1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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『第2章』
祝福と真女王(1)


*****

 

12月12日、朝。

 

ふぁー。

目覚めたゴールドは起きると気持ち良さそうに背伸びした。

時計を見ると7時。

今日から土日で学園は休みだ。

 

洗面と着替えを終え寮の食堂に向かうと、スペシャルウイークが親友の栗毛ウマ娘グラスワンダー(チーム『リギル』所属・2年生)と朝食をとっていた。

「スペ、グラス、おはよう。」

「あ、おはようございますゴールドさん!」

「おはようございます、ゴールド先輩。」

三人はそれぞれチームは違うが、以前からよくトレーニングを共にしており、親しい仲だ。

 

ゴールドは朝食をトレイに用意すると、二人と同じテーブルに座った。

「ゴールドさん、昨日は放課後トレーニングに来ませんでしたね。」

「ああ悪い。昨日は風邪引いたんで早退したんだ。もう治ったけど。」

答えながら、ゴールドは二人の朝食の量を見た。

「相変わらず凄い量食べてるね…。」

スペもグラスも、茶碗の上に白飯の塔を建てている。

二人ともターフでの強さは学年で数本の指に入る猛者だが、その大食いぶりも数本の指に入るだろう。

ちなみにゴールドの食量は極めて普通。

 

「今日の予定はどうなってるの?」

朝食を食べながら、ゴールドは二人に尋ねた。

「私はこの後すぐにスズカさんのお見舞いに行きます!明日まで泊まりがけの予定です!」

「…でしょーね。グラスは?」

「私は、午前〜夕方まで学園でトレーニングします。夜はチームの皆さんとディナーの予定です。」

「あー、じゃあ私もトレーニングに混ぜてもらって良い?」

「はい、喜んで。」

ゴールドの頼みに対し、グラスは特有の穏やかな笑顔と口調で承諾した。

 

 

朝食後、ゴールドとグラスは学園に行き、一緒にトレーニングを始めた。

 

「調子良さそうね。」

並んでランニングしながら、ゴールドはグラスの走りを見て言った。

「はい、脚の具合もかなり良くなりました。」

グラスは光る汗を拭って微笑すると、少しペースを上げた。

昨年の朝日杯を制し1年生王者となった後、故障により長期離脱していたグラスは、復帰戦となった秋の毎日王冠でスズカの5着に敗れた後、次の重賞レースでも6着と惨敗した。

1年生時の快進撃が霞む惨敗の連続に、ファンや専門家からは、グラスはただの早熟ウマ娘だったのか、という厳しい声も聞かれるようになった。

だがグラス本人は、惨敗の理由は単に怪我した脚の状態が良くなかったからだと思っている。

実際、脚の状態が良好になった最近は、トレーニングも大分順調にこなせるようになった。

「今度の有馬記念は、かなり良い状態で臨めそうです。」

脚に視線を落としながら、グラスは自信ある口調で言った。

 

有馬記念…そうか、あと二週間後か。

ゴールドは気付いたように思った。

年末のグランプリ、有馬記念。

ファン投票の最終結果は今夜発表されるが、中間投票の結果からしてゴールドもグラスも選ばれることは確定的だろう。

「グラスは、勝つつもり?」

「勿論です。」

ゴールドの言葉に、グラスは温厚な瞳を光らせた。

「復帰以来不甲斐ないレース続きで、私を応援して下さるファンの皆様をがっかりさせてしまいました。だから、次のレースは絶対負けられないんです。」

 

「絶対負けられない、か。」

ぽつりと、ゴールドはその言葉唇元で反芻した。

「どうしました?」

「いや。」

なんでもないわ、とゴールドは首を振った。

 

 

 

その頃。

学園の生徒会室では、有馬記念のファン投票の結果が、生徒会長のマックイーンに伝えられていた。

 

 

*****

 

 

午後。

場所は変わり、学園寮。

暗い寮部屋で一人読書をしていたオフサイドの元に、寮長から来客が訪れるという連絡がきた。

 

誰ですかと聞くと、来訪者は生徒会長のマックイーンだということだった。

生徒会長か…

誰とも会いたくなかったが、生徒会長ではやむを得ない。

オフサイドは了承した。

 

10分後、制服に着替え部屋の整理をし終えた頃、マックイーンが部屋に訪れてきた。

マックイーンの来訪は、これまでにも何度かあった。

 

「突然お邪魔して申し訳ありませんわ。」

「いえ、お気になさらず。」

生徒会長にお茶を出し、向かいあって座るとオフサイドは早速尋ねた。

「ご用件は何でしょうか?」

「はい。」

マックイーンはお茶を一口飲んだ後、懐から一通の書類を取り出し、オフサイドの前に差し出した。

「有馬記念の投票結果をお伝えに来ました。」

 

本来、こういった通知はトレーナーが学園で受け取るものなのだが、現在『フォアマン』にはトレーナーがいない為、リーダーのオフサイドが受け取ることになっている。

とはいえ、わざわざ生徒会長の方から訪れて手渡しするのは異例だが、そこは状況を考慮したマックイーンなりの配慮だった。

「…。」

オフサイドは無言で会釈し書類を手に取ると、それに記されている人気投票上位に選ばれたウマ娘のメンバーを見た。

その中に、ゴールドの名前はあったが、オフサイドの名前はなかった。

だが、彼女は特に表情も変えなかった。

 

オフサイドが結果を確認したのを見ると、既に結果を知っているマックイーンは再び口を開いた。

「有馬記念への出走はどうされます?」

ファン投票で選ばれた者から出走辞退者が出た場合、過去の実績が高い者から優先出走権が与えられる。

オフサイドは今年、天皇賞・秋を含め重賞3勝を挙げており、辞退者が出た場合はかなり優先的に出走権が与えられられるのは間違いない。

マックイーンが出走するかとまで尋ねたのは、既に投票人気上位者のうち数人が出走しないことが明らかになっているからだ。

 

マックイーンの尋ねに、オフサイドはしばらく考えこんだ。

その間マックイーンは上品な仕草でお茶を飲みながら、静かに彼女の返答を待っていた。

 

30分程経った頃。

「有馬記念に、出走登録させて頂きます。」

オフサイドは表情を俯かせ、小声で答えた。

 

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