やがて21時近くになり、祝勝会は終わった。
店を出ると、外は雪が降っていた。
『フォアマン』メンバーは最後に店の前で記念写真を撮って、祝勝会は解散となった。
「美久さん、ありがとうございました。」
後輩達を先に帰らせた後、ゴールドは美久にお礼を言った。
「こちらこそ。あなた達の笑顔を撮ることが出来て良かったわ。すぐに現像して、みんなに送るからね。」
「はい、楽しみにしてます。」
笑顔で答えた後、ゴールドは雪の降る空を見上げ、少し寂しそうな表情をした。
「オフサイド先輩が来れなかったのは残念でした…。」
先日、彼女が祝勝会を断った時の様子からして、それは難しいと分かっていた。
けど、やっぱり来て欲しかったな。
「オフサイドさんにも、今日の写真を沢山送るわ。」
ゴールドの表情を見て、美久は彼女の頭にそっと手を当てた。
「かけがえのない、大切な仲間であるあなた達の笑顔を見れば、オフサイドさんの心が少しでも癒されることは間違いないのだから。」
「…そうですね。」
手を乗せられたまま、ゴールドはこくりと頷いた。
いつか、また仲間全員で集まりたい。
オフサイド先輩も、そして今長期離脱中のルソー先輩も一緒になって、当たり前だった時間を過ごし、笑顔をわかちあいたい。
「必ず、きっと…」
思わず涙がこみ上げかけ、ゴールドは顔を振った。
そして顔を上げ、微笑をみせながら口を開いた。
「オフサイド先輩を、必ず…」
そこまで言いかけた時。
突然、ゴールドの言葉が止まった。
彼女の視線は美久の後方を凝視し、微笑は歪んだものに変わった。
「…?」
急変した彼女の表情を見て、美久も後ろを振り返った。
そして、彼女も表情を変えた。
…マックイーン!
10m程後方に、数人の生徒会役員と共にいるメジロマックイーンの姿があった。
「三永氏、ゴールド。」
自分の姿に気づいて表情を変えた二人の元に、マックイーンは微笑しながらゆっくりと歩み寄った。
「奇遇ですわね。こんな所で会うとは。」
「…こんばんは。」
当初は驚いていた美久だが、すぐに笑顔に戻った。
「生徒会長は、今中山からお戻りに?」
「いえ。朝日杯の表彰式に出席した後、主催者の方々との懇親会を終え、一時間ほど前にこちらに戻りましたわ。先程、ゼファー・ヘリオスと近くのレストランで夕食をとりまして、これから帰るところです。三永氏とゴールドはどちらに?」
両隣にいる役員二人を見ながら答えると、マックイーンは美久に尋ね返した。
「私達は」
「祝勝会の帰りです。」
美久が答えるより早く、ゴールドが先程までとはまるで違う暗い表情で前に出てきた。
「祝勝会?」
「チームメイトの初勝利祝いですよ。」
マックイーンの優雅な気品に溢れる表情を、ゴールドは普段全くみせない歪んだ笑顔で見返しながら続けた。
「バラバラにされた仲間達が久しぶりに集まることが出来ましてね。みんな、碌に笑顔にもなれない辛い日常を送ってきましたから、少しでも楽しくなれる時間がつくれて良かったです。とはいえ、ボロボロにされたオフサイド先輩はまだ来れませんでしたけどね。」
吐き捨てるように言うと、ゴールドはマックイーンと両隣のヤマニンゼファーとダイタクヘリオスをジロジロ見た。
「生徒会長はお仲間と一緒に優雅にディナーですか。バラバラにされた私達とは違って、実にお幸せそうですね。…オフサイド先輩を見捨てたことに対して良心の呵責が全くないことを見せつけてくれますね!流石ですよ!」
「ゴールド!」
「構いませんわ。」
側で聞いてたゼファーとヘリオスがその無礼を咎めようとしたが、マックイーンは表情を変えずにそれを制し、改めてゴールドを見た。
「一昨日風邪で早退してましたが、どうやら治ったようですね。良かったですわ。」
「とっくに治ってます。心配もしてないくせに気遣いなんてしないでください。」
不愉快を露わに答えると、ゴールドは後ろの美久を振り向いた。
「美久さん、ではまた。」
軽く頭を下げると、ゴールドはマックイーン達を押し退けるように歩き出し、駅の方へと消えていった。
「…。」
雪の舞う中、しばし彼女の後ろ姿を見送っていたマックイーンは、やがて美久を振り向いた。
「三永氏も、ゴールド達の祝勝会に?」
「ええ。」
ゴールドの言動にややショック受けた様子の美久だが、声をかけられるとすぐに普段の表情に戻った。
「彼女達の写真を撮りにですか。」
「はい。」
「そうですか。彼女達は、笑っていましたか?」
「ええ、凄く楽しそうでした。おかげで沢山写真が撮れました。」
美久は首に提げてるカメラを手に取り笑顔を見せた。
それは良かったです…
マックイーンも、ほっと微笑をみせた。
それ以上は特に何も尋ねず、数言会話を交わした後、マックイーン達と美久は別れた。