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会見数時間前。
マックイーン以外の生徒会メンバーは、再び一室に集まった。
学園にいないビワとブルボンもリモートで会議に参加していた。
全員が集合すると、まずパーマーが口を開いた。
「マックイーンの出した案について再度賛否を取ります。ウマ娘界の今後を大きく左右する事案であるので、それぞれ理由付きで賛否を表明して下さい。」
先程集合した時と違い、パーマーの雰囲気は氷山のように険しくなっていた。
いや彼女だけでなく、他のメンバーも皆雰囲気が段違いに張り詰めていた。
まさにウマ娘界が大きな岐路に立たされているという空気が室内に充満していた。
「まず、私から表明します。」
最年少のトップガンが一番先に手を挙げた。
「先程も述べた通り、生徒会長の案には反対です。考えてみましたがやはりあの案は、特に後半部分は危険性が高いです。それにゼファー先輩も述べていましたが、今は天皇賞・秋の件の解決に尽力すべきであり、他の事案を絡めることはいたずらに事態の混乱を招くだけだと思います。」
「トップガンと同意見です。」
トップガンが意思表明を終えると、すぐにぜファーが手を挙げた。
「現在の最優先事項は天皇賞・秋の件です。この件だけでもまだ先行きが決して明確でない難題です。元々生徒会もこの件だけを中心に対策を練ってきました。それなのに突然他の難題まで組み入れることは無理があります。副会長やブルボンはその正当性を述べていましたが、いずれもそれらは希望的観測だけで現実的リスクを顧みない思考だと思います。どうしてもやるべきだと思うならばそれは天皇賞・秋の件が解決してからであり、それが解決しないうちは他の事案は一切組み込むべきではないと思います。」
ゼファーは断定するように言った。
「副会長、あなたの意見は?」
ゼファーの意見を聞いた後、パーマーはルビーを見た。
「…。」
ルビーは眼を伏せて、先に他の役員達へ答えを促した。
『私は賛成です。』
リモートで参加しているブルボンが、いつもの無感情な声で言った。
『理由は先程と変わりません。療養施設のウマ娘の切迫です。相次ぐ凶事の連続で彼女達の心はもう折れかかっています。今、我々が大きな決断をして動き出さねば、彼女達の絶望を止めることは出来ないと判断しました。』
ブルボンは自らの意志が変わらないことを明確に示した。
意見が割れ、室内の雰囲気は更に重くなった。
「私は反対です。」
重い空気の中、パーマーが口を開いた。
「案に出されていた(6)〜(12)の件は、もっと入念に準備して出さねばならない重要な案件です。まだ我々の間でも議論すらされてなかった件を生徒会長の独断だけで出すのは危険極まりません。ゼファーも言ってたように今は秋天の件の解決に尽力すべきです。もしこの案を通してしまった場合は、天皇賞・秋の件も収束に向かうのは不可能だと断じられます。」
「悠長ですわ。」
パーマーの言葉の後、ルビーがゆっくりと口を開いた。
普段の宝石を散りばめたような声色の中に言いようのない低さを混じらせて。
「どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味です。」
聞き咎めたパーマーに言葉を返し、そして続けた。
「確かに天皇賞・秋の件の解決が最優先事項なのはその通りです。しかし、生徒会長が示された案にあった件も、ウマ娘界にとって最重要と言える大きな難題です。この難題が公に出来なかった理由は、ウマ娘界の隆盛以後我々が現状を変えようという行動をせず、その機会を悉く逸してきたからです。ハマノパレード先輩の事件、サンエイサンキューの事件…そういった有事の際にこの件を公にし、ウマ娘界の最重要課題の解決を大きく進めるべきだったのに、それをしなかった。ひとえにリスクを恐れ、現状に甘んじようとした。その結果、多くの同胞が苦しみの果てに追い込まれました。」
言いながら、ルビーは美しい眼を針のように光らせて室内全員を見渡した。
「ですが今、我々は天皇賞・秋の件で、リスクを恐れずウマ娘界の尊厳を示そうという行動しています。この機を逸してはなりません。ウマ娘界の最重要課題であるこの件も公にし、解決に向けての大きな前進を踏み出すべきだと思います。」
「副会長、」
ルビーが言葉を終えた後、先程も彼女と激論していたゼファーが再び尋ねた。
「何度も言いますが、それはリスクの大きさが天皇賞・秋の件の比ではありません。副会長自身も先程、より多くの同胞を不幸にしかねない危険性があると言ってました。危険性を知りながらなおも行動する。それは生徒会としてあまりにも無責任ではないでしょうか。」
「この件は当初からパンドラの箱同然ですわ。いつだろうとその危険性は変わりません。」
ゼファーに対し、ルビーは先程と違い厳しい口調で反論した。
「実際、今この件を公にしたらその反動は大きいでしょう。不幸な目に遭うウマ娘が出るのも確実です。でもそれは受け入れなければなりません。」
