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再びトレセン学園。
宣言後、マックイーンは冷徹な口調に変え、ゆっくりと話し始めた。
「故障などの理由でレースを引退し学園を去ることを余儀なくウマ娘達、その数はこの中央トレセン学園だけでも年間で相当な数に達します。その中で、私や生徒会の面々のようにレースで大きな実績を残したウマ娘は、引退後の余生も保証されています。…しかし、レースで実績を挙げられなかったウマ娘達の余生については、保証されていないのが現実です。」
冷徹な口調に容赦ない威厳を漂わせ、マックイーンは更なる内容に踏み込んできた。
「保証されてないウマ娘達は、いずれは路頭に迷うような末路が待ち受けています。周知の通り、ウマ娘は人間社会に適合・順応していくのが難しく、生き残っていく為には人間の協力と保護が不可欠な種族だからです。なので路頭に迷うウマ娘は、事実上余生が絶たれたも同然です。そうなると、ウマ娘達は人間社会を乱す危険な存在となりかねない。なのでその前に、手を打たねばならない現実がありました。」
「その現実というのが、先程言った“帰還処置”。」
傍らの椎菜が、乾ききった声でその言葉を再び口にした。
「ええ、その通りです。」
マックイーンは軽く頷き返して、表情を変えずに言った。
「何も知らない一般の人間の方々にとっては衝撃かも知れませんが、それが現実です。」
「…生徒会長、渡辺医師。これは公共に発していい内容ではありません。」
完全に一線を越え始めた内容に、報道陣達が騒然とし始めた。
「ただ、このような処置が行われてきた理由には、ウマ娘と人間の歴史背景というのもありました。」
マックイーンは騒然とする報道陣に構うことなく、更に踏み込んだ内容に突入しようとした。
「マックイーン生徒会長!内容が過激な上に完全に本題と逸れています!」
「会見の中止を求めます!これ以上中継は出来なくなります!」
無視するマックイーンに対し、報道陣達から怒号が飛んだ。
「どうぞ、ご勝手に中継を止めても構いません。この会見の模様は学園のネット媒体からも全国中継させていますから。」
報道陣に対して言葉を返したのはゼファーだった。
「それに、生徒会長の話の内容が本題と逸脱してる訳ではありませんので。」
「どこがですか?秋天に関する件と引退後のウマ娘の余生の件とどこに共通点が…」
「オフサイドトラップは、余生なき末路を迎える筈だったウマ娘の一人なのですから。」
ゼファーはマックイーンと違い蒼白な表情であったが、マックイーン以上に冷淡な態度で報道陣達に対応していた。
「…そう、その末路の目前からの生還者なんです。オフサイド先輩…オフサイドトラップは。」
ゼファーに続いて、トップガンも緊張した面持ちながら口を開いた。
「その生還者が、今回の事態の中心である以上、この内容が無関係とは言えないのです。なにせ、生還者を侮辱し誹謗中傷までしてしまったのですから。」
「話を続けます。宜しいですね?」
ゼファーとトップガンの言葉の後、マックイーンは冷徹な表情に微笑を浮かべて、報道陣を見渡した。
絶対に逃られませんよという凄味が、その微笑に滲み出ていた。
「…。」
本気になった真女王と生徒会を前に、報道陣は反論が封じ込められたように沈黙した。
その後、マックイーンはウマ娘と人間の歴史(224話参照)の内容を話した。
華やかなレースの歴史の影で幾多のウマ娘達が消えていかざるを得なかったという内容も公表した。
しかし、ウマ娘が帰還を受け入れられるように人間から教育されてきたことに関しては、触れなかった。
「私達ウマ娘は、現在も人間の保護下でなければこの世界に存在できない種族であることは自覚しています。しかし、実績ある同胞や選ばれた同胞達のみが生き残れる歴史にはもう終止符をうち、新たなウマ娘と人間の共生社会を模索していかねばならないと思います。」
マックイーンは、最後まで冷徹な口調を崩さずに話しきった。
「…マックイーン生徒会長、」
話し終えたマックイーンに、沈黙を余儀なくされていた報道陣が質問した。
「話が本題と脱線し過ぎた上に内容もあまりに過激だったので我々も混乱してますが、幾つか尋ねたいことがあります。」
