「あなたの好物、ニンジンうどんなのね。」
病室内。
ベッドの傍らのテーブルで向かい合って夕食を食べながら、ルソーはリートに話しかけた。
「はい。私、麺類が好きなんです。」
「へー、珍しいね。ウマ娘は基本飯類好きが多いけど。」
「まだトレセンに入学する前、ジュニアスクールの帰りにお店でよく食べてて、それ以来好きになりました。」
答えながら、リートは麺をチュルチュルッと小気味良い音をたてて美味しそうに啜った。
スペと同い年のリート。
同年代の中ではスペもかなり子供っぽいが、リートは更に幼く見える。
麺を啜る仕草も、ジュニアスクールのウマ娘(人間で言う小学生)のような無邪気さが感じられた。
やがて、二人は夕食を食べ終えた。
食後にリートは、ベッドの枕元に置いてある写真立てをルソーに見せた。
その写真には、トレセン入学前のリートの他に、数人の人間の子供達が仲良く映っていた。
「これは?」
「地元の友達です。入学する直前に、みんなで記念にと写真を撮ったんです。」
「そうなんだ。」
仲良さそうね…
写真に映っている面々の笑顔を見て、ルソーは微笑んだ。
「この子達はみんな同い年なの?」
「いえ、みんな年齢は違います。でも友達です。…元々は、私が一番幼かったんですけどね…。」
2年前の、人間でいえば10歳くらいの自分の姿を見ながら、リートはポツリと呟いた。
ウマ娘は生まれてからの成長が早い。
今、リートは人間で言えば14〜15歳位の女子だが、年齢ではまだ6歳だ。
ウマ娘は生まれて以降、1年ごとに人間の3倍くらい成長する(3歳以降は2倍くらいになる)。
なので、リートは友達の中で一番の年下ながら、その成長ぶりでは彼女達の多くを追い越していた。
「入学後も、彼女達とは仲良いんだね。」
「はい。」
リートは写真を見つめながら、笑顔で頷いた。
「療養施設で生活を始めてからも、みんなからは多くの励ましの手紙を貰いました。時には内緒の相談事とか、普段の楽しい出来事とかを書き送ってくれました。」
ある友達はお祭りの日にずっと会いたかった人と会えたとか。
姉妹の友達はお父さんお母さんと毎日楽しく生活してるとか。
またある友達は最近歳上の男の人が気になるとか、また別の友達は画家を目指す為海外に行くとか。
「私も先日、みんなにお手紙を送りました。」
リートは写真立てをもとの場所に置き直し、その後もそれを見つめながら言った。
「“トレセン学園を退学して、第二のウマ娘生の為に遠くの地に行きます”。“しばらく会えなくなるけど、また会える日を楽しみにしてるね”と。」
…。
ルソーは無言で、背後から彼女の肩に、掌を強く優しく当てた。
リートは背を向けたまま、その手に触れ返し、言葉を続けた。
「本当のことは、伝えられませんでした。」
「もう一度、会いたかったな。」
胸中の声が、リートの唇からもれた。