*****
12月14日、月曜日。
ゴールドはいつものように早朝に登校し、トレーニングに励んだ。
この朝一緒にトレーニングを行った相手はスペ。
お互いスズカと密接な仲の人間として、彼女のことについて話しあった。
「スズカさん、かなり元気になってました!」
並んで柔軟体操をしながら、スペは土日のことをゴールドに詳しく話していた。
一緒に朝ご飯食べたこと、お薬を飲むお手伝いしたこと、一緒に本を読んだこと、お絵描きをしたこと、お昼ご飯食べたこと、差し入れのニンジンをいっぱい食べたこと、買ってきたドーナツをお腹一杯食べっこしたこと、医師の先生とリハビリに向けての相談をしたこと、夕食が美味しかったこと、今度はもっとニンジンを持ってこようと思ったことなど。
「お見舞いありがとね。」
食べ物関連のことばっかりじゃないかと思いつつ、ゴールドはスペにお礼を言った。
スペは天然で抜けてるところも多いが、その明るさは天性のものがあり、彼女と接していると誰でも笑顔になれるようなウマ娘だ。
スズカが快復してきたのは彼女の力が大きいと、ゴールドも認めている。
まあそれ関係なく、スズカとスペの仲はちょっと違う次元だ。
その点、私よりも彼女の方が今スズカにとって重要な存在だろうなと思う。
ま、その代わり私は、スズカの幼馴染としてスペに出来ない役割をしているけど。
「医師の先生によると、スズカさんは今週中にリハビリを始められるかもしれないそうです。」
「そうなの?」
「脚はまだ無理ですが、上半身の方はぼちぼち出来そうだということでした。それと、車椅子を使っての生活も始められそうだということです!」
「へぇー、ほんとに!」
ゴールドも笑顔になった。
怪我直後のどん底だった頃を思うと、信じられないくらい良い快復ぶりだ。
「復活、出来るかもしれないね。」
「“かも”ではありません。絶対復活出来ます!」
「あはは、ごめん。」
スペに咎められ、ゴールドは謝った。
内心、ゴールドだってスズカが必ず復活出来ると信じてる。
「頑張ろう、スズカ復活の為に!」
「はい!」
ゴールドとスペは、誓うように掌を合わせた。
*****
その後。
朝練の時間は終了し、学園の授業が始まった頃。
コンコン。
扉をノックする音を聞き、生徒会室で他の役員達と共に執務を行っていたマックイーンは顔を上げた。
「どうぞ。」
「失礼します。」
入ってきた生徒を見て、その場の誰もが驚いた。
オフサイドトラップ…
天皇賞後、彼女が生徒会室に自ら赴きにきたのは初めてだった。
役員達が驚く中、オフサイドはそれを気にする様子もなく、生徒会長席に歩み寄った。
「何の御用ですか?」
「生徒会長にお伝えしたいことがありまして。」
努めて平常な表情で尋ねたマックイーンに対し、オフサイドは暗い表情を伏せがちに、要件を切り出した。
「そうですか。」
数分後、オフサイドの要件を聞き終えたマックイーンは、優雅な威厳を湛えた表情のまま頷いた。
「クラスや寮にはそれを伝えましたか?」
「寮長とクラス担任の先生には伝えて、既に了承を得ています。会長からの許可を頂きましたら、このまま向かう予定です。」
「分かりましたわ。」
マックイーンはそれを了承するように頷いた。
「あなたが向かう先を知ってる人、緊急時の連絡先等は決められてますか?」
「それは、こちらになります。」
つと、オフサイドは懐から、それを記してあるメモをマックイーンに差し出した。
「…。」
マックイーンはそれを受け取った。
「私の他に、これを知っている人はいますか。」
「ライスシャワー先輩と、施設の渡辺椎菜先生にもお伝えする予定です。」
「ステイゴールドには伝えないのですか?」
「手紙は書いておきました。ただ詳細までは、あの子には何も伝えません。」
「そうですか…。」
メモを持ったまま、マックイーンは再度頷いた。
「では、お気をつけて。何か緊急事がありましたら、すぐにそちらに連絡します。」
「ありがとうございます。」
オフサイドは頭を下げると、重い足取りで生徒会室を出て行った。
オフサイドが出ていった後、マックイーンはしばらく渡されたメモを見ていた。
有馬記念はあと13日後ですね…
やがてマックイーンはそれを懐にしまうと、再び執務に取り掛かった。