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オフサイドを乗せたメジロ家の車中。
車中、脚の痛みを感じつつ過去の回想をしていたオフサイドは、心身の疲労からか、いつしか眠りについていた。
眠っている最中にも、彼女の脳裏を蠢くのは、過去の記憶だった。
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1年前の、7月末。
4度目の療養を始めて2ヶ月近く経ったオフサイドは、この日の治療を終え、食堂で一息ついていた。
「お疲れ様、オフサイド。」
コーヒーを飲んでいるオフサイドに、声をかけてきた療養仲間がいた。
「あ、お疲れロイヤル。」
声をかけたのはオフサイドと同期の5年生、芦毛ウマ娘のロイヤルビームだった。
「あなたも今治療終わった所?」
「うん。ちょっと長引いてね。」
立ったまま、ロイヤルは脚をさすりながら答えた。
「痛みが結構残っててね。かなり状態が良くないみたい。」
「そう…大変だったわね。」
オフサイドはロイヤルの脚と表情を交互に見つめた。
「どうしたの?」
「いや、別に。」
質問をかわすと、オフサイドはコーヒーを飲み切って食堂を出ていった。
オフサイドが出ていった後、ロイヤルはジュースを用意すると、食堂の一席に座ってそれを飲みながら一息ついていた。
「イタタタ…」
一息している最中も、彼女の頬は脚の苦痛で度々歪んでいた。
「大丈夫?」
痛みに苦しむロイヤルに、後ろから声をかけてきた療養ウマ娘がいた。
「…エクス先輩。」
「かなり苦しそうね。鎮痛剤は飲んでるの?」
「いえ、もう飲みたくないんで飲んでません。すみません心配かけさせてしまって。」
「いいのよ。」
声をかけた先輩ウマ娘、6年生の鹿毛ウマ娘のエクスプレスランドは笑顔で答え、労わるようにロイヤルの頭を撫でた。
「エクス先輩、ロイヤル先輩、お久しぶりです。」
二人のもとに、今しがた食堂に現れたウマ娘が歩み寄ってきた。
「あら。」
「どうしてあなたが?」
荷物を手に現れた後輩ウマ娘を見て、二人は怪訝な表情を浮かべた。
「今日から、また療養生活なんですよ。」
「え?」
「…また発症してしまったんです。」
4年生の栗毛ウマ娘のトロストキングは、先輩二人よりも疲れ切った表情で薄く笑った。
その後、食堂にいた三人は、それぞれの病室に戻っていた。
*
病室に戻ったロイヤルは、ベッドに横になっていた。
ロイヤルの病室には他にベッドが3つあるが、使用しているのはロイヤルだけ。
といっても最初から彼女一人だったのではなく、元々はロイヤル含めて4人で生活していた。
しかし生活していた仲間達は皆、帰還或いは引退し、現在はロイヤル一人になっていた。
…もう、限界かな。
脚の痛みに顔を顰めながら、ロイヤルの眼は灰色の天井を見つめていた。
*
エクスの病室には、彼女の他に数人の病室仲間がいた。
仲間達と言葉を交わしながら、エクスはベッドに腰を下ろした。
〈死神〉に冒された脚にはそこまで痛みはない。
むしろ何故か清々しいぐらいの感覚を覚えるほどだ。
そしてエクスの心境も、不思議な程清々しかった。
その清々しさを感じながら、エクスはつと眼を瞑った
…スピアー、フライト…
眼を瞑った彼女の瞼の裏には。かつての盟友の姿が浮かんでいた。
「エクス先輩。」
「ん?」
眼を開けると、後輩の仲間が松葉杖を手にエクスの前に立っていた。
「リハビリに付き合って貰ってもいいですか?」
「ああ、いいよ。」
エクスは気さくな笑顔で答えて立ち上がると、仲間と病室を出ていった。
*
トロストが戻った病室にも、後輩の療養ウマ娘がいた。
「トロスト先輩、また発症してしまったんですか。」
「まあね、また来ちゃったよ。」
後輩の問いかけに笑いながら答えつつ、トロストは荷物を下ろすと、自らも床に腰を下ろした。
「3ヶ月も持たなかったよ。まあ笑ってちょうだい。」
「笑うなんて…」
「あはは、冗談よ。」
トロストは薄笑いを浮かべながら手を振った。
「ま、そんなに長くいないから安心して。」
「え?」
「…。」
不安な反応をした後輩を見ず、トロストはベッドにごろっと横になった。
***
一方、先に食堂を出ていたオフサイドは、その足で椎菜の医務室へと向かい、彼女と会って話をしていた。
「ロイヤルの病状について聞きたい?」
「ええ、彼女の様子がかなり苦しそうだったので。」
「そう…流石に鋭いね。」
オフサイドの質問に、椎菜は資料を取り出してオフサイドに見せた。
「ロイヤルビームの脚の状態はかなり悪化しているわ。それだけでなく、彼女のメンタルが相当追い詰められてる。今、一番危険な状態だわ。」
「…。」
オフサイドは無言でロイヤルの資料に目を通し、それを返してから口を開いた。
「他に、状態が厳しい者はいますか?」
「他は…そうね。」
椎菜は資料をしまうと、険しい表情で腕を組んだ。
「病状はそこまででもないけど、エクスプレスランドかな。」
「エクス先輩が?」
「数ヶ月前からだけど、もう復帰を諦めて引退を決意してるみたいだわ。最近は心の整理をつける為に日々を送っている感がある。」
「…。」
「あと、」
眉を潜めたオフサイドに、椎菜は続けた。
「トロストキングが3度目の発症して、今日からまた療養生活を始めるわ。」
それを伝えた椎菜の表情はかなり曇っていた。
「かなり悪いんですか?」
「脚の状態はそこまで重度じゃない。だけど、さっき会ったトロストの様子は、かなり深刻だったわ。メンタル的にはロイヤルやエクスよりも危険かもしれない。」
「…。」
療養仲間達の厳しい状況を聞き、オフサイドは大きく息を吐いた。
彼女自身、心が疲労しているのか、あまり表情は良くなかった。