(86話より続く)
「理解して頂けましたか?」
プレクラスニーの件を例に自らの思考を述べた後、マックイーンはパーマーに再度問いかけた。
「んー…」
マックイーンの問いかけに、パーマーは腕組みを解き、渋い表情を浮かべながら髪をかき分けた。
「ごめん、難しくてよく分かんない。」
「パーマー。」
「私、あなたみたいに頭良くないから。でも、オフサイドの出走阻止だけは、どうしても賛同は出来ないわ。」
パーマーは、そこだけは頑として譲らないと示した。
「レースに出走するのは、ウマ娘にとって生きがいも同じよ。特にオフサイドトラップにとってはそうでしょ。」
パーマーだって、オフサイドがどういう競争生活を送ってきたか知っている。
「それに彼女には、未来とかそういうこと考えている余裕なんてなかった筈だわ。毎日毎日命懸け。〈クッケン炎〉との闘いに明け暮れた。数多の同胞との別れを経験した。自分もいつ心が折れるかもしれないという恐怖に襲われ続けた。…全部想像だけどね。あたしもあんたも、そんな日々とは全くの無縁の競走生活だったから。そんな世界で生きてきた私達が、全く別世界で生きてきた彼女に、ウマ娘としてのに生き方とかをあれこれ言って、レース出走を止めるなんておかしいよ。」
「彼女達は、永遠に苦しむためにターフを走ってきたわけではないでしょう。」
パーマーの言葉に対し、マックイーンは表情を変えずに言い返した。
「平穏な日常・余生を目指して、闘病を乗り越え栄光を手にしようという思いは当然あった筈です。その道を掴み取りそして歩んできた私達には、彼女達にその道を示す義務がありますわ。」
「オフサイドトラップに話してみたら?」
平行線で終始しそうだと思い、パーマーは溜息を吐いた。
「私達であーだこーだ議論しても、当人の意思聞かなきゃ大して意味ないよ。」
「ええ。」
マックイーンは、その通りですわと頷き、更に続けた。
「この後、オフサイドトラップに、有馬記念出走について話にいく予定です。つきましては、あなたもその場にいて頂きたい。」
「私も?」
「はい。」
そう言うと、マックイーンは使用人を呼んだ。
「オフサイドトラップは自室ですか。」
「はい。」
「では、少しお話しの時間を頂けないかと頼んで下さい。」
「かしこまりました。」
5分後、使用人が戻ってきた。
「オフサイドトラップ様から、お話頂けますとのことでした。」
「そうですか、では。」
マックイーンはすぐに行こうとしたが、制服が濡れていることに気づき、着替えを頼んだ。
「パーマー、」
新たな衣服に着替えながら、マックイーンはパーマーに告げた。
「この後のオフサイドとの話に際して、あなたは私に構わず、自由に発言や見解を示して下さって結構です。」
「自由に?あたし、オフサイドが出走の決意を固めてたら間違いなくそれに賛同するけど、良いの?」
「構いません。ただ、話はしっかりと聞いていて下さい。」
「はあ…」
パーマーは、マックイーンの意図がさっぱり読めなかった。
「いきましょう。」
現役時代の勝負服に似たスーツに着替え終えると、マックイーンはパーマーを促した。
パーマー。
廊下を歩きながら、マックイーンは内心で思った。
私は、生半可な決意でオフサイドを止められるなんて思ってません。
彼女を相手に小賢しい作戦なんて無意味ですわ。
通じるとしたら、捨て身かつ無私の策。
それだけです。