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4年前の春。
「彼女達が、新しいメンバーだ。」
『フォアマン』部室には、新しく加入した一年生3人が、チームの先輩達を前に緊張した面持ちで並んでいた。
自己紹介するようトレーナーが促すと、彼女達は一人ずつ挨拶を始めた。
「私の名前はフジキセキです。通っていたジュニアサークルでは“キセ”と呼ばれていました。先日引退したテイオー先輩のような強烈なスターになるのが夢です。今後とも宜しくお願いします!」
「わ…私の名前は……ほほほホッカイルソーです!あまり大きなことは言えませんが…とにかく伝説のウマ娘であるマンノウォーさんみたいに強いウマ娘になりたいです!頑張ります!」
「シグナルライトです!シグナルとお呼び下さい!座右の銘は『いつでもどこでも青信号!』です!皆さんと明るく楽しい学園生活を送れるよう、精一杯頑張ります!宜しくお願いします!」
「三人とも宜しく!」
それぞれ個性的な新メンバーに対し、チームの先輩達(フジヤマケンザン・ナリタブライアン・オフサイドトラップ・サクラローレルの4人。セキテイリュウオー・ウイニングチケット・マイシンザンは故障や里帰りで不在)も挨拶を返した。
挨拶とチーム訓示の後、先輩達と新メンバーは様々な会話を交わして仲を深めた。
「シグナル。」
「なんでしょうか、ブライアン先輩。」
「挨拶で言ってた座右の銘のことだが、あの言葉の意味を教えてくれるか。」
「はい。まずあの言葉の由来ですが、実は私の名前からきています!」
名前?
「“いつでもどこでも青信号”の、信号の部分かしら?」
話を聞いたオフサイドが尋ねると、シグナルははい!と頷いた。
「“シグナル”は『信号』、そして“ライト”で、『青信号』です!」
「あれ?シグナル=信号は分かるけど、どうしてライト=青になるの?」
ライト=光ではないかと指摘すると、シグナルはいいえと首を振った。
「ライトは“光”の意味ではなく、“右方向”の意味のライトです。」
「あ、成る程ね。」
シグナルの説明に、皆は納得した。
シグナル=信号と、信号の右=青で、『青信号』か。
「シグナルライト=青信号か。なかなか気がつかないわね。工事現場や交通整理でよく見かける点灯棒かと思ったわ。」
「ぷくー、ルソーさんそれは違います。」
今までにそれ結構言われましたけどと、ルソーの言葉にシグナルは少し膨れたが、それでも笑顔だった。
「ジュニアスクールで先生から、『名前のように、どんな時でも前進することを忘れずに頑張りなさい』と言われたので、この座右の銘を掲げました!」
「へー、面白いですね。」
ローレルが、ちょっとおかしそうに笑った。
「シグナルさん、明るさといいその言葉といい、バクシンオーさん(サクラバクシンオー。ローレルと同じサクラ一族の先輩)と似ていますね。」
超短距離戦線で大活躍している彼女も、口癖がいつもどこでも爆進爆進爆進爆進爆進爆進爆進爆進爆進爆進ばっかりだ。
「バクシンオー先輩ですか!あの先輩は私の憧れです!」
偉大な先輩と比べられ、シグナルはぱあっと明るくなった。
「先輩みたいな元気いっぱいの明るい走りを、私もターフでみせたいです!」
「バクシンオー先輩に憧れてるのか。じゃあ君も短距離戦線で活躍する気なんだね。」
キセの言葉に、シグナルは明るい笑顔を変えずに答えた。
「いえ、長距離戦線で頑張ります。」
そこは超短距離戦線でと言おうよ…
シグナルを除き、全員ガクッとコケた。
「とにかく、『GOGO レッツゴー!青信号!』です!」
コケた皆に全く気を留めず、シグナルは腕を突き上げた。
「あらゆる困難にも立ち向かって青信号を灯し続け、栄光を掴んでみせます!いざ、シグナルライトの“青信号伝説”の始まりです!おー!」
「ものすごい元気ね。」
爆進よりも元気いっぱいに明るい青信号を見て、先輩達も釣られて笑った。
「まあ、長距離戦線なら、“爆進”より“青信号”の方が、結果は良さそうだな。」
「そうですね。」
爆進じゃあすぐ大失速しそうだし。
「明るいのはいいことだ。チームにとっても大きな力になる。」
リーダーのケンザンはそう呟くと、シグナル・キセ・ルソーに対して改めて言った。
「今日から我々は『フォアマン』の仲間だ。共に切磋琢磨して、栄光を目指そう。宜しくな!」
「はい!」
リーダーの力強い言葉に対し、元気いっぱいのシグナルは勿論、優等生の雰囲気溢れるキセも、やや緊張気味だったルソーも、力強く返事した。
青信号、か…。
シグナル他、新メンバーの姿を微笑しつつ眺めながら、オフサイドはふと思った。
名前の意味って、なんだろう。
ブライアンは『強い』。
ローレルは『雄々しさ』。
同期の二人は分かるけど、私は…なんだろう?
確か…
これは、4年前の春の出来事。
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