1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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「でもね、不安は残ってたんだ。」

 

ゴールドの手を握ったまま、スズカはポツリと言った。

「不安?」

「うん。私がいなくなった後の『フォアマン』にね。」

 

スズカは、『フォアマン』を辞め、その後『スピカ』に加入したことは全く後悔していない。

自分の将来を考えた末の大きな決断だったし、結果としてもそれは間違ってなかったと確信してる。

しかし、自分を育ててくれた『フォアマン』の動向はやはり気になっていた。

自分が辞めた後、チーム状況が更に悪化していたら…

その不安と後ろめたさはずっとあった。

 

だけど、『フォアマン』は復活した。

ゴールドは辛いチーム状況の中で奮戦し続けた末、年明け後はG1戦線で大活躍を始めた。

更には、4度目の長期離脱から復帰したオフサイドトラップ先輩が天皇賞・秋制覇という歴史的偉業を成し遂げた。

他のメンバー達も、ダービーで3着になったり、デビュー後僅か1年半で20戦以上出走したりするなど、それぞれ活躍している。

そのことで、不安も後ろめたさも全て消えた。

「ゴールドのチーム愛もすごいし、オフサイド先輩の不屈の精神も凄いよ。二人とも『フォアマン』そのものだって思ったわ。」

スズカは、心から敬意を表するように言った。

 

「…。」

スズカの言葉に対し、ゴールドはしばらく眼を瞑って何も答えなかった。

「どうしたの?」

「ううん。」

ゴールドは、スズカには分からない胸中の嬉しさと苦しさを抑え、ニッと笑った。

「褒めてくれるのは嬉しいけどさ、それ間違ってるよ。」

「え?」

「『フォアマン』の信条は“不屈”“体現”“勝利”でしょ。オフサイド先輩は全部当たってるけど、私は勝ったっけ?」

「あ、そっか。」

ゴールドは『アカンコ』のままだ。

「今、アカンコとか考えた?」

「ううん!」

図星をつかれ、スズカは慌てて首を振った。

その頭を突っついた後、

「でも、私はもうその仇名とは卒業するわ。」

そう言ってゴールドは立ち上がった。

 

「有馬記念ね?」

「うん。」

ゴールドの眼は夜空で最も輝いている一等星を射抜いた。

「今度の有馬記念、絶対に優勝してみせるわ。」

夢の舞台で、今度こそ先頭でゴールを駆け抜けてやる。

「そうなれば、私とスズカで春秋のグランプリ連覇よ。」

「あ、そうだね!」

スズカは気づいたように笑った。

 

「勿論、相手もみんな強いから、簡単ではないね。」

出走メンバーは明日発表されるので全員はまだ分からないけど、強敵揃いなのは確かだろう。

セイウンスカイ・エアグルーヴ・メジロブライト・グラスワンダー・シルクジャスティス・そして…

「オフサイド先輩もいるだろうし。」

スズカが、言った。

 

「え?」

知ってたの?と驚いて聞くと、スズカはううんと首を振った。

「オフサイド先輩がファン投票から漏れたことは知ってるけど、多分出るんだろうなーとは思ってたわ。だって、全然お見舞いに来てくれないんだもん。理由として、有馬記念出走に集中してる以外考えられないから。違うかな?」

違う、とは言える訳ない。

「まあ…そうよ。」

ゴールドは努めて平静に頷いた。

「そっか、そうだよね。」

スズカは少し寂しそうな表情をした。

「有馬記念が終わったら、来てくれるかな?」

「来るわ、絶対に!」

寂しい表情をしたスズカを、ゴールドは車椅子の後ろから思わず抱きしめた。

 

スズカは何も知らない。

オフサイドがどんな目に遭ったのかも、心を失うくらいボロボロにされたことも一切知らない。

もし知ったら…

無二の親友のゴールドには、どうなってしまうか大体想像がついた。

 

だから、有馬記念は絶対に勝たなければ。

勝って、チームもオフサイド先輩も守る。

そしてオフサイド先輩の心を復活させて、スズカと会わせる。

オフサイド先輩の心もスズカの心も救えるのは私だけ。

機会はこの有馬記念しかない。

「だから待っててね、スズカ。」

 

「うん。」

突然の抱擁に戸惑っていた様子のスズカだが、やがてそっと彼女の腕に自らの腕を添えた。

「有馬記念、頑張ってね。ゴールドも、オフサイド先輩も。」

 

 

 

その頃。

誰もいないスズカの病室の隅っこで、スペは一人ニンジンを食べていた。

 

ゴールドさんに悪いことしちゃったなー。

ニンジンをもぐもぐしながら、スペはバツの悪い表情をしていた。

『フォアマン』解散なんて、ただの根も葉もない噂だったんだ。

それは、ゴールド先輩も怒りますよね。

スズカさんも驚かしちゃったし、うー、私のバカバカバカー。

申し訳なさで、傍らの段ボール箱から取り出したニンジンをどんどん口に放り込んだ。

 

それにしても…

モゴモゴしながら、スペは首を傾げた。

なんでそんな根も葉もない噂が出たんだろ?

スペは、自分が知る限りの『フォアマン』の現状を思い返した。

 

最近、『フォアマン』の人達の姿をあまり見てないし…特に、天皇賞・秋を制したオフサイド先輩の姿を全く見てない。

チームで練習してるところも全然見ないし。

第一、新しいトレーナーもいないし…やっぱりなんか変だよ。

考えながら、スペは再び首を傾げた。

 

そういえば。

ニンジンを飲み込んだ後、スペはふと思い出した。

スズカさんのことで頭が一杯だったから、しばらく他のことは全く頭に入らなかったけど、天皇賞後のオフサイド先輩の言動で、学園内が何かしばらく騒ついていたことは微かに覚えている。

でも、言動がどんなものだったかは知らない。

 

殆ど気に留めてなかったけど、ちょっと調べてみようかな。

何気なく、スペはスマホを取り出し、検索ページを開いた。

 

えーと、天、丼、の、秋…と。

わあー!美味しそうな天丼がいーっぱい!

…違います違います。

えーと…『天皇賞・秋 オフサイドトラップ 言動』で、検索っと。

 

あ、出ました出ました!出ま…し……

 

〈“笑いが止まらない” オフサイドトラップ、同じウマ娘の怪我を嘲笑う〉

〈天皇賞ウマ娘にあるまじき言動。スズカの悲劇は自らの幸運と笑顔〉

 

 

スズカの悲劇に笑いが止まらない

 

スズカの悲劇に笑いが止まらない

スズカの悲劇に笑いが止まらない

 

スズカの悲劇に笑いが止まらない

スズカの悲劇に笑いが止まらない

スズカの悲劇に笑いが止まらない

スズカの悲劇に笑いが止まらない

スズカの悲劇に笑いが止まらない

 

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