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11月末。
岡田は騒動の責任を取る形でトレーナーを退職し、学園を去った。
同時期にはJCでの日本勢ウマ娘の大活躍があって世間の注目はそちらに集まるなどの流れもあり、天皇賞・秋後の一連の騒動は徐々に下火へと向かった。
しかし、このまま事態が収束するなどとは、岡田も生徒会のマックイーンらも思っていなかった。
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12月初旬のある日。
岡田から『フォアマン』の保護を任されていたマックイーンは、ある用件の為にチーム室でオフサイドと会った。
一対一で会ったオフサイドの姿は、一連の騒動の影響で、深刻な程に窶れていた。
天皇賞ウマ娘である彼女に浴びせられた理不尽な攻撃と中傷がどれだけ彼女を苦しめたのかは、その姿を見ただけで十分に察することが出来た。
「あなたをここまで苦しめてしまう事態を招いてしまい、生徒会として本当に申し訳なく思います。」
彼女と会ったマックイーンは、まずそのことを謝罪するしかなかった。
「…用件をどうぞ。」
謝罪を受け入れることもなく、オフサイドは小声で促した。
無感情な声で促され、マックイーンは用件を切り出した。
「現在、生徒会はあなたや『フォアマン』が受けた被害に関して措置を検討しています。そのことに関して、あなたの了承を受けたいのです。」
「…措置。相手は誰ですか。」
「主に、報道や世論が相手ですわ。」
「…必要ありません。」
オフサイドは、重く首を振った。
「そのような措置をしても、失われたものはもう戻りませんから。」
「…。」
オフサイドの言葉は、マックイーンの心にずしりと重くのしかかった。
その言葉にも、彼女が負った傷の深さが垣間見えたから。
「ですが、今後のことを考えても措置はせねばなりません。」
傷跡を感じつつも、マックイーンは言葉を続けた。
「この件を有耶無耶にしては、将来に大きな禍根を残してしまいます。」
「…ならば、生徒会長の自由にされて下さい。…私はもう、報道や世論と関わりたくないんです。」
拒絶するように、オフサイドは言い捨てた。
彼女の身体は小刻みに震えていた。
「…オフサイド。」
トラウマと恐怖の震えだと察し、マックイーンは憐憫の眼を向けた。
「…生徒会長、」
オフサイドは震えたまま、不意にマックイーンを見つめて言った。
「…今後重要なのは、そのような措置ではありません。」
「では、何が重要と思われているのでしょうか?」
尋ねたマックイーンに、オフサイドは重い口調で続けた。
「…それは、私を見ていればいずれ分かります。」
「…どういう意味ですか?」
「言葉でなく、行動で示します。」
震えながら答えた彼女の瞳が、不気味に暗く光っていた。
「…何をするつもりですか。」
窶れ果てた姿のオフサイドが放った異様な言葉と眼光に、マックイーンは微かに悪寒を感じつつ、その眼光を静かに見つめ返して尋ねた。
「一つだけ言葉にするとしたら、私の最後の闘いです。」
オフサイドは眼を逸らさず答えた。
「あとは、私の行動を見て考えて下さい。生徒会長ならば、分かると思います。」
そう言うと、オフサイドは天皇賞の盾を抱いて部室を出ていった。
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オフサイドと会った後、マックイーンは岡田と電話で連絡をとった。
用件は同じく措置に関してのことだったが、オフサイドの不可解な反応のことも岡田に伝えた。
措置に関して岡田は特に反論せず賛同を示したが、オフサイドの件には反応が違った。
「オフサイドトラップは、何をするつもりなんでしょうか。」
マックイーンも、用件よりもオフサイドのことの方が気になっていた。
「心身がかなり追い詰められてしまった状態であることは一目瞭然でしたが、それだけではない危うさを彼女からは感じました。」
『何を考えているんだあいつは…』
電話の向こうの岡田の口調は、かなり緊迫して聞こえた。
「岡田トレーナーも、彼女の真意は推測出来ませんか?」
『この状況では分かりようがないな。ただ“最後の闘い”という言葉から察するに、あいつを突き動かしてるものは、あいつの中にあるものの可能性が高い。』
「中にあるもの…彼女が背負ってきた同胞達の魂ですか?」
『ああ。…あいつ曰く、天皇賞・秋において昇華されなかった魂達がな…。』
「…。」
『それどころか、レースの尊厳が破壊されたことで、一層絶望に染まってしまったと言ってた。』
「…そうですか。つまり、彼女はその同胞達の魂を救済する為に、再び行動を起こそうとしてるのですね。」
『どうかな…』
マックイーンの言葉に、岡田は頷かなかった。
「違うというのですか?」
『今回ばかりは分からない。…マックイーンも気づいてるだろ。今あいつの中で侵食してるのは、“病”や“絶望”の類いだけでなく、“負”という最悪のものも混じっていることに。』
「…。」
『加えて、今回の件であいつが心身に負った傷も絶大だ。しかも今のあいつには、心の支えとなる同胞もいない。この状況下では、いくら不屈を極めたオフサイドトラップといえども今までと同じ意志でいられるとは思えない。』
「…まさか、」
マックイーンは、恐れる口調で言った。
「オフサイドトラップは、完全に心が折れてしまった可能性もあるということですか。」
『…否定は出来ない。』
オフサイドトラップを誰よりも知る人間である岡田は、険しい声で答えた。
『どうか、彼女の動向への注視を怠らないよう頼む。あいつだけの問題ではない。療養施設やスズカにも関わる…いや、ウマ界の未来にも関わる重大な問題になるかもしれないからな。』
「かしこまりました。」
マックイーンも、緊張した口調で了承した。
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