1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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〈死神〉と墓標(過去録・1)

*****

 

 

オフサイドを乗せたメジロ家の車中。

 

車中、脚の痛みを感じつつ過去の回想をしていたオフサイドは、心身の疲労からか、いつしか眠りについていた。

眠っている最中にも、彼女の脳裏を蠢くのは、過去の記憶だった。

 

 

 

*****

 

 

 

1年前の、7月末。

 

4度目の療養を始めて2ヶ月近く経ったオフサイドは、この日の治療を終え、食堂で一息ついていた。

 

 

「お疲れ様、オフサイド。」

コーヒーを飲んでいるオフサイドに、声をかけてきた療養仲間がいた。

「あ、お疲れロイヤル。」

声をかけたのはオフサイドと同期の5年生、芦毛ウマ娘のロイヤルビームだった。

 

「あなたも今治療終わった所?」

「うん。ちょっと長引いてね。」

立ったまま、ロイヤルは脚をさすりながら答えた。

「痛みが結構残っててね。かなり状態が良くないみたい。」

「そう…大変だったわね。」

オフサイドはロイヤルの脚と表情を交互に見つめた。

「どうしたの?」

「いや、別に。」

質問をかわすと、オフサイドはコーヒーを飲み切って食堂を出ていった。

 

 

オフサイドが出ていった後、ロイヤルはジュースを用意すると、食堂の一席に座ってそれを飲みながら一息ついていた。

「イタタタ…」

一息している最中も、彼女の頬は脚の苦痛で度々歪んでいた。

 

 

「大丈夫?」

痛みに苦しむロイヤルに、後ろから声をかけてきた療養ウマ娘がいた。

 

「…エクス先輩。」

「かなり苦しそうね。鎮痛剤は飲んでるの?」

「いえ、もう飲みたくないんで飲んでません。すみません心配かけさせてしまって。」

「いいのよ。」

声をかけた先輩ウマ娘、6年生の鹿毛ウマ娘のエクスプレスランドは笑顔で答え、労わるようにロイヤルの頭を撫でた。

 

 

「エクス先輩、ロイヤル先輩、お久しぶりです。」

二人のもとに、今しがた食堂に現れたウマ娘が歩み寄ってきた。

 

「あら。」

「どうしてあなたが?」

荷物を手に現れた後輩ウマ娘を見て、二人は怪訝な表情を浮かべた。

「今日から、また療養生活なんですよ。」

「え?」

「…また発症してしまったんです。」

4年生の栗毛ウマ娘のトロストキングは、先輩二人よりも疲れ切った表情で薄く笑った。

 

 

その後、食堂にいた三人は、それぞれの病室に戻っていた。

 

 

 

病室に戻ったロイヤルは、ベッドに横になっていた。

 

ロイヤルの病室には他にベッドが3つあるが、使用しているのはロイヤルだけ。

といっても最初から彼女一人だったのではなく、元々はロイヤル含めて4人で生活していた。

しかし生活していた仲間達は皆、帰還或いは引退し、現在はロイヤル一人になっていた。

 

…もう、限界かな。

脚の痛みに顔を顰めながら、ロイヤルの眼は灰色の天井を見つめていた。

 

 

 

エクスの病室には、彼女の他に数人の病室仲間がいた。

 

仲間達と言葉を交わしながら、エクスはベッドに腰を下ろした。

〈死神〉に冒された脚にはそこまで痛みはない。

むしろ何故か清々しいぐらいの感覚を覚えるほどだ。

そしてエクスの心境も、不思議な程清々しかった。

 

その清々しさを感じながら、エクスはつと眼を瞑った

…スピアー、フライト…

眼を瞑った彼女の瞼の裏には。かつての盟友の姿が浮かんでいた。

 

「エクス先輩。」

「ん?」

眼を開けると、後輩の仲間が松葉杖を手にエクスの前に立っていた。

「リハビリに付き合って貰ってもいいですか?」

「ああ、いいよ。」

エクスは気さくな笑顔で答えて立ち上がると、仲間と病室を出ていった。

 

 

 

トロストが戻った病室にも、後輩の療養ウマ娘がいた。

 

「トロスト先輩、また発症してしまったんですか。」

「まあね、また来ちゃったよ。」

後輩の問いかけに笑いながら答えつつ、トロストは荷物を下ろすと、自らも床に腰を下ろした。

「3ヶ月も持たなかったよ。まあ笑ってちょうだい。」

「笑うなんて…」

「あはは、冗談よ。」

トロストは薄笑いを浮かべながら手を振った。

「ま、そんなに長くいないから安心して。」

 

「え?」

「…。」

不安な反応をした後輩を見ず、トロストはベッドにごろっと横になった。

 

 

***

 

 

一方、先に食堂を出ていたオフサイドは、その足で椎菜の医務室へと向かい、彼女と会って話をしていた。

 

「ロイヤルの病状について聞きたい?」

「ええ、彼女の様子がかなり苦しそうだったので。」

「そう…流石に鋭いね。」

オフサイドの質問に、椎菜は資料を取り出してオフサイドに見せた。

「ロイヤルビームの脚の状態はかなり悪化しているわ。それだけでなく、彼女のメンタルが相当追い詰められてる。今、一番危険な状態だわ。」

 

「…。」

オフサイドは無言でロイヤルの資料に目を通し、それを返してから口を開いた。

「他に、状態が厳しい者はいますか?」

「他は…そうね。」

椎菜は資料をしまうと、険しい表情で腕を組んだ。

「病状はそこまででもないけど、エクスプレスランドかな。」

「エクス先輩が?」

「数ヶ月前からだけど、もう復帰を諦めて引退を決意してるみたいだわ。最近は心の整理をつける為に日々を送っている感がある。」

 

「…。」

「あと、」

眉を潜めたオフサイドに、椎菜は続けた。

「トロストキングが3度目の発症して、今日からまた療養生活を始めるわ。」

それを伝えた椎菜の表情はかなり曇っていた。

「かなり悪いんですか?」

「脚の状態はそこまで重度じゃない。だけど、さっき会ったトロストの様子は、かなり深刻だったわ。メンタル的にはロイヤルやエクスよりも危険かもしれない。」

 

「…。」

療養仲間達の厳しい状況を聞き、オフサイドは大きく息を吐いた。

彼女自身、心が疲労しているのか、あまり表情は良くなかった。

 

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