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一方、その頃。
療養施設内の食堂では、多くの療養ウマ娘達が朝食をとっていた。
朝食の際、彼女達の間で話題になっていたのは、やはり有馬記念の投票結果に関することだった。
「スズカさん凄いね。ファンのみんなからあれだけのエール貰えるなんて。」
「みんなに夢を与える走りをしていたからね。あの神速ぶり、私も魅了されたもん。」
「私も!どんな凄いタイムを出すのか、いっつも楽しみにしてた!」
「来年からは海外遠征も決めてたもんね。世界一のウマ娘になれる日も遠くなかったのに…。」
「本当に可哀想ね、スズカさん。」
「でも、いつか必ず、スズカさんはターフに戻ってくるよ。ファンのみんなだけでなく、同胞の私達だってそう祈ってるんだから!」
「…。」
賑やかな食堂の片隅で、一人黙々と食事しているウマ娘がいた。
彼女は食事を終えると、手元にあるウマ娘新聞を取り、有馬記念投票結果の記事を見た。
ゴールドは8位、オフサイド先輩は外されたか…
溜息を一つ吐いて新聞をしまうと、彼女はトレイを持って立ち上がった。
松葉杖をつきながら食堂を出た彼女は、『病専用』病棟の病室に戻る途中、廊下で一人の医師と会った。
「あら、おはよう。」
「おはようございます、椎菜先生。」
医師は、彼女が患っている病気〈クッケン炎〉の専門医。
名前は
「どう、今朝の足の具合は?」
「まあまあです。特に熱はありません。夕べは熟睡出来ました。」
「良かった。じゃあ予定通り、11時から治療するね。」
「了解です。」
彼女は椎菜に頭を下げると、彼女の傍らを通り過ぎた。
と、
「そういえば先生、」
数歩通り過ぎてから、彼女は椎菜を振り返って尋ねた。
「有馬記念の投票結果のニュース、見ました?」
「見たわ。話は治療の後にしましょう。」
椎菜は答えた後、彼女が続けて何か言おうとする前にそう告げた。
「…はい。」
トレセン学園5年生、チーム『フォアマン』メンバーの一人である黒鹿毛ウマ娘ホッカイルソーは、素直に頷くと病室へ戻っていった。
11時過ぎ。
ウマ娘療養施設の、『クッケン炎』専門の治療室。
「痛い。」
ベッドに横になって、脚の患部の治療を受けているルソーは、汗を滲ませて治療の苦痛に耐えていた。
「我慢、我慢。」
医師の椎菜は、ルソーの脚の患部にレーザを当てての治療を行いながら、彼女の痛みを和らげようと声をかけ続けていた。
「大丈夫だからねルソー、あと少しで終わるから。」
「痛い!痛いよ…。」
ルソーは歯を食いしばりながら、涙も滲ませた。
「もうやだ!やめてっ!還りたい…ああっ!」
「頑張って!ほら、もう終わるからっ!」
苦痛に耐えられず暴れ出しかねない彼女を助手と一緒に抑えながら、椎菜も汗を散らして治療を続けた。
やがて、治療は終わった。
苦痛から解放されたが半ば気を失った状態のルソーの傍らで、椎菜は彼女と自らの汗を拭いていた。
それから約一時間後。
治療を終えたルソーと、休憩時間になった椎菜は、施設の外にある遊歩道のベンチにいた。
水色の患者衣姿のルソーは、治療中とはうって変わって落ち着いた様子に戻っていた。
「有馬記念の投票結果、見ました?」
高原の澄んだ空気と、太陽の暖かい陽射しを浴びながら、ルソーは口を開いた。
「ええ、見たわ。サイレンススズカが1位だったわね。」
「そして、オフサイド先輩が圏外。」
両手で、意味が分かりませんというポーズをした。
「どうなってるんでしょうね、これは。」
「例の騒動は収まったけど、彼女の天皇賞制覇は依然全く評価されてないってことだろうね。」
棒飴を咥えている椎菜は、不快そうに答えた。
遊歩道の向こうにある芝生には、山鳥が集まって囀っている。
「凄く残念です。そして、オフサイド先輩が気がかりです。」
長期の療養生活を送っているルソーは、オフサイドとは天皇賞・秋以後まだ会ってない。
天皇賞制覇後に電話でお祝いしたっきり。
後で起きた騒動については、報道やチーム仲間のゴールド、或いは椎菜や時折施設に訪れる美久の口から知り得ていた。
一回だけ、騒動中の彼女があまりにも心配になったから学校寮まで会いに行った。
だがその時は、彼女は寮に引き篭もってしまっている状態であった為、結局会えなかった。
その後、騒動が収まると彼女は登校を再開したが、未だ深刻な傷心状態だと言うことを聞いている。
「また、私の方から先輩に会いには行けませんか?」
「駄目。」
椎菜は即却下した。
前回、ルソーは無理してオフサイドに会いに行ったせいで、脚の患部の状態が悪くなった。
「今無理したら今までの苦労が水の泡になるわ。医師としてそれは許可出来ない。」
「…。」
ルソーは無言で、悔しそうに患部に手を当てた。
と、
「ホッカイルソーさん。」
施設の係員が、彼女を呼びに現れた。
「なんですか。」
「ただいま、ルソーさんと面会したいという方が施設に来られました。」
「面会?」
誰だろう、ゴールドかな。
ルソーは首を傾げながら立ち上がった。