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場は変わり、中山競バ場。
この日はこの年最後の土曜日であり、中山競バ場ではウマ娘のレースが開催されていた。
平常通り夕方にレースは全て終了し、この年のレース開催日は明日を残すのみとなっていた。
レースを終えた競バ場は、夜の静けさに満ちていた。
人の気配も殆どなくなったその場内を、二人のウマ娘が巡回するように歩いていた。
生徒会役員のダイイチルビーとダイタクヘリオスだった。
巡回しながら、二人は明日のレース開催のことについて話していた。
「明日は場内外の警備を強化しないといけませんね。」
「そうですね。」
「今日も、レースには何の影響もなかったみたいだけど、幾つかの場所で学園の断行に抗議する過激なファンがいたらしいです。明日はそういった者達が更に多くなると予測せねばならないです。」
「万が一のことを考えて、入場検査をいつも以上に厳しくしなければなりませんね。」
「ウイニングライブの開催も、状況によっては中止を検討しないければ。」
「未勝利戦のライブはなんとしても開催してあげたいものですが。」
二人はいつものような口調で会話を続けていたが、どこか距離感のようなものが、二人の間には感じられた。
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数時間前の、学園の生徒会室。
生徒会の会見内容の是非について最後の話し合いが行われた中、ヘリオスは反対を理由に突然の生徒会役員辞任を表明した。
「この重大時において職務を投げ出す気ですか。」
「重大時なので投げ出すのです。」
マックイーンの厳しい視線に対し、生徒会腕章を外したヘリオスは動じずに言い返した。
「今回の生徒会長の案は、あまりにも危険です。ウマ娘の未来の為と仰ってますが、私にはとてもそうとは思えません。むしろ、ウマ娘達を更なる苦境に追い詰めるものだと認識しています。そのような事に対しては、例え生徒会としての責任を放棄してでも、私は反対します。」
そう言った後、ヘリオスは同じ反対派の生徒会役員達を向いた。
「パーマー、ゼファー、トップガン。あなた達も生徒会を辞しましょう。そうしない限り、ウマ娘界の崩壊は避けられないですから。」
「…ヘリオス、」
「ヘリオス先輩…。」
三人はヘリオスの突然の行動に茫然とし、すぐには何も返答出来なかった
返答を待たず、ヘリオスは再びマックイーンを向いた。
「我々反対派は生徒会を去ります。あとは残った仲間達で、ウマ娘界の破壊でもなんでもされて下さい。メジロマックイーン生徒会長、ダイイチルビー副会長。」
快活で太陽のように明るいウマ娘、と通称呼ばれていたヘリオスは、険しく冷たい眼でマックイーンとルビーを見据えた。
「…。」
ヘリオスの言葉と視線を受けて、マックイーンは特に表情を変えなかったが、ルビーの方は明らかに動揺していた。
予期せぬ事態に、室内はこれまでと全く違う重く緊迫した空気に満ちた。
「…ヘリオス先輩、」
重い空気を破ったのは、ゼファーの言葉だった。
「私は、先輩の行動には追従しません。」
「…!」
最も強硬な反対派であった筈のゼファーの返答に、ヘリオスの険しい表情が揺らいだ。
「どうしてですか?」
「どんな理由があろうと、生徒会員としての責務は果たすべきだと思うからです。」
ゼファーはヘリオスを見上げ、整然とした口調で答えた。
「私も生徒会に残るわ。」
ゼファーに続いて、パーマーも淡々とした口調で、無二の親友に言った。
「パーマー…」
「理由はゼファーと同じ。生徒会の責務は投げ出せない。」
「…私も両先輩と同じです。」
トップガンも、小声でパーマー達に賛同した。
ヘリオスの行動に賛同する者は、この場に一人もいなかった。
「…分かりました。」
孤立化したヘリオスは蒼白な表情になったが、やがて悟ったように頷いた。
視線も穏やかなものに戻し、彼女は机に置いた腕章から手を離した。
「私は生徒会を辞します。…では、これで。」
頭を下げると、ヘリオスはすぐに室外へ向かった。
「お待ち下さい。」
生徒会を辞して部屋を出ようとしたヘリオスを止めたのは、マックイーンの声だった。
「私にまだ何か?」
「生徒会員として、あなたに別の業務をお願いしたいのです。」
「別の業務?」
「ええ。今からあなたには、中山に行って頂きたいのです。」
足を止めたヘリオスに、マックイーンは言った。
「中山…」
明日、有馬記念が開催される地だ。
「業務については追ってお伝えします。そしてあなた一人ではなく、副会長にも同行して頂きます。」
「えっ…」
「副会長と、ですか。」
ルビーは驚き、ヘリオスも表情を動かした。
「はい。宜しくお願いしますわ、ダイタクヘリオス。」
マックイーンは、ヘリオスが置いた腕章を手に取って彼女の元に歩み寄り、それを差し出して頼んだ。
「…分かりました。」
しばし考えこんだ後、ヘリオスは決心したようにマックイーンの要求を引き受けた。
彼女は差し出された腕章を受け取ると再びそれを腕に装着し、生徒会室を出ていった。
「…。」
「副会長。」
ヘリオスが出ていった後、ルビーはまだ立ち竦んだままだった。
しかしマックイーンの促しを受けると、やがて決心したように、ヘリオスの後を追って生徒会室を出ていった。
その後、ルビーとヘリオスは学園を発ち、この中山競バ場に来ていた。
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競バ場を巡回していたルビーとヘリオスは、途中にあった自販機の前で一旦休憩した。
「ヘリオス、」
自販機で購入したものを飲みながら、ルビーが話しかけた。
「生徒会の会見について、感想はありますか?」
「感想…」
二人とも、移動中に生徒会の会見を中継で観ていた。
ルビーの質問に、ヘリオスは飲み物を抱えて、少し考えてから答えた。
「恐ろしい内容で、パンドラの箱が開けられてしまったとは思います。でも、マックイーンの暴走は阻止出来たなと、僅かに安堵はしてます。…『経済種族とする為に人間がウマ娘を洗脳教育してきたこと』・『過去のウマ娘達の犠牲を人間が隠匿してきたこと』にまでは触れなかったですから。」
「…ゼファー達に感謝ですね。」
ヘリオスの返答に、ルビーはそう言いながら目線を逸らした。
マックイーンの指示でヘリオスがルビーと共に中山に向かった後、残ったメンバー達が打ち合わせした結果、前述の項目が会見内容から削除されたということは二人とも知っていた。
目線を逸らしたルビーは、飲み物をゆっくりと飲んだ。
ヘリオスに対して、。複雑な心境が見てとれる表情だった。
「…。」
ヘリオスもつと背を向け、同じように飲み物を飲んだ。
「…あの時、あなたは本気で反対メンバー達と生徒会を辞めようとしてたのですか?」
背を向けたヘリオスに、ルビーは飲み物を抱えながら尋ねた。
「勿論です。」
背を向けたまま、ヘリオスは頷いた。
「本気でなければあんな行動はしません。あれ以外、生徒会長の暴走を止める方法が見つかりませんでしたから。」
「…。」
そうでしょうね…
内心では分かりきってたルビーは、溜息を吐いた。
あの時、自分に向けたあの冷たい視線を見れば、本気だって分かるから…