「あの、」
気圧され気味の報道陣の中から、新たな質問が飛んできた。
「オフサイドトラップ自身は、自らの言動をどう顧みているんですか?」
「…オフサイドトラップ自身は、ですか。」
マックイーンの冷徹な表情が、微かに動いた。
その変化に付け入るように、記者の質問が続いた。
「生徒会側がずっと彼女の代弁をするような対応をしていますけど、当事者がどう思っているかがやはり重要だと思います。」
「…。」
マックイーンの冷徹な雰囲気が、刺々しい刺すような雰囲気に変わっていった。
秋天後の騒動を受けて憔悴していったオフサイドの姿が、彼女の脳裏に蘇っていた。
「…生徒会長、落ち着いて。」
マックイーンの傍らのパーマーは、彼女の心情を素早く察知し、小声で抑えるに声をかけると、彼女に代わって返答した。
「オフサイドトラップは、自身の言動については未だ一切語っていません。」
「つまり、本人は良くない言動だったと暗に認めているんですね?」
代わって返答したパーマーに対しても、すぐに言葉が飛んできた。
「…どうしてそういう意見になるんですか?」
「自らの言動に自信があるならばその理由を明らかに出来る筈ですから。それが出来ないということは、つまりそういうことだと受け取られても仕方ないと思いますけど。」
「…。」
記者の指摘の数々に、パーマーもマックイーンと同じく心の動揺を感じ、返答を止めた。
「オフサイド本人が黙っているのには、理由を明らかにするには今が適切な時期ではないと判断したからでしょう。」
心を落ち着かせつつ、再びマックイーンが答えた。
「適切な時期でない?」
「世論の風潮が一方的過ぎて、現時点ではその理由がとても理解されないからということです。」
「本人が生徒会にそう伝えたのですか?」
「伝え聞いてはいませんが、そうではないかと推測しています。それに生徒会としては、前述のように言動を無問題としたので、理由を強制する必要性もありません。」
「ですが、世論は…」
「その点に関してはもう議論の意味がありません。」
マックイーンはこれ以上この質問には答えないと、言葉で示した。
「断行を含め、今回の学園側の対応は非常に残念です。」
マックイーンの対応を見て、報道陣から新たな言葉が聞こえた。
「今回の件を受けて、ファン達から大きな反発を招くのは必死だと思います。また学園の関係各所にも大きな影響を与え、今後のレースの開催などが危ぶまれる事態になることも予想されます。それでも宜しいのでしょうか?」
「ウマ娘と人間が共生していく未来の為ならば、それもやむを得ません。」
マックイーンは、ぽつりと返答した。
その口調には、それまでと違う重みと翳りがあった。
「…。」
「…?」
マックイーンの言葉を聞き、生徒会の面々は表情が硬くなり、報道陣達は異変を感じた。
会見場の空気が、俄かに変わっていった。
「今まで公にはされてませんでしたが、今回の騒動は別の場所にも波及していましたわ。」
マックイーンは、芦毛の美髪を微かに揺らめかせ、翳りある口調で言葉を続けた。
「別の場所とは?」
「オフサイドトラップが長年生活を送ってきたウマ娘療養施設です。あなた方人間から彼女が受けた仕打ちの影響と、我々生徒会が彼女を守りきれなかった影響を、その地で故障と闘うウマ娘達は多大に受けていました。」
*****
同時刻、療養施設。
施設内が暗い雰囲気に覆われている中、療養ウマ娘達はTV中継或いはネット中継で学園の会見を観ていた。
「…やっとか。」
病気療養ウマ娘の集まった部屋。
会見の様子を観て、療養ウマ娘達がぽつりと言葉を漏らした。
「やっと、ここの声が公に伝わるんだね。」
「今回の騒動で、私達が受けた悲しみと苦悩が明らかになってくれるのか。」
「…失ったものの数もね。」
「遅過ぎたけどね。」
療養ウマ娘達は、少しの感慨もない様子だった。
「多分、私達が1番知りたくない真実も明かされるだろうな。心、耐えられるかな。」
「分かんないよ、もう。」
療養ウマ娘の一人が胸に掌を当て、一人は頭を抱えた。
「私達、絶望だけじゃなく憎しみまで滲み出してるんだもん。それも同胞への、理不尽なものまで。…苦しい、耐えられそうにない。」
病気療養ウマ娘達の苦悩は、濃く深くなっていた。
一方、怪我療養ウマ娘達。
「人間はさあ、いつまで愚かなのよ。」
彼女達は、病気療養ウマ娘達と比べて暗さは深刻ではなかったが、会見の様子やSNSの反応を見て、不穏で険悪な雰囲気は更に増していた。
「いつまでウマ娘に自分達の要求を押し付けるつもりなのさ。これ全部、スズカにはね返ってくるって分かんないのかな?」
「分かってないから、こんな騒動が起きたんだよ。」
「オフサイドトラップを慕っていたウマ娘の悲しみとかにも、気が回らないんだろうな。」
「回る訳ないよ。だってこの世界に、弱くて脆いウマ娘は不必要とされているんだから。」
療養ウマ娘は包帯の巻かれた脚に視線を落とした。
「不必要…そんなこと決めつけられていい同胞なんて一人もいないのに。だから私達は、闘い続けてるのに…。」
そして、特別病室。
サイレンススズカと沖埜も、生徒会の会見の中継を観ていた。
共に会見を見守る中で、沖埜はスズカの状態を心配し何度か声をかけた。
その度、スズカは大丈夫ですと首を振っていた。
一昨晩に初めて明かされた天皇賞・秋後の騒動・昨晩の自らの帰還未遂・ライスシャワーの帰還と立て続けに起きた事の影響はスズカの心身を深く蝕み疲弊させている筈だが、彼女はそれを耐えて生徒会の会見を見守っていた。
この騒動の原因である張本人としての責任と、今後の自らの為すべきことを見つける為に。
*****
再び、学園。
「ウマ娘療養施設医師の渡辺椎菜です。」
マックイーンの言葉の後、彼女の傍らでずっと沈黙していた椎菜が口を開いた。
この場で唯一、ウマ娘側の席にいた人間が遂に動き出したことに、場内はまたこれまでと違う緊張感が流れだした。