やがて夜になった頃、特急電車は高原前に着いた。
スペはいつのまにか減っていたお見舞いの品の量に首を傾げながら、療養施設へと向かった。
療養施設に着くと、一目散に最上階の特別病室へと向かった。
「スズカさんこんばんはー!」
病室に入ると、スズカは丁度夕食を食べていた。
「こんばんは、スペさん。」
わあー。
スズカの笑顔を見ただけで、スペの胸は幸せな気持ちで一杯になった。
思わず抱きつきたくなる衝動を抑え、スペはスズカの傍に腰を下ろした。
「夕食中だったんですね。」
「ええ。スペさんはご夕食は食べられましたか?」
「食べてないです。でも、何故か不思議とそんなにお腹空いていないんです。」
「…そうですか。」
不思議そうな表情のスペを見て、スズカはクスッと微笑った。
いつものことだけど、多分お見舞いの品を途中で食べてしまったのですね。
「うー、でもスズカさんがご飯食べてるの見たら、なんだかお腹が減って来ました。」
ちょっと夕食買ってきますと、スペは立ち上がった。
「今日はニンジンは持ってないのですか?」
「はい。ニンジンは鞄には入りきらないので、これからは宅配で届けてもらうことにしたんです!」
「宅配便ですか?」
「明日の朝、10箱千本分がここに届くよう頼んで起きました!」
呆気に取られているスズカに対し、涎を垂らしながらそう言うとスペは病室を出ていった。
療養施設の食堂でニンジン定食弁当(5人前)を買うと、スペはすぐに特別病室へ戻り出した。
と、エレベーターを待っている途中、
「あら、スペシャルウィークじゃない。」
松葉杖をついた見知らぬ患者ウマ娘に声をかけられた。
「えーと…どなたですか?」
「アハハ、知らないの。」
まあそうだよねと笑いながら、そのウマ娘は自己紹介した。
「私、ホッカイルソーていうの。」
「ホッカイルソーさん、ですか。」
「ゴールドと同じ『フォアマン』のチーム仲間よ。」
「あ、ゴールドさんのチーム仲間ですか。」
彼女の名を聞くと、スペはぱあっと笑顔になった。
「あなたが彼女とよくトレーニングしてくれてると聞いてるわ。ありがとね、」
「そんな…私こそ、ゴールドさんみたいな強い先輩とトレーニング出来て感謝です。」
スペはペコっと頭を下げた。
「今晩は、スズカのお見舞いかい?」
「はい、しばらくの間、ここでスズカさんの看護をさせて頂く予定です!」
「はは、そうか。」
スズカの名を口にした時のスペの幸せそうな笑顔を見て、ルソーは何か思うような温かい笑顔を返した。
やがてエレベーターが来て、二人は別れた。
病室に戻ったスペは、スズカの隣に座って買ってきたニンジン定食弁当を食べていた。
先に夕食を食べ終えたスズカは、パクパクと勢いよく箸を進めるスペを微笑しながら見つめている。
ちょっとお腹が空いただけで5人前を食べるとは、流石は学年1大食いのスペさんだ。
食量が多いウマ娘は沢山いるし、その理由は『レースに向けて体力・体格をつける為に食べてる』というのが殆どだけど、スペさんの場合は『食べるのが大好きだから食べてる』という気がする。
彼女のそんな子供のように純心なところも、スズカは好きだ。
でも純心なだけでなく、スペは既にスターと言われている実力の持ち主。
来年は恐らく彼女がターフの中心に君臨するだろう思っている。
スペさんと、いつかターフで闘いたい。
つと、スズカは思った。
この左脚を必ず治して…走りを取り戻して。
スズカにとってスペは、チーム仲間そして親友以上の存在であるだけでなく、ターフへの復活を目指す大きな理由である存在だった。
やがて、スペはお弁当を綺麗に食べ終え、片付けを終えると再びスズカの側に座った。
「ご本、読みませんか?」
そう言いながら、鞄から持参してきた本を何冊か取り出した。
「ありがとうございます。でも、今は良いです。」
受け取った本を傍らの傍らに置き、スズカは少し頬を紅くしてスペを見つめた。
「今はただ…スペさんの手を握っていたいです。」
「…はい!」
スペは嬉しそうに頷き、ずいっとスズカに身を寄せた。
「スズカさん。」
「スペさん。」
二人は肩を寄せあい、手と手を握った。
お互いの想いを繋ぎ合わせるように、固く固く握りあった。
一方。
スペと別れた後、ルソーは食堂で夕食を食べながら先程のスペの笑顔を思い出した。
…いい笑顔だったな。
あの幸せな笑顔はどういうものか、私もよく知ってる。
親友以上の想いがこもった笑顔だ。
天然快活で元気いっぱいな生徒のスペと清廉静謐で模範的な生徒になったスズカとは、中々いいコンビじゃない。
最近暗いことばかりだったルソーの心に、ちょっとだけ温かい灯りができていた。