「なんでしょうか?」
「具体的に、どのようなことを今後望むのですか?」
「そうですわね…」
答えつつ、マックイーンは傍らの生徒会員に視線を向けた。
トップガンとパーマーは務めて自然な表情を保ったまま報道陣の方を向いていたが、ゼファーだけはマックイーンに対してやや険しい視線を向けていた。
マックイーンは彼女の視線に対して軽く頷き返し、そして返答を続けた。
「共生社会に関しては、まだ具体的な青写真は描けていません。ただ、過去の総精算はしなければならないと思います。」
「というのは?」
「あなた方人間が、我々ウマ娘を娯楽・経済種族として扱うようになっていたことの反省。…そして、我々ウマ娘界の中心である者達が、…同胞達の犠牲を…長年許してきたことの反省です。」
その返答をした時、マックイーンの冷徹な表情が初めて苦しげに歪んだ。
「ふっ…ふふっ、あはは…」
肌が粟立つような笑い声が聞こえた。
笑い声の主は、マックイーンの傍らの椎菜だった。
殺気を通り越して、冷め切ったような笑顔が、彼女の頬に浮かんでいた。
その笑い声に、場内は空白のような沈黙が流れた。
「…。」
マックイーンを除く生徒会の面々は、尋常でない椎菜の様子を前に非常に緊迫した表情を並べていた。
彼女達は、椎菜がこの会見に出席することに内心で恐れを抱いていた。
ウマ娘界の負の側面を一身に背負い続けてきた人間である彼女は、今回の騒動以前から人間だけでなくウマ娘の上層部に対しても大きな不信感を抱いていたであろうことは容易に推察出来たからだ。
この会見に出席したのも、マックイーンの頼みより椎菜自身の意思が大きい筈。
だから彼女は学園の側ではなく、療養ウマ娘の側の者なのだと、警戒感を抱いていた。
…。
ゼファーは、普段は穏やかな瞳を険しく光らせて、椎菜とマックイーンを交互に見ていた。
先程、マックイーンが言った『ウマ娘の中心者が同胞の犠牲を長年許してきた』という言葉。
あそこには、マックイーンの意思では、『経済種族とする為に人間がウマ娘を洗脳教育してきたこと』『過去のウマ娘達の犠牲を人間が隠匿してきたこと』などの項目も入る予定だった。
しかし、会見前の打ち合わせ(椎菜来訪前の)で、ゼファーはその部分だけは撤回させた。
マックイーンが提示した会見内容の大筋に最も反対していたゼファーだが、マックイーンの態度に全て撤回させるのが不可能であると判断し、パーマーやトップガンと相談して譲歩を引き出すことに方針を変え、代案を出した。
その結果、マックイーンは代案を受け入れて、前述の2つの項目は撤回した。
勿論、その代わりにこれ以上ゼファー達が反対姿勢はとらないという条件つきもあったが。
しかしこれでなんとかウマ娘と人間の対立が最悪レベルまで深刻化することは避けられたと、ゼファーは見ていた。
しかし…
“ウマ娘の中心者が同胞の犠牲を長年許してきた“…
こんな直接的な言葉を使うとは、ゼファーは(多分パーマーもトップガンも)予測出来なかった。
それは事実ではあるとはいえ、そのことを認めたら療養ウマ娘達にどんな影響を及ぼすか…
ゼファーは危惧した。
いや、その前に…
ゼファーは冷たい笑顔の椎菜を再び見た。
彼女の方が、危険かもしれない…
「…ふふ、ふー…」
やがて、椎菜は笑顔を止め、冷めきった表情でマックイーンを再び見つめた。
「マックイーン生徒会長、学園上層部が長年に亘る非を認めたことに、まず感謝致します。このことで、療養ウマ娘達や余生が不透明なウマ娘達が少しでも救われる未来が拓けゆくことを望みます。」
そう言った後、椎菜は再び報道陣に姿勢を向けた。
「ウマ娘の世界の最果て…療養施設で生きてきた人間として、伝えたいことがあります。」
「…。」
報道陣は、椎菜にカメラを向けた。
その時。
傍らのマックイーンの膝元にあるスマホに、無音で着信が届いていた。
椎菜に注目が集まっていたので誰も気づかなかったが、マックイーンは一瞬だけ視線を落としてその着信内容を読み取ると、視線を向けないまま手元を素早く動かし返信した。
『了解です 処置お願いします』
返信を終えると、マックイーンは何事もなかったように座り直した。
彼女のその動作には、誰一人気づかなかった。