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その後、マックイーンは岡田の指示通り、生徒会の業務やライスシャワーとの折衝を続けながら、オフサイドの行動を注視し続けた。
有馬記念にオフサイドが出走表明した時は、彼女への不安は杞憂に終わったかと思い、極秘の計画を立てて彼女の名誉回復を画策もした。
しかしその後、オフサイドから突きつけられた療養施設の帰還者達の記録帳と、その後の彼女自身の帰還の決意を知り、恐れていたことが現実であったことを突きつけられた。
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『オフサイドが帰還の決意をしたんだと?』
「はい…。信じられないかもしれませんが、彼女はその決意を固めたようです。」
オフサイドが告白したその決意を、マックイーンはすぐに岡田に伝えていた。
「詳しくは其方に向かったフジヤマケンザンがお伝えすると思います。とにかく、事態は急変しましたわ。」
『…分かった。私もケンザンと会った後すぐにそちらに向かい、オフサイドと会う。』
「…宜しくお願いします。」
マックイーンは必死の思いで言った。
「今の状況では、彼女の決意を変えられる者は岡田トレーナーしかいません。」
『生徒会の方も、どうか然るべき対処を頼む。』
「やれるだけのことはやります。」
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その後、岡田はメジロ家の別荘でオフサイドと会い、彼女の状態を確認した。
療養施設でゴールドがスズカに全てを暴露するなどの出来事が起きる最中、岡田はオフサイドのことを観察することだけに集中した。
そして、彼女がただ帰還することだけを考えているわけじゃないということを、徐々に感付き始めた。
それが確信に変わったのは、その日の夜にオフサイドと話をした時。
彼女が自分に見せつけた、途轍もない不吉な気配。
それは間違いなく、それまではおぼろげにしか感じてなかった負の〈死神〉の、膨大な塊だった。
オフサイドの中にはっきりと負の〈死神〉の存在を確かめた岡田は、マックイーンに連絡をとった。
療養施設で相次いだ出来事の為電話での連絡はとれず、通知でそれを幾つも送った。
『オフサイドトラップの中に、負の〈死神〉を確認した。それも膨大な数のウマ娘の魂を侵食したもので、『大償聲』が起きてもおかしくない程の規模だ。』
『現状、オフサイド自身が抑えつけることによってそれを阻止出来ている。だが彼女に、負の〈死神〉を消そうという意志は見られない。どうやら彼女の魂も、負の〈死神〉の侵食をかなり受けている。既に陥落していてもおかしくない程に。』
『その状態にあることを彼女自身は自覚している。それでいて有馬記念に出走するということは、彼女は負の〈死神〉を携えて何かを起こそうという意志があるのかもしれない。』
それは、常識ならば絶対にあり得ないことだった。
そもそも負の〈死神〉の侵食を受けたら虚無の底に堕ちて終わるしかないのだから。
だがオフサイドは、虚無の底に落ちかけながらもまだ負の〈死神〉に対抗していた。
オフサイドがまだ対抗出来ている理由は、彼女が何かしらの意志…つまり“使命”を胸に秘めているからであろうことは明白だった。
だがその“使命”というものが、これまでオフサイドが抱いていた〈全ての魂を背負って闘う〉という決意に追従しているものとは違うと思えた。
何故なら、彼女自身に生きる意志というのが消滅しているのだから。
その意志がない以上、彼女の“使命”はこれまでと違うものとしか考えられなかった。
では、その“使命”とはなんなのか。
唯一、オフサイドがその使命について表現したのは『〈死神〉との決着をつける為』というものだったが、それだけではとても分からない。
考えられるとすれば、オフサイドが有馬記念を激走し文句のつけようのない栄光を手にして、それによって〈死神〉に侵食された同胞の魂達を救おうというつもりでいること。
だけどそれは、先の天皇賞・秋でのオフサイドトラップだった。
今回の彼女は、そのような意志を抱いてるとはとても思えなかった。
彼女には天皇賞・秋の時のような決死の闘志もないし、逆に絶望に満ちてしまっているのだから。
