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そして、天皇賞・秋から約一週間後。
スズカが快復し、同時に天皇賞・秋の回顧とオフサイドへの厳しい風当たりが始まった。
その始まりである、学園の『フォアマン』チーム室で報道陣から取材攻勢を受けた日。
その時、学園内の別の場所にいた岡田は同僚から急報を聞き、すぐに現場へと向かった。
現場に着くと、報道陣の群れは同じく現場に駆けつけていた生徒会役員に制止され、現場から退散するよう指示されていた。
報道陣は抵抗の態度をみせていたが結局その指示に従い、現場を去っていった。
報道陣が去った後、岡田はその連中達を追撃したくなる感情を抑え、現場にいたステイゴールドら『フォアマン』のメンバーの姿を確かめた。
「皆、大丈夫か?」
「…は、はい。大丈夫です。」
メンバー達は口では気丈に返答したが、かなりの動揺とショックを受けているのは明らかだった。
「トレーナー、私達よりもオフサイド先輩が…」
ゴールドに指摘され、岡田はハッと気づいた。
この現場に、オフサイドの姿が見当たらないことに。
状況を聞くと、報道陣から突撃取材を食らったオフサイドは、その報道陣の手を逃れて室外に逃れ、現場に駆けつけた生徒会役員のメンバーに保護されて先にこの場を脱出したのとことだった。
今彼女の身は生徒会室にいるとのことで、岡田はそこへ向かった。
生徒会室に着くと、オフサイドは生徒会役員のビワハヤヒデと共に室内にいた。
幸い怪我もなく彼女は無事だった。
岡田はビワと代わって、彼女の保護にあたった。
「…オフサイド、大丈夫か。」
ビワが現場へと向かい二人きりとなった後、岡田は室内のソファでオフサイドのすぐ隣に付き添うように座り、切迫詰まった口調で尋ねた。
「…。」
オフサイドは何も答えなかった。
外の怪我こそ負わなかったが、内面で彼女が受けたショックの大きさは、表情を見るだけでその甚大さが窺えた。
岡田もそれ以上は何も尋ねずことが出来ず、彼女が口を開くのを待った。
やがて。
「…恐れてたことが、現実になりましたね。」
ようやく開かれたオフサイドの口から、異様に重い声が洩れた。
「絶対の尊厳が、最悪の形で崩され始めた…。」
「…。」
その言葉を聞くと同時に、岡田はぞっと肌が粟立った。
オフサイドの身から、あの負の〈死神〉の気配をまた感じたから。
しかもそれは、以前よりも強くなっていた。
***
その後、第118回天皇賞・秋の回顧から始まったレースの内容への評価問題、更にレース後のオフサイドの言動問題などが噴出し、それは膨大な非難酷評中傷となってオフサイドへと襲いかかった。
また彼女のトレーナーである岡田も監督責任などを問われ、厳しい非難に晒された。
激動の中、岡田はなんとかオフサイドを世間の攻撃から守り続けた。
しかし、一向に収まる気配を見せない攻撃の中で、岡田は一つの決断を下した。
***
「トレーナーを退職されるのですか。」
11月末。
岡田は学園の生徒会室で、生徒会長のメジロマックイーンにその旨を伝えた。
「ああ。今回の騒動の責任を取るために、それを決断した。」
驚いた様子のマックイーンに、岡田は頷いた。
「あなた方には一切の非はありませんわ。なのになぜ…」
「非がなくとも、このような事態を招いた以上、事態を沈静化させる為にはこれしかないと思った。世の理不尽からオフサイドトラップを守る為にはな。」
「…。」
「あと、個人的な事情もある。」
「個人的事情…」
マックイーンは、以前から岡田の体調があまり良くないということを思い出した。
「ならば、病気による休職ということでも宜しいのでは?」
「それでは意味がない。退職という形でなければ、事態の歯止めにはならない。」
「…つまり、」
マックイーンは、岡田の思惑を読み取った。
「表向きは退職、実際は休職ということで宜しいでしょうか?」
「出来ることならな。まだ私には『フォアマン』の…オフサイドトラップのトレーナーとして事態を収拾させる責任があるから。」
「『フォアマン』のメンバー達には、退職のことは伝えてあるのですか?」
「まだ伝えてはいないが、メンバーの今後については他チームのトレーナー達に一時移籍の協力を頼んで了承を受けている。」
「オフサイドトラップも移籍させるのですか?」
「いや、今年中の引退を決めているオフサイドは、そのまま『フォアマン』に残す。あと、ステイゴールドも恐らく移籍せず『フォアマン』に留まるだろう。」
「トレーナー不在なのに残留させるのでしょうか。」
「その点についてだが、」
岡田はマックイーンに、一つの頼みをした。
「『フォアマン』に残るメンバーについては、しばらくの間は生徒会にその保護をお願いしたい。」
「承りましたわ。」
マックイーンは岡田の頼みを、即座に受け入れた。
要件が終わった後も、二人は話を続けた。
「岡田トレーナーは、今後どのようにされる予定ですか。」
「実はかなり体調が悪くてな、今月末から入院することになってる。」
「…大丈夫なんですか?」
「無理すると命に関わるが、安静にしとけば危険はないと医者から言われてる。」
「力不足で申し訳ありません。」
マックイーンは深く頭を下げ、岡田に謝罪した。
今回の騒動において生徒会が、非はないと分かっていながらオフサイドトラップ含め『フォアマン』を守ることが出来ていないことへの謝罪だった。
「生徒会に非はない。これは我々人間側の罪が大きいのだからな。」
岡田は首を振り、更に続けた。
「あの天皇賞・秋からも大分経った。まだ騒動は収まる気配はないが、私が責任を取ることで一時的に落ち着きはするだろう。…そこからが、本当の闘いだ。」
「本当の、闘いですか。」
「ああ。今回の理不尽な事態の反動は、我々の想像を遥かに超えた大きさで跳ね返ってくる。その可能性が高い。」
岡田は、重い口調で言った。
「そうですわね。」
岡田の言葉に、マックイーンも重い口調で答えた。
「私も、例えこの騒動が収まったとしても、それで事を有耶無耶に終わらせる気など毛頭ありませんわ。…いや、終わるわけがありません。」
「もしかして、君も分かっているのか。」
岡田は、マックイーンに尋ねた。
「反動として、この世界に襲いかかるであろう相手を。」
「薄々ですが。」
マックイーンは、瞳を冷徹に光らせて頷いた。
「あなた方人間、だけではない。もっと恐るべき相手は、我々のここを襲うもの…即ち〈死神〉。」
マックイーンは自らの胸を指差し、冷徹な口調で言った。
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