1998年11月1日「消された天皇賞覇者」   作:防人の唄

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神速のウマ娘(4)

*****

 

 

30分後、ゴールドは学園寮に帰寮した。

 

 

自室に戻って部屋着に着替えると、ゴールドは帰りに買った弁当を手に自室を出、別の寮部屋へと向かった。

 

コンコン。

「先輩、いますか?」

目的の部屋に着くと、ノックしながら室内に問いかけた。

返事はないが、ドアノブを握ると鍵は空いていた。

そのままドアを開け室内に入ってみると、ベッドで寝ている先輩の姿があった。

 

「先輩、先輩。」

ゴールドはベッドに近づくと、毛布を頭まで被っている先輩を起こした。

「先輩、夕食買ってきましたよ。」

「…。」

揺り動かされ、ベッド上のウマ娘は目元を擦りながら起き上がった。

「…お帰り、ゴールド。」

あまり生気のない先輩の眼を、ゴールドは努めて明るく見返した。

「一緒に食べましょう。今晩のお弁当は、先輩の大好きなニンジン弁当です!」

「…。」

好物のお弁当を手渡され、栗毛のウマ娘オフサイドトラップは薄い微笑を浮かべながら、ゆっくりとベッドを