1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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祝福と真女王(6)

*****

 

一方その頃。

 

この日のトレーニングを終え帰路についたゴールドは、その途中にスマホで見たニュースで有馬記念人気投票の結果を知った。

 

スズカが1位⁉︎

自身の結果よりもまずそれに驚いた。

どんなバカ共が投票したんだと一瞬思ったが、すぐにこれは彼女へのファンのエールだと理解した。

…バカとか思ってごめん。

それにしてもスズカ凄いなー。

これほどまでにファンに愛され、復活を心待ちにされてるなんて。

それに引き換えあたしは、8位か。

出走権を取れて一安心すると同時に、なんか悔しさも感じた。

2年生が4人も上にいるし、同期のブライトもあたしより上…キーッ。

まあ今年G1レースで2着3回とはいえ1回もレースで勝ってないから当然か。

早く『アカンコ』ちゃんから卒業しないとなー。

 

思い直すと、ゴールドは再び投票結果が表示されたニュースを見直した。

薄々予想してたとはいえ、オフサイドトラップの名がない。

「…はあ。」

ゴールドは溜息を吐くと、スマホをしまった。

 

 

学園寮に帰ると、ゴールドは途中で買って夕食の弁当を手に、オフサイドの部屋へと向かった。

 

だがオフサイドは部屋にいなかった。

弁当を置いて戻ろうかと思ったが、一応寮長の所へいきオフサイドがどこにいるか尋ねた。

すると、オフサイドは寮庭を散歩していると返答があった。

ゴールドは弁当を持ったまま、寮庭に出た。

 

冬の澄み切った夜空の下、オフサイドの姿を探しながら寮庭を歩いていると、寮棟の裏にあるベンチに彼女の姿を見つけた。

何故か制服姿でコートを羽織り、いつものように盾を抱いて座っていた。

窶れた表情の中、彼女は何か考え事をしているように、じっと夜空を仰いでいた。

 

「オフサイド先輩。」

ゴールドが声をかけると、オフサイドはチラッとこちらを振り向いた。

「お帰り、ゴールド。」

「夕食買ってきました。部屋に戻って一緒に食べましょう。」

「…。」

ゴールドが促すと、オフサイドは盾を抱いたまま無言で立ち上がった。

 

オフサイドの部屋に戻ると、二人は一緒に夕食のお弁当を食べた。

食事中、いつものようにゴールドは何度か明るく話しかけたが、オフサイドは殆ど反応せず暗い様子で箸を進めていた。

 

「ゴールド、」

半分程食べ終えたところで箸を置くと、オフサイドは口を開いた。

「有馬記念のファン投票結果は見たかしら?」

「あ、はい。ニュースで見ました。」

「選ばれてたね。おめでとう。」

「どうも。」

ゴールドはあまり嬉しくない表情で答えた。

 

それきり、オフサイドは再び黙った。

ゴールドも黙りこくって箸を進め、弁当を食べ終えるとあとは軽く挨拶しただけで、オフサイドの部屋を後にした。

 

 

ふざけた話ったらありゃあしないわ。

オフサイドとの夕食を終えた後、部屋に戻ったゴールドは着替えを終えると、不愉快な様子でベッドに寝っ転がった。

ふざけた話とは有馬記念の投票結果だ。

オフサイド先輩が外れるとはどういうことよ。

確かに、今年は多くの新星が台頭し、また実力者も結果を残したから、G1覇者といえども外れる可能性はあった。

実際、オフサイド以外でも落選したG1覇者はいる。

だが、当年のG1覇者、しかも天皇賞の覇者が外れるなんて前代未聞だ。

いたとすれば、18年前の天皇賞・秋覇者のプリテイキャスト先輩くらいだ。

彼女が落選した理由は、天皇賞・秋の勝利がフロックとみなされたから。

オフサイド先輩も同じように見られているんだろうなー。

 

だが、フロックとみなされてたとはいえプリテイが制した天皇賞・秋のレースは、ウマ娘史上に残る衝撃的な勝ち方だと未だに語り草になってるし、彼女には多大なる称賛が寄せられた。

対してオフサイド先輩は…

ゴールドはぶんぶん首を振り、思考を止めた。

あの不快極まるレース回顧の数々を思い出しそうになったから。

 

 

衝撃的といったら…

ゴールドは他のことを考え出した。

プリテイ先輩のレースは生まれる前だったから生では見てないが、自分が生で観た衝撃的なレースといえば…あれだな。

入学する2年前に全て現地で観た、あの先輩のレース。

あれは衝撃的だった。

いや、というかあの先輩は、衝撃的な勝ち方しかしなかった。

 

「…ナリタブライアン先輩。」

ゴールドは、ほんの2ヵ月間だけだがチーム仲間だった偉大な先輩の姿を思い浮かべ、それから2ヵ月半前の出来事を思い出した。

「うっ…」

思わず胸が込み上げ、慌てて眼を瞑った。

 

そのまま、彼女は眠った。

 

 

12月12日、有馬記念まであと15日。

 


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