1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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神速のウマ娘(2)

 

年明けから圧倒的な連戦連勝を重ねたスズカは7月、大レースである宝塚記念に挑んだ。

 

このレースには、エアグルーヴ・メジロブライト・シルクジャスティスらといった先輩・同期のG1レース覇者に加え、ステイゴールドといった同期の精鋭も混じっていた。

だがスズカは一番人気。

錚々たるG1覇者よりも、実力は既に上と見られていた。

その期待に応え、スズカは完勝で初のG1レース制覇を果たした。

レース内容も、流石に硬くなったかいつものように気持ちいい走りではなかったが、それでも余裕をもっての1着入線だった。

 

 

宝塚記念の完勝で、名実とともに現役ウマ娘最強と呼ばれるようになったスズカ。

そして秋、彼女の前に最強の相手が立ちはだかった。

 

10月に開催された毎日王冠(G2)。

大レースではないものの、このレースはそれ以上の注目を集めていた。

何故なら、現役最強となったサイレンススズカに対し、海外出身の入学生であるエルコンドルパサー・グラスワンダーといった二人の後輩かつ無敗のウマ娘が挑むという一戦だったから。

 

エルコンドルパサー。

海外から入学した彼女は、デビューから連戦連勝。2年目の今年も同期との大レース等を楽勝で制し、既に実力は国内を越えて世界級と評価されていた。

実際、彼女は既に来年から海外のレースに出場する意向を固めていた。

グラスワンダー。

今年こそ年初に負った怪我の影響でまだレース出走はないが、デビュー当時は圧勝の連続。

特に1年生の大レースである朝日杯では圧倒的な強さでレコード勝ち。

同じ海外からの入学生として20年以上前に大活躍した伝説ウマ娘「マルゼンスキー」の再来と称された。

 

現役最強から史上最強への道を突き進むサイレンススズカに対し、史上屈指の強さを誇る海外入学ウマ娘2人。

その注目度は、レース当日にG2レースでは異例の10万人以上の観客が押し寄せたことからも明らかだった。

 

 

そして10月11日、全ファンが固唾を飲んで見守る中で、発走した毎日王冠。

スタート直後、いつも通り先頭を切ったスズカ。

すぐ後ろでそれを追うエルコンドルと、やや後方からのスタートとなったグラス。

いつものように気持ちよく走るスズカと、後方の差は4バ身程。

そしてレースの半分を通過した第3コーナー過ぎ、怪我明けのグラスが一気にペースを上げて勝負を仕掛けた。

直線に入り、グラスが必死に差を詰めにかかる。

しかし、ハイペースにも関わらずスズカの脚色は全く落ちず、彼女を捉えることは出来なかった。

一時は並びかける寸前までいきながら、怪我明けのグラスは力尽き失速、バ群に沈んでいった。

グラス失速後、猛然と追い込んできたのがエルコンドル。

文字通り怪鳥みじた化け物的末脚の持ち主である彼女は、直線で一気にペースを上げてスズカに迫った。

だが、残り200を切ってもスズカのスピードは落ちない。

怪鳥の末脚ですら、スズカの影を踏むことは出来なかった。

ようやくスズカのペースが落ちたのはゴール寸前、勝利が確実になって自らスピードを抑えた時だった。

 

1着サイレンススズカ、2着エルコンドルパサー、5着グラスワンダー。

力の差を見せつけられ悔しさのあまり号泣するエルコンドルと、怪我明けとはいえ殆ど勝負にならなかったことに項垂れるグラスを尻目に、スズカはいつもと変わらない飄々とした姿で、10万以上の観客の大歓声に応えながらターフを引き上げた。

 

 

この毎日王冠での快勝で、サイレンススズカの評価は“現役最強ウマ娘”から、“史上最強ウマ娘”へと変わった。

戦法も何もいらない、ただ気持ちよく走るだけで圧勝するウマ娘。

まさに、理想中の理想とするウマ娘の誕生だった。

 

年明けには海外に挑戦することも決まり、世界への飛躍も期待された。

そして海外遠征の前に、ファンに夢の走りとその勇姿をなるべく見せておきたい為か、スズカの次のレースは毎日王冠の翌月に行われる天皇賞・秋に決めた。

 

そう、第118回天皇賞・秋に。


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