『それどころか…』
それは最も考えたくないことだったが、岡田はその推測をマックイーンに送った。
『もしかすると、オフサイドは…』
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12月26日、夜。
中山競バ場から、やや離れた場所にあるホテル。
大レースを走るウマ娘達が宿泊に使用するそのホテルの入り口に、岡田と生徒会のビワハヤヒデの姿があった。
今日までオフサイドと共にメジロ家の別荘にいた二人は、突如別荘を発ったオフサイドの後を追って、この中山に来ていた。
オフサイドが宿泊するであろうこのホテルで彼女が現れるのを待っていたのだが、彼女の姿は一向に現れなかった。
その後メジロ家からの連絡で、オフサイドは中山に向かう途中で下車し、その後は一人で中山で向かったことを伝えられた。
「なぜ途中で下車したのでしょうか?」
「さあな…今のあいつの行動は理解が難しい。」
ホテル入り口前の待合席に岡田とビワは座り、オフサイドの行動について話していた。
「気が変わって来るのを辞めたか、それともただの気まぐれか、或いは下車しなければならない事情でもあったか。」
「事情?」
「あいつの中のな。」
「…。」
ビワは黙った。
岡田もそれ以上は言わなかった。
「生徒会の会見、どう思いましたか?」
沈黙後、ビワは別の話題を出した。
二人は中山に向かう道中、生徒会の会見中継を観ていた。
「特に何も。生徒会はやるべきことをやっただけでなく更に踏み込んだか、という感想をもった位だ。」
岡田は興味のない口調で答えた。
実際は興味がない訳ではなかったが、今の彼にはそれ以上に重要な局面の中にいるので、他のことに意識をとられる訳にはいかなかった。
ビワもそれを察し、それ以上のことには触れなかった。
やがて。
「…?」
ビワの手元に、一件の通知が入った。
その内容を見て、ビワは表情を顰めた。
「どうした?」
「オフサイドの居場所が分かりました。」
言いながら、ビワは席を立ち上がった。
「…岡田トレーナーは、ここで待機していて下さい。」
同じく立ち上がりかけた岡田を、ビワはコートを羽織りながら制した。
「なぜだ?」
「詳しくは言えませんが、指示通りにして下さい。」
ビワの言葉は命令口調のように強かった。
「…分かった。」
有無を言わせない口ぶりに、岡田は疑問に思いながらも反論せず、それを受け入れた。
「状況が変わりましたら連絡します。では。」
そう言うと、ビワは足早にホテルを出ていった。
ビワがいなくなった後、岡田は一人で待合席に待機していた。
実は彼は、オフサイドを待つこととは別に、この場で他のあるウマ娘と待ち合わせをしていた。
そして、しばらく経った後。
「久しぶりです、岡田トレーナー。」
待ち合わせしていたウマ娘の一人がホテルに現れ、岡田の前に来た。
「久しぶりだな。」
岡田もそのウマ娘に挨拶を返した。
二人が会うのは数年ぶりだったが、お互い笑顔はなかった。
正しくは、笑顔になることを現状が許さなかった。
「トレーナーからの連絡で状況を知りましたが、非常に深刻な事態になっているようですね。」
現れたウマ娘はコートを脱ぎながら、岡田の傍らに座り、緊張感の籠った口調で言葉を切り出した。
「個々の同胞達の問題ではなくウマ娘界全体の死活問題だと思い、駆けつけました。」
「お前がこの場に来てくれたことには感謝する。」
岡田は、力強い味方を得たように礼を言った。
「とはいえ、私が戦力になれるかは未知数ですけどね。」
岡田の礼を受けながらも、そのウマ娘はやや唇を噛んだ。
「私は、オフサイドトラップが闘ってきた世界や現在置かれている状況などとは無縁のウマ娘でしたから。果たしてどこまで、彼女の内面に踏み込めるか…。」
「無縁ではないだろ。」
ウマ娘の言葉を、岡田は止めた。
「状況や世界が違うとはいえ、お前は何度も大きな絶望にぶつかり、そしてそれを乗り越えた偉大なウマ娘だ。…何よりお前は、オフサイドトラップが最も憧れた同胞の一人だ。」
岡田はそう言うと、ふとホテルの外に眼を向けた。
学園、療養施設と相次いでウマ娘界を揺るがす緊急事態が起きる中、この中山でもその前触れを告げるかのように、冷たい寒風が吹き荒れていた。