず最善の道程を辿るのが、この生徒会の責務であると思います。現に、少しずつではありますが長年の成果を経てウマ娘の余生の問題は解決への道を辿ってきています。問題が解決する未来もそう遠くない筈です。にも関わらずこのような劇薬を公に投じるのはいたずらに世間・人間側の反発や同胞の混乱を招き、これまで積み重ねてきた道程が水の泡になりかねません。その危険性についてはどう考えられているでしょうか?」

 

「勿論、危険性は承知しています。」

ゼファーの言葉にルビーは頷いた。

「ただでさえ重大な事柄であるのに、世間の目が我々に厳しい現状での公表。一歩間違えればより多くの同胞を受ける筈ない不幸に落としてしまう可能性すらあるのですから。」

「ならば、やめるべきでしょう。天皇賞・秋の事柄でもウマ娘界の正念場といえる内容なのにこの事柄まで加えたら、我々とはいえ持ち堪えられません。…ウマ娘生を懸けて事態にあたる覚悟は当然ありますが、納得出来ない闘いまでは出来ません!」

ゼファーは叫ぶように言った。

普段飄々としている彼女の表情に汗が滲み出ていた。

 

「…。」

ルビーは黙った。

ゼファーも汗を拭い、同じく沈黙した。

他の役員達も黙りこくり、室内には沈黙が流れた。

 

 

重い沈黙の中、不意にパーマーのスマホから通知音が鳴った。

見てみると、療養施設にいるブルボンからの通知だった。

「…。」

その内容を見たパーマーはやや驚きの表情を浮かべた。

 

「どうしたの?」

「…。」

ヘリオスの問いかけに答える代わり、パーマーは皆に言った。

「今、ブルボンからこの件に関しての返答が来たわ。ブルボンは(1)〜(8)までに賛成で、それ以降は中立だって。」

 

「ブルボンが?」

室内の全員が意外な表情を浮かべた。

マックイーンの補佐と言っていい立場であるブルボンとはいえ、まさかこのことに大方賛成するとは誰も思わなかったらしい。

少なくとも中立だと思っていたが。

「理由に関しても送られてきてるわ。」

パーマーは通知の内容を皆に伝えた。

 

『賛成の理由は、療養施設のウマ娘達の絶望が危険領域に入っているからです。もしこのままオフサイドトラップが帰還してしまった場合、療養ウマ娘達の絶望は爆発するでしょう。その後にこの事柄を公にしても阻止には間に合わないと思います。先に公表することが、危険であるとはいえ療養ウマ娘達の絶望の歯止めになるかも知れません。そしてオフサイドトラップの決意にも影響を与えると思います。終わってからの尽力より、終わる前から尽力すべきと判断しました。』

 

「…。」

伝え終わると、パーマーは小さく吐息した。

「療養施設、相当切迫しているようですね。」

トップガンも吐息しながら言った。

オフサイド、スズカ、そしてライスの件の影響をもろに受けている現場の深刻さはおよそ想像がついた。

沖埜トレーナーに加えてブルボン、更にはダンツシアトル、フジヤマケンザン、そして派遣されたらしい元『ファアマン』メンバーらによってなんとか支えているらしいが、持ち堪えられるかはかなり困難に思えた。

「ここは、耐え切れるよう祈るしかないです。」

ヘリオスがぽつりと口を開いた。

 

「しかし、ブルボンとルビーが賛成ですか。生徒会も意見が割れたようですね。」

少々想定外の事態になったとヘリオスは思った。

ルビーの賛成はある程度予想してたけど、まさかブルボンまでとは。

これでは会見の前に生徒会の分裂という最悪の事態になってしまう。

でも、マックイーンもルビーもブルボンも意見は曲げないだろうな。

「ビワからは返答はあった?」

「ビワからも今来たわ。彼女は中立だって。」

「そう…」

数字では反対多数とはいえ、美久や椎菜の賛意も受けてるマックイーンの決定を翻せる程ではないな。

かといってここで議論を続けても平行線だ。

もう時間もあまりないがどうしよう…

 

 

「時間もないけど、一旦解散しよう。」

ヘリオスが苦悩していると、傍らのパーマーが口を開いた。

「また後で集まって、そこで再度諸君の意見を聞く。それまでに各々考えを固めといて欲しい。」

 

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