マックイーンが学園に着いたのは、10時前だった。
生徒会室に入ると、メジロパーマーとダイタクヘリオスがいた。
「あ、おはよう、マック…生徒会長。」
「おはようございます。ヘリオス・パーマー。」
マックイーンは挨拶しながら、会長席に座った。
「何か報告事項がおありでしょうか?」
「幾つかあります。」
現在、情報収集の担当をしているパーマーとヘリオス。
まず、ヘリオスが口を開いた。
「まずは報道から。今日は生徒会長に一切取材しないとのことでした。」
今日は、ですか。
「他は?」
「療養施設の報道規制に関しても、報道は現状特に動きはありません。世論のネットの方は騒がしいですが、彼らの方は比較的大人しいです。」
「なるほど。」
理事長が、根回ししてくれたようですね。
一時的かもしれませんが、感謝します。
「サイレンススズカの容態は如何ですか。」
「順調に快復しています。今日から少しずつ、脚以外のリハビリを始めるとのことでした。」
「リハビリ?もうですか?」
「スペシャルウィークの看護が大きいようです。心身共に予想以上の快復速度だと、医師の先生方も驚いているようです。」
「脚の方は?」
「脚の方は、やはりまだしばらく動かすことは出来ないようです。ただ、完治までの期間が予想より長引く可能性はないという見方だそうです。」
そうですか…
ヘリオスは嬉しそうに報告していたが、マックイーンはそうでもなさそうだった。
「富士山麓の方は?」
「それなんですが。」
パーマーが、心配そうな口調で答えた。
「ネット内での情報で、オフサイドトラップがそこにいるという情報や指摘が出てきています。先週、彼女が遠出する姿を見た者も多かったので、どうやら嗅ぎつけられたようです。」
「なるほど。」
マックイーンは、特に動揺も見せなかった。
報告を聞き終え、マックイーンは二人を労い、退がらせた。
生徒会室で一人になった後、マックイーンは富士山麓にいるメジロ家の使いの者に連絡を取った。
「オフサイドは、もう発ちましたか?あ、そうですか。ご苦労ですわ。」
マックイーンは連絡を終えると、特に表情も変えず一息ついた。
パーマーから報告を貰うより早く、マックイーンは既に昨晩、富士山麓に連絡し、身柄をメジロ家に移すよう要請していた。
要請といっても、『報道に嗅ぎつけられましたので、すぐにメジロ家へ』という、強引な命令に近かったが。
今朝、オフサイドは使いの手によって富士山麓を発ち、メジロ家へと向かっている。
ケンザンの方は、公園での仕事があるので、数日後にメジロ家に来るということだった。
フジヤマケンザン…彼女の存在も重要ですわ。
かつてオフサイドの先輩だった彼女は、今のオフサイドの状態を悪化させないためには不可欠な存在だ。
彼女がいれば、私の解決策も遂行に近づく。
あとは、サクラローレルが戻ってくれれば…
だが、今すぐ帰国出来るほど、彼女の容態は安定してないとのことだったから、それは厳しいようだ。
残念ですわ…
そして…
マックイーンの思考は、療養施設のスズカの方に変わった。
サイレンススズカ、何という快復の早さでしょうか。
もともと全く怪我とは無縁のウマ娘だったから、治りも早いのでしょうか。
マックイーンは、決して感心しているのではない。
むしろ不安に思っていた。
快復が速すぎますわ…
本人は一日でも早く復帰して、ファンの夢を叶えたい一心なのでしょうけど。
もう無意識な無理は、絶対にしては駄目ですわ。
憂鬱げに、スズカのことを考えていると、
「失礼します。」
生徒会室をノックする音と共に、ブルボンが入室してきた。
「…。」
マックイーンは無言で、ブルボンを迎えた。
ブルボンは会長席の前に立つと、特有の無表情で言った。
「ライスが、動き始めました。」
*****
場は変わり、学園の競走場。
ゴールド・グラス・ブライトら、有馬記念に出走するウマ娘達が、集中したトレーニングを行っていた。
その競走場の側で、極力彼女達の邪魔をしないよう、その様子を撮影したりメモを取っている報道陣。
その中には、学園専属カメラマンの美久の姿もあった。
みんな気合充実してるわね!
調整に励むウマ娘達の姿を次々とカメラにおさめながら、美久は非常に楽しそうだった。
学園でカメラマンとして勤め始めてから約4年、ずっと在学ウマ娘達の幸せな姿を撮り続けている。
特に美久が好きなのは、レースに挑むこの段階のウマ娘達だ。
真剣勝負前なのでそんなに笑顔は撮れないが、すごく生き生きした彼女達の姿を撮ることが出来る。
それが何故か、すごく好きだった。
やがて昼前になり、ウマ娘達のトレーニングは休憩となった。
美久は、今日は友達のライスの喫茶店で休憩しようと思い、『祝福』へと向かった。
と、
「あら?」
『祝福』近くまで来た美久は、つと脚を止めた。
何故なら、店の前に10人近い報道陣が集まっていたから。
何かあったの?
不安が胸をよぎった。
すると。
“ようこそ”
店から、ライスが出て来るのが見えた。
彼女は、集まった報道陣達に挨拶し、彼らを店内に招き入れていた。
え、ライスが報道陣を呼んだの?
美久は驚いた。
何の為に?
考えるとすぐ、二週間程前にライスが発した言葉が美久の脳裏に蘇った。
“オフサイドトラップを絶対に救わないといけない、救えなければウマ娘史上に残る悔恨になる”
美久が驚きの視線でライスの様子を眺めている中、彼女から少し離れた場所で、同じく『祝福』に真っ直ぐ視線を向け、無表情でその様子を観察しているウマ娘がいた。
生徒会役員のブルボンだった。