1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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修羅(3)

*****

 

再び、トレセン学園。

 

学園の一室に設けられた会見場には、多くの報道陣が集まっていた。

現在の状況が状況だけに、会見場は険しい空気に満ちていた。

 

そして日が暮れた頃、マックイーンら生徒会と椎菜が会見場場に到着した。

彼女らが現れると、場内の雰囲気は更に緊迫感が増した。

 

「お待たせしました、これより、今回のトレセン学園の断行についての会見を始めます。」

緊迫感が立ち込める中、マックイーンの挨拶のもと、会見が始まった。

 

 

「まず、トレセン学園が今回下した断行について、その理由を簡潔に述べさせて頂きます。」

挨拶後、マックイーンが淡々と切り出した。

「皆様もご周知のことと思われますが、先月開催された第118回天皇賞・秋の優勝者であるオフサイドトラップが、レース後の言動などについて多くの誹謗中傷を受けました。また、彼女の名誉を著しく傷つける発信も数多くありました。学園はこれを看過できない案件と踏まえ、熟議を尽くした末に今回の断行に至った次第です。」

 

「生徒会長、」

マックイーンの切り出しに対し、すぐに報道陣の一人が声をあげた。

「天皇賞・秋後の騒動については、一部の過激なファンにより学園も被害を受けたことは把握しています。その件に関して法的処置を執ったことについては至極当然だと思います。ですが、その他の処置については疑問視する声が多く聞かれます。そのことについてはどう考えていますか?」

 

「その他の処置…」

報道陣の声に対し、マックイーンは予め想定していたように問いかけを返した。

「処置に対する疑問というのは、オフサイドトラップに対する誹謗中傷に対する処置も含まれていますか?」

「いえ、それを含めた処置をとる前に、まず学園側がするべきことがあるのではないかという声です。」

「するべきこととは?」

「事の発端であるオフサイドトラップの、秋天後の言動についての処置です。」

 

「オフサイドトラップの言動については、学園は問題ないとの結論を下しています。」

マックイーンに代わり、パーマーが返答した。

「その件に関して、学園と世間でかなり認識のズレがあるように思います。」

パーマーに対して、更に他の報道記者が声をあげた。

「ファンや識者の多くは、オフサイドの言動が非常に軽率であったという認識が強いことは学園も周知でしょう?そのことについては…」

 

「学園側の認識は、その認識こそが軽率であったという見方で一致してます。」

反論した報道陣に対し、パーマーはその言葉の終わりを待たずに断とした口調で言い放った。

「オフサイドの言動については、学園は何度も厳密に調査しましたが、全くもって問題はありませんでした。」

「あの“笑いが止まらない”発言もですか?」

「レースの勝者がその喜びを表現しただけです。何の問題が?」

「喜びの表現というには余りにもぞんざいです。スズカの故障を喜んだと見られても仕方ないでしょう。」

 

「…この点に関しては、前々から全く平行線のままです。これ以上議論しても意味がありません。」

パーマーと記者のやりとりを見て、今度はトップガンが口を開いた。

「この点も含めてですが、今回の騒動を受けた学園側として感じたことは、ウマ娘と人間とでのレースに対する意識の乖離がかなりあったということです。」

 

「ウマ娘と人間の意識の乖離?」

「ええ、華やかな娯楽としてレースを観る人間と、未来を懸けてレースに挑むウマ娘との差です。」

トップガンの不穏な言葉に、会見場の空気が更に緊迫した。

 

「今回の騒動の原因の一つは、人間の中でサイレンススズカが神格化され過ぎていたことです。」

生徒会の中でも明るい性格であるトップガンだが、この時は硬い表情で淡々と言葉を続けた。

「人気が高いこと自体は全く問題ありませんし、評価が幾ら高くてもそれは構いません。ただ、そのことで他のウマ娘、ましてやレースの勝者が蔑ろにされることがあってはならないのです。なのに、今回はそれが起きてしまった。これはあってはならないことです。」

 

「サイレンススズカが最後まで走った上で、それでオフサイドトラップが勝ってたならば、そんなことは起きなかったですよ。」

トップガンの言葉に対して、報道陣が反論した。

「あのレース結果はアクシデントありきのものだったのは明白です。それらを考慮しないばかりか、故障したスズカへの配慮すらせずに軽率な表現で喜びを表したのだから反発があるのは当然でしょう。」

「つまり、勝利を喜ぶに値するような内容ではなかったということですか?」

「そこまでは言いません。ただ、オフサイドが内容や状況に配慮する言動をしていたら、彼女への評価も違っていたでしょう。彼女の未熟さが、レースへの低評価に繋がったことは違いないです。」

 

「…配慮しないことが配慮だった、という考えはないのですね。」

頑なに追及する記者達の態度に、トップガンの傍らのゼファーが、溜息を吐くように言った。

「はい?」

「いえ、なんでもありません。トップガンの言う通り、もう議論の余地もないですね。というよりそもそも議論する場でもないですが…どうぞ、生徒会長。」

ゼファーは報道陣達をあしらうとマックイーンの方を向き、何かを促すように目配せした。

 

「ええ。」

マックイーンは頷くと報道陣達に向き直り、彼等とその背景にいるファン達に対して、裁断を下すような冷徹な口調で言った。

「この断行については、ファン・識者の方々から多くの意見を頂いていますが、学園はこの断行を撤回する意志はないことを、ここにはっきりと明確にします。」

 

「…。」

断固な意志を明確にした生徒会に対し、報道陣は気圧されたように騒めいた。

 

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