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それから30分後。
場は変わり、喫茶店『祝福』では、ライスが開店の準備をしていた。
カランカラン。
開店前なのに、店の扉が開く音がした。
誰かしら?
客席を整えていたライスは不審そうに眼を向け、途端に眼を身張った。
「オフサイドさん!」
「突然失礼します、ライスさん。」
遠出用の大きなキャスター付きバッグと共に現れたオフサイドは、驚いているライスに頭を下げて挨拶した。
「どうしたの、こんな格好で。」
取り敢えず座席に座りコーヒーを出してから、ライスは尋ねた。
「実は、」
オフサイドは一口だけコーヒーを飲み、口を開いた。
「しばらくの間、学園を離れることにしました。」
「学園を離れる?」
「はい。有馬記念までの間ですが。その間は、こちらの方にいます。」
言いながら、オフサイドはマックイーンに渡したメモと同じ内容が書かれたものを渡した。
なるほど…
オフサイドの言葉と、そのメモの内容に眼を通したライスは、彼女の行動を大体理解したように頷いた。
「有馬記念は、出走するのね。」
「はい。生徒会長にも、その旨を伝えておきました。」
投票上位者から複数辞退者が出る以上、出走登録出来るのは間違いないだろう。
「それまで、こちらの方で一人調整すると。」
「…。」
オフサイドは黙って頷いた。
それから、少し俯きながら続けて言った。
「実は、このことはゴールドには話していません。」
「え?」
オフサイドは、ライス以外にこのことを伝えている二人の名を言ったあと、その理由を言った。
「ゴールドも有馬記念に出ます。彼女のレースへの集中を乱さない為にも、私への心配はさせたくないんです。」
「だったら、伝えておいた方がいいんじゃないかしら。」
「一応、学園を離れて調整するという旨の置き手紙は書いておきました。それをどこでやるかは伝えてません。」
「なるほど。でも勘のいい彼女のことだから、私にあなたの行き先を尋ねてくるかもしれないわ。その時はどうすれば良い?」
「大丈夫です。」
ライスの予測に対し、オフサイドは軽く首を振った。
「手紙に、私のことは詮索しないよう指示しておきました。ゴールドなら素直に従ってくれる筈です。」
「そう、分かったわ。」
ライスはそれ以上は尋ねず、立ち上がった。
「気をつけていってらっしゃい、オフサイドさん。」
「はい。」
優しく言ったライスに、オフサイドは小さく頭を下げ、『祝福』を去っていった。
そのまま、オフサイドは駅に向かった。
15分後、駅に着いた。
トレセンの制服姿に大きなキャスターバッグを提げている為、かなり目立つ。
「見て、あれオフサイドトラップだ。」
「大きな荷物持ってるってことは、遂に退学処分になったのかな?」
「マジで!拡散しとこ!」
周囲から様々なヒソヒソ声が聞こえたが、オフサイドは一切反応せず、無感情の表情で改札口をくぐっていった。
電車に乗ってからも、彼女に対しては敵意や侮蔑が含まれた視線がいくつもぶつけられていた。
半月前と比べ騒動はほぼ収まっているのだが、それでもオフサイドに対する人々の感情はあまり変わってない。
でも、どれほどの敵意をぶつけられようと、もうオフサイドは何も感じなかった。
有馬記念さえ終われば、もう苦しみから解放されるんだから…
そして、昼過ぎ。
オフサイドは、学園から遠く離れた田舎駅に着いた。
雄大な富士山が目の前に君臨する、都会の喧騒とは全く無縁の静寂な地。
彼女はそこからバスに乗り、富士山の麓の方へと向かった。
やがて、家屋も少ない山道に入った停留所で、オフサイドは降りた。
そこからまたしばらく歩くと、山間にある大きな公園にたどり着いた。
競走用のグラウンドだけでなく、野球・テニス・サッカーなど様々なスポーツ専用のグラウンドもあり、また遊び用の施設や遊具もある大きな広い公園。
今日は平日なので閑散としているが、休日は多くの人達で賑わいそうな場所だ。
オフサイドは荷物を持って、公園の管理室に向かった。
公園管理室の前。
そこに、オフサイドを待っていたウマ娘がいた。
「オフサイド。」
「先輩、お久しぶりです。」
オフサイドを待っていたのは、2年前に引退した『フォアマン』の先輩、鹿毛のウマ娘フジヤマケンザン。
現在、この公園の管理人を務めながら生活している。