1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

37 / 267
今日は本作主人公オフサイドトラップの誕生日。



陽陰(5)

*****

 

18時前。

 

学園駅口に、6人のトレセン学園生徒のウマ娘達が集まっていた。

1年生のラスカル・フサイチエアデール・テイエムオペラオー。

2年生のダイワスペリアー・スエヒロコマンダー・ツルマルツヨシ。

彼女達は皆、諸事情で現在離脱中の『フォアマン』のチーム仲間だった。

 

「寒いねー。」

「確か天気予報だと今夜は雪が降るらしいよ。」

「マジー?」

「積もることはないみたいだけど、どちらにしろかなり寒くなるね。」

「ま、雨よりはマシですよ。雪だったら、何かお祝いしてくれてる感じもしますし。ね、エアデール。」

「そうね。」

 

6人がガヤガヤ話していると、

「お待たせー!」

3年生のゴールドが手を振りながら彼女達の前に現れた。

「えーと…みんな来てるね、よし!」

1、2年生メンバー全員が来てるのを確認すると、そのうちの一人を呼んだ。

「コマンダー、あんた皆を連れて先に店行ってて。」

「あーはい。ゴールド先輩は?」

「私はもうちょっとここで待ってる。」

「イエッサー。」

コマンダーは了解すると、メンバーを連れて駅口を出ていった。

 

来て、オフサイド先輩…。

冷たい北風が吹く中、駅口を行き交う人の群れの中で、ゴールドはオフサイドが現れるのを待っていた。

10分、20分。

ゴールドは待ち続けた。

しかし、30分近く待ってもオフサイドは現れなかった。

仕方ないか。

ゴールドは残念そうに呟くと、手早くメールを打ち、駅口を出て店へと向かった。

 

店に着き、予約していた個室に行くと、後輩共は既に注文して運ばれてきた料理をばくばく美味しそうに食べていた。

「こらー!先輩を差し置いてー!」

「あー先輩。お先に頂いてまーす。」

「“お先にー”じゃない!」

「だってお腹減ってたのでー。」

「あーそう。まあ仕方ないわね。」

ゴールドはコートを脱ぎ、真ん中の席に座った。

「乾杯はもうした?」

「乾杯はまだです。」

「じゃ、しよっか。」

メンバーは、それぞれ飲み物を注文した。

飲み物が運ばれてくると、皆はそれを手に乾杯した。

「エアデール初勝利おめでとー!」

 

「エアデール、凄い勝ち方だったねー。」

乾杯の後、チームメイト7人は料理を食べながら談笑を始めた。

「10バ身くらい差をつけての圧勝劇。観てて凄かったよ!」

「えへへ。ダントツ1番人気に推されてたから緊張したけどね。」

「そうだね。デビュー戦と同じくらい人気だったもんねー。」

「ちょっとコマンダー先輩!トラウマを掘り起こしちゃダメよ。」

「いーじゃん別に。エアデールは4戦目での初勝利でしょ?あたしなんて初勝利まで8戦もかかったんだから。あ、ラスカル醤油とって。」

「デビュー戦は誰でも緊張するからね。勝てたのはツルマル先輩くらいでしょう。」

「あはは、褒めるなよテイエム。お、ニンジンハンバーグがきたよ。切り分けるから、食べる者挙手。」

「はい!」

「お願いしまーす!」

「あたしも宜しく。」

「あれ、ニンジン苦手なゴールド先輩も食べるんすか?」

「最近はよくニンジン食べてんのよ。」

「へー、健康を重視した食意識改革ですか?」

「別に。はーい皆、今から飲み物注文するけど、他に注文したい者挙手。」

「は−い、ニンジンジュース一つ。」

「私もそれお願いします。」

「うちはニンジン茶。」

「ニンジンジンジャーエール。」

「…そんな飲み物あるの?」

「ありますよ、ほら。」

「あーほんとだ。じゃー私もニンジンジンジャーエールで!」

「私もニンジンジンジャーエール!」

「うちもニンジンジンジャーエール。」

「ニンジンジンジャーエールお願いしまーす!」

「うるせえなジンジンジンジン。」

頭がジンジンしそうだと笑いながら、ゴールドは飲み物を注文した。

 

コンコン。

飲み物を注文した後、個室をノックする音が聞こえた。

「こんばんはー!」

現れたのは、カメラを持った美久だった。

 

「美久さん!どうしてここに?」

「私が呼んだの。」

美久を席に案内しながら、ゴールドが答えた。

「エアデールの祝勝会の写真を撮ってもらうよう頼んでね。」

「そ。はい、エアデールさん笑ってー。」

美久は座ると、早速エアデールに向けてカメラを構えた。

「はっ、はい!」

「あ、私も!」

「はいポーズ。」

エアデールの両側にいるラスカル・スペリアーも身を寄せ、明るい笑顔を浮かべた。

美久は嬉しそうに、シャッターを切った。

「美久さん、私も撮って!」

「私も!」

「はいはい。」

 

…良かった。

メンバーの笑顔と、それをカメラにおさめる美久を見ながら、ゴールドは嬉しく思った。

先日、美久からチームメイトの笑顔の写真が撮れていないということを聞いた。

それは寂しいと思った彼女は、この祝勝会を企画した。

チームメイトの集いなら皆笑顔になれると思い、美久も呼んだ。

結果として、仲間達は全く翳のない楽しい明るい笑顔を見せ、美久も楽しくその姿を撮影してる。

目的は達成出来たな。

ニンジンジンジャーエールを飲みながら、ゴールドはほっと息を吐いた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。