「その口調ですと、自らにその不幸がふりかかるよう望んでいるようですね。」
ゼファーは冷ややかな表情を見せた。
「その覚悟と決意は尊重します。ですが受け入れられません。どうやら生徒会長と同じく副会長も私情が混入しているように思います。」
「ゼファー、」
「私情の混入ほど、大事の際に不要かつ有害なものはありません。」
眼を見開いたルビーに、ゼファーは引かずに視線をぶつけた。
「何度も言いますが、どうしてもこの件を公にするならば天皇賞・秋の件の解決後です。例え解決後でも、世間の耳目はまだしばらくウマ娘界の行動に注視するでしょう。なのにここまで性急に動こうとする意味が分かりません。」
『急ぐ必要はあります。』
リモートで会話を聞いていたブルボンが口を開いた。
『先程も言いましたが、療養ウマ娘達とオフサイドトラップの為です。天皇賞・秋の件の解決だけでは彼女達の絶望は止められません。ウマ娘界の尊厳の奥底まで衝いた内容でなければ、この絶望の流れを止められない。何より、オフサイドトラップに巣食う〈死神〉と闘うことは不可能でしょう。』
“オフサイドトラップに巣食う〈死神〉”
その言葉にまた、室内の空気が張り詰めた。
『そうですね。』
もう一人、メジロ家別荘からリモートで参加しているビワが口を開いた。
『今朝のオフサイドの状態ですが、もう〈死神〉の様相が露わになっていると岡田トレーナーから報告がありました。私自身、彼女の姿を見てそれを強く感じました。このままでは惨劇を避けられそうにありません。彼女の心を取り戻す為には、天皇賞・秋の件だけでは難しい。案に出されたような件でなければ厳しいでしょう。』
中立を表明していたビワは、暗に賛意を表明した。
「…。」
ビワの言葉に、ゼファーは黙った。
オフサイドがそのような状態になってしまったのは騒動中の生徒会の対応が遠因でもある以上、強い言葉での反論は難しかった。
その時。
「随分な話をされてますわね。」
部屋の扉が開き、マックイーンが室内に現れた。
「!」
「…」
場にいる全員が、それぞれの思いがこもった視線で彼女を見つめた。
「どうやら、生徒会内も意見が割れたようですわね。」
話し合いを聞いていたらしいマックイーンは、入室すると空いている一席に腰を下ろした。
「でもほぼ半々ですか。でしたら、この私の案を優先して頂くことになりますわ。」
「…生徒会長、」
トップガンが、幼さが残る眼を光らせてマックイーンを見据えた。
「何故このような案を直前になって出したんですか?」
「有無を言わせる時間など与えずに案を通そうというのは、政治の手法の一つですわ。」
「慎重に吟味しなければならない内容なのに、急過ぎるとは思わなかったのですか?」
「吟味?私はこの件に関してはずっと以前から考えを練っていましたわ。」
マックイーンは冷徹な微笑でトップガンを見返した。
「ずっと以前から?」
「ええ、ウマ娘界最大のタブーであり難題ですから、生徒会員である以上、その解決策を考えるのは当然ですわ。もっとも、この件をこのタイミングで公にすることになるとは思っていませんでしたが。」
「我々の反対を受けることは」
「それも想定済みでしたわ。」
ゼファーが言うより早くマックイーンは答えた。
「でも、何も全員の賛成が必要なわけではありません。半分入ればいい。それだけの賛同がいることはもう予測ついてました。」
現にそうなりましたねと、マックイーンはまた微笑した。
思わずゼファーは背筋がぞっとした。
「流石は生徒会長ですね。」
畏怖の念を感じてゼファーも微笑を返し、そしてそれをすぐに消して、再び強い口調で尋ねた。
「この案を出した真意はなんでしょうか?」
「同胞の未来の為ですわ。」
マックイーンは即答した。
「この世界で輝くことなく消えていく運命にある同胞達を救う為、私はこれを公にしようと決めました。勿論、オフサイドトラップのことも含めてです。」
「我々の相談も得ずにですか。」
「時間もありませんでしたから。」
そこまで答えると、マックイーンは再び全員を見渡した。
「事実、もう時間がありませんわ。賛否もまとまったようなので、案の整理、会見の進行や役割について相談をしましょう。」
「生徒会長。」
強引に話を進めようとしたマックイーンに、ずっと黙っていたヘリオスが口を開いた。
「なんですかヘリオス。」
「この案については、どうしても私は賛成することが出来ません。」
「ヘリオス、」
最後になって反対姿勢を示したヘリオスに、マックイーンはある予感を感じながら、言葉を返した。
「あなたはそう言いますが、この案を通すことは確定しましたわ。」
「ええ。それは分かっています。しかし賛成出来ない以上、私は生徒会役員としての義務を果たせそうにない。…よって、」
言いながら、ヘリオスは腕につけている生徒会の腕章を外し、机の上に置いた。
「私ダイタクヘリオスは、ただ今をもちまして、生徒会役員の職を辞します。」
「ヘリオス。」
「…。」
眼を見開いて自分を見上げたルビーを、ヘリオスは決して見ようとはしなかった。
時刻は、会見の時間まであと2時間を切っていた。