その後。
オフサイドとの要件を終えたマックイーンは学園に戻り、いつものように生徒会室で他の生徒会役員と共に執務にとりかかっていた。
生徒会役員は皆が元生徒。
この日はレース開催日の為、殆どの役員がそちらに行っており、この日学園にいる役員はマックイーンの他はダイタクヘリオスだけだった。
夕方になり、この日の執務も殆ど終わった頃。
「失礼します。」
マックイーン1人になっていた生徒会室に来客が訪れた。
ライスシャワーだった。
「あらライス、こんにちは。」
「こんにちはマックイーンさん。まだお仕事中でしたか?」
「少々お待ち下さい。もうすぐ終わりますから。」
コーヒー用具一式を持参してきたライスに、マックイーンは笑顔で答えた。
ライスは来訪者用の席に座り、執務が終わるのを待った。
10分後、執務を終えたマックイーンは、ライスを待たせている席に移動した。
「今日もお疲れ様です。」
待っている間に淹れたてのコーヒーを用意していたライスは、それを差し出した。
「苦いですわね、相変わらず。」
橙色の夕陽が差し込む生徒会室。
コーヒーを一口飲んだ後、マックイーンは上品な苦笑を浮かべた。
ライスは時折生徒会室に訪れ、その度にコーヒーを淹れてくれる。
これが実に苦いのだが、苦味が去った後の後味が素晴らしく良い。
どんな豆を使ってどんな挽き方淹れ方をしてるのか分からないが、マックイーンはこのコーヒーが好きだった。
ライスもそれを知っているので、嬉しそうな表情をしている。
現役生徒にはイマイチ不人気だが、生徒会にはこのコーヒーは人気があるので、淹れ甲斐がある。
副会長のダイイチルビーや役員のミホノブルボンには特に好まれていた。
今日はレース開催日なので誰もいないのが残念だが。
「今日はマックイーンさん一人で執務を?」
「いえ、先程までヘリオスもいました。先に執務を終えて帰りましたが。」
「はー、相変わらずヘリオス先輩は仕事が早いですね。」
「全くです。」
「そういえば、」
自身のコーヒーも淹れ、ライスはマックイーンと向かいあって座ると言った。
「今日は有馬記念の投票結果発表の日ですね。」
「ええ。午前中にこちらに集計結果が届きました。先程、各報道やチームトレーナー達に伝え終えたところです。」
そろそろ報道されてる頃でしょうと、マックイーンは生徒会室にあるTVをつけた。
『有馬記念のファン投票の最終結果が発表されました。』
丁度良く、TVでは有馬記念の投票結果を伝えるニュースが流れていた。
『結果は以下の通りです。1位サイレンススズカ・2位エルコンドルパサー・3位エアグルーヴ・4位セイウンスカイ・5位スペシャルウイーク・6位メジロブライト・7位グラスワンダー・8位ステイゴールド・9位メジロドーベル・10位シルクジャスティス・以上の10人に、有馬記念の優先出走権が与えられます。』
「サイレンススズカさんが1位ですか?」」
「ええ。」
TVを消した後、マックイーンは意外な表情を浮かべているライスに同調するように頷き、コーヒーを飲んだ。
「ですが、まさか本気で出走欲しいと思ってサイレンススズカに投票した人はいないでしょう。あくまでこれは、大怪我からの復活を目指す彼女への、ファンのエールだと見ています。」
「なるほど。」
マックイーンの推測を聞き、ライスは納得したように頷いた。
確かに、それは全てのファンの夢だからね…
一方で。
「オフサイドトラップさんは外れたんですね。」
「…。」
その指摘に対し、マックイーンは両掌にカップを抱えて沈黙した。
当年の天皇賞ウマ娘が人気投票圏外になったのは史上でも殆ど例がない。
今年はそれだけ実力者が多かったといえばそれまでだが、決してそれだけが理由でないことは明らかだ。
「スズカさんだけでなく、人気投票上位のエルコンドルパサーさんやスペシャルウイークさんもレースは辞退と聞いてますから、上位でなくとも出ようと思えば恐らく出れるでしょうけど…。」
「オフサイドトラップは出ますわ。」
「え?」
「先程、本人に直接会って確認をとって来ました。」
マックイーンは、そのことをライスに伝えた。
「わざわざ、マックイーンさんの方から会いに行ったんですか。」
「ええ。彼女の方から学園に来てもらうのは、あまりに酷ですから。」
マックイーンは少し視線を落とした。
オフサイドが学園に登校するだけでも大変だということは、生徒会も知っていた。
「一つ、お伺いします。」
ライスは静かにカップを置き、さっきまでとは違う視線でマックイーンを凝視しながら、尋ねた。
「天皇賞後の騒動でオフサイドさんが受けた“事”に関して、学園側はもう何の行動も起こさない方針なんでしょうか?」
ライスの被っている紺色の小帽子の下、漆黒の髪に隠れた片眼が、蒼く光った。
トレセン学園の現生徒会メンバー
生徒会長 メジロマックイーン
副会長 ダイイチルビー
その他役員 メジロパーマー・ダイタクヘリオス・ヤマニンゼファー・ミホノブルボン・ビワハヤヒデ・マヤノトップガン