「ただ今マックイーン生徒会長が言われましたように、今回の騒動は療養施設で生活しているウマ娘達にも大きな影響を与えています。そのことについて、この場で公にお伝えします。」
緊迫感が立ち込める中、椎菜はゆっくりと話し始めた。
「どういうことですか?」
別方向からの話に、報道陣は戸惑いの色を見せ始めた。
現在療養施設には報道規制が敷かれてるので、最近の施設での出来事は外部に一切知らされていない。
とはいえそれ以前の療養施設で報道が注目してたのはスズカのことだけなので、療養ウマ娘達の変化などに気が回る筈もなかったが。
どちらにしろ、報道陣にとっては予想してない方向からの話題だった。
「今回のオフサイドトラップに対する心ない世間の風潮が、療養ウマ娘達を精神的に追い詰めているんです。」
戸惑いを見せる報道陣に構わず、椎菜は淡々と言葉を続けた。
ともすれば爆発しそうな感情を堪えて。
その後、椎菜は療養ウマ娘達のことについて簡潔に説明した。
オフサイドが療養ウマ娘達から深く慕われていたこと、秋天後の彼女への誹謗中傷などが療養ウマ娘達も深く傷つけていたことを。
「サイレンススズカの走りだけに夢と希望を描いていた人間達には想像すらしてなかったでしょうが、オフサイドトラップの走りに夢・希望を託していたウマ娘も沢山いたんです。秋天後の騒動は、そんな彼女達の夢も希望も全て壊してしまいました。」
椎菜は、最後まで淡々と話した。
「オフサイドの言動で深く傷ついたファンも多いですけど。」
療養ウマ娘達の現状を話した椎菜に対し、戸惑っていた報道陣からすぐに声が上がった。
「何をどう傷ついたんですか?」
その声に対し、椎菜も即座に言い返した。
「“笑いが止まらない”発言のことですか?それは何の問題もない発言を屈折した受け取り方をしただけ狂信的なファンの自業自得じゃないですか。」
「“狂信的”?それはファンに対して無礼では?」
「現実から目を背けて幻想に浸り続けて勝者を蔑ろにするような人間達を狂信的なファンと言わずして何ですか?」
気色ばんだ報道陣に対し、椎菜は全く退かずに、更に言葉を続けた。
「言葉が過ぎてるよ、渡辺医師…」
「そんな狂信的な連中を膨張・増長させ、ウマ娘のレース、栄誉ある天皇賞の尊厳すら破壊するまでに至らせた原因は、あなた方のような偏向に満ちた報道陣や識者じゃないのですか?」
「なっ…」
「尊厳を破壊したことにすら気づかず、過ちも頑なに認めず、狂信的なファンの暴走を許すとは、それでもウマ娘界に携わる人間としての自覚はあるんですか?恥を知らないんですか?今すぐにでもウマ娘界から去って、2度とこの世界に関わるなと言いたい位です。」
反論の暇すら与えず、椎菜は全く容赦ない勢いで言葉を突き刺しまくった。
彼女の中で堪えてたものが、少しずつ壊れ始めていた。
「…。」
椎菜の言葉の迫力と、そこに込められた感情の重さに、報道陣は沈黙した。
「…。」
傍らで聞いていた生徒会の面々、ゼファーもトップガンもパーマーも、これまでとは全く違う椎菜の言動に驚いてる様子だった。
ただ一人マックイーンだけ、表情も動かさずゆったりと座って瞑目しながら、彼女の言葉に耳を傾けていた。
「偉そうなことを言うものですね。」
沈黙していた報道陣が、やがてまたぽつぽつと反撃し始めた。
「ウマ娘療養施設の責任者は、学園側についたということで宜しいですね?」
「医師とあろうものが随分と過激な考えをしているんだな、スズカの身が心配だ。」
「今の渡辺医師の発言に対し、SNSではファン達の反発が拡がっています。」
「どんな考えがあろうとも、先程の一連の言葉は失言の類いと思いますが。」
報道陣達は、椎菜に対して不信感を露わにした。
「あなた方がした軽薄で残酷な行為に比べれば何でもありません。」
報道陣達の反撃に対し、椎菜は全くたじろかなかった。
ただ彼女の中で、心の堤防が崩壊しかけていた。
心が爆発しそうなのを感じ、椎菜は一度深呼吸してから、再び言葉を続けた。
「…もういいです。騒動を受けて苦しんだ療養施設のウマ娘達がどれほどの状態になっているか…ここまで表現を抑えてきましたが、どうやらあなた方や狂信的な人間達の想像力は絶望的な程に乏しいようなので、はっきりと明らかにします。」
「…なんだって?」
反発心を強めていた報道陣達は、なんだか寒気が走ったような表情をした。
「…。」
一方の生徒会は、トップガンは悲しげな瞳で虚空を見つめ、ゼファーは溜息を吐きながら片肘を突き、パーマーは俯き気味のまま唇を結び、マックイーンは瞑目したまま少しも表情を変えなかった。
椎菜は周囲を見渡しながら、言った。
「天皇賞・秋の騒動後、複数の療養ウマ娘が精神的苦痛により帰還しました。」