マックイーンの様子が明らかに変わっていく中、記者達はなおも言葉を続けた。
「デュレンと引き換え、オフサイドの勝利は完全なラッキーです。」
「スズカが大怪我を負う前の時点で、既にレースの大勢は決してました。」
「残り800m程の時点で、後続との差は15バ身、それも単独の2番手との差で、更に10バ身後方にオフサイド以下という戦況でしたから。これまでのスズカのレースぶりからしても…」
「その口を閉じて下さい。」
記者達の言葉を遮り、マックイーンは唇を震わせた。
深い大自然のような翠眼が、怒りに燃え上がっていた。
「無名?無実績?よくもそのようなことが言えますわ。レースの上では、そんなもの何の関係もありません。」
知名や実績だけで勝負が決まるなら、私はダイユウサク先輩に負ける訳がなかった。
「こんなこと言いたくはありませんでしたが、あなた方はオフサイドトラップがどのような競走人生を歩まれてきたかご存知ないのですか?それを知っていれば…」
「勿論知ってます。」
怒りを隠しきれずに尋ねたマックイーンに対し、記者の一人がこちらも声を震わせて答えてきた。
「知ってるに決まってるじゃないですか。」
「勿論!」
「みんな知ってますよ。オフサイドトラップが3度のクッケン炎を乗り越えてきたウマ娘だということは。」
他の記者達も、これまでと違う感情を込めて口々に言った。
…知っていた?
マックイーンは湧き上がる激怒を抑えつつ、意外の念で言葉を続けた。
「知っていたのなら、なぜここまでオフサイドトラップを攻撃するのですか?」
「彼女には、心の底から失望したからです。」
「失望?」
「あまりにも軽薄かつ常識を疑われる言動をしたからです。」
記者達は、険悪な様子で言葉を続けた。
「オフサイドトラップ。同世代でも特に柔軟で優れた素質の持ち主としてデビュー。しかしながら2年生の夏以降は、度重なるクッケン炎や故障に苦しみ、目立った実績を挙げることは出来ないまま長期離脱を繰り返して、しばらくは勝利からも見放される。だが諦めることなく治療と復帰を繰り返した末、今夏6年生にして3年半ぶりの勝利を初重賞制覇で飾る。そして遂に、2年生時のダービー以来4年半ぶりのG1レースであるこの天皇賞・秋への切符を手にする。実績が目立たないので知名度は低いですが、まごうことなき名ウマ娘です。」
「よくご存知ではありませんか。」
「天皇賞・秋に出走するウマ娘達を調べるのは当然ですから。」
少し落ち着いたが、依然燃えているマックイーンに対し、記者達は険悪さを隠そうとせずにー続けた。
「我々も、最近までオフサイドのことはあまり知りませんでしたが、その経歴を知ると非常に敬意を覚えました。今回の天皇賞・秋のレース、注目はサイレンススズカが中心となったのは当然なのですが、レース後にはオフサイドのことも大きく取り上げるつもりでした。」
「無論、スズカの勝利は固いでしょうけど、例えオフサイドが敗れても、クッケン炎を乗り越えてここまで復活した事実は称賛されるものです。実際、天皇賞後に彼女を称える記事を用意してましたから。」
記者の一人が、スマホに下書きのまま残していたそれを見せた。
〈『神速のウマ娘・サイレンススズカ』の快挙の陰で、感動の復活を果たした『不屈のウマ娘・オフサイドトラップ』〉
「…。」
それを見、マックイーンは淡々とした口調で尋ねた。
「そこまでオフサイドトラップのことを知ってるのなら、何故全く真逆の仕打ちを彼女にしてるのですか?」
「最初に言ったでしょう。あまりにもひどい言動をしたからです。」
スマホをしまった後、記者達は険悪に満ちた雰囲気から、重苦しい雰囲気に変わった。
「クッケン炎は『不治の病』。これまでにも幾多のスターを含め、多くの現役ウマ娘達がその病のせいでターフを奪われました。それを3度も患い、ターフを走れない期間が長期あったオフサイドなら、その苦しみが誰よりも分かる筈です。また、他の怪我した者達への思いやりも非常に強い筈です。…我々はそう思ってました。」
「サイレンススズカの悲劇は本当にショックで、大観衆も私達も絶望のどん底に叩き落とされました。ですが、オフサイドトラップが優勝したことで、少し絶望が和らぎかけたんです。…彼女なら優勝インタビューで、我々のショックを癒してくれるような言葉を述べてくれるだろうと。信じたくない絶望の現実の中で、一縷の望みを託しました。」
「それなのに…」
記者の中で特に若い女子記者が、涙を滲ませながら唇を噛み締めた。
「オフサイドトラップの口から出てきた言葉は、“気分が良い、笑いが止まらない”。敬意も望みも何もかも、全てを消し去る暴言でした。」
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なんて展開でしょうか…
会長席で眼を瞑ったまま、マックイーンは深い溜息を吐いた。
こんな理不尽なことになっていたとは…