1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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祝福(2)

 

カランカラン。

 

ライスとゴールドが談笑していると、再び店の扉が開き、数名の若い男女の客が来店してきた。

「あ、ステイゴールドさんじゃん!」

入店した客はゴールドの姿に気づくと驚いたように声を上げ、彼女の側に寄ってきた。

 

「ステイゴールドさんですよね?」

「ええそうですけど。」

「サインください!」

客は羨望の眼差しと共に色紙を差し出してきた。

どうやら皆、ゴールドのファンらしい。

 

ウマ娘は単に走るだけの競争娘ではなく、レース後にはイベントとしてウイニングライブを行うアイドル的存在でもある(ウイニングライブとは、レースに勝利したウマ娘が立つことを許される、観客と勝利の喜びを分かち合うライブステージ。レースで3着までに入ったウマ娘がステージに上がり、勝利したウマ娘がセンターを務める。なお、ライブを行えるレースは初勝利、あるいは重賞以上のレースのみ)。

今年大活躍したゴールドはセンターにこそ立ててないが、大レースのウイニングライブに何度も立ち、大きな存在感を示した。

ウマ娘のファンにとって、ゴールドは新たなスターアイドルでもあるのだ。

 

「今度の有馬記念、勝ってくださいね!」

『真っ直ぐGO!』とサインされた色紙を受け取った後、ファンの客はゴールドにエールを送った。

「最近、スターと呼ばれるウマ娘が多くなってきたけど、俺達の一番のスターはゴールドさんです。」

「…どうも。」

ゴールドはぎこちなく笑っている。

宝塚記念の後くらいから、彼女のファンがかなり増えた。

少々人見知りのゴールドはまだ慣れておらず、笑顔がなかなかうまく出来ない。

だが勿論、ファンから応援を貰えることは、内心凄く嬉しい。

 

「今度の有馬は優勝候補はゴールドさん一択だよな?」

「もっちろん。スペシャルウイークは出ないしエルコンドルパサーは海外遠征でいないからね。」

「いるとしたらエアグルーヴとメジロブライトぐらいだけど、その二人には何度も先着してるしね!」

「いや、新星のセイウンスカイとグラスワンダーも侮れないだろ?」

「なーに、その二人はまだ経験不足さ。大レースでのゴールドさんの経験値舐めんな!」

 

「…あはは。」

ファン同士の論争を前に、ゴールドは思わず笑った。

今名前の出たウマ娘は、ゴールドと違ってみんな大レースを1度以上制している。

「経験値といっても、あたしは2着ばっかりですけどね。他のみんなは殆ど大レースの覇者なので、あまり意味のない経験値じゃないかなー?」

自虐気味に、ゴールドは呟いた。

 

「そんなことはないですよ。」

ゴールドの言葉を聞いて、ファンはイヤイヤと手を振った。

「大レースの勝者でも、大した実力のないウマ娘もいますでしょ?例えば、今秋の天皇賞覇者のオフサイドトラップとか。」

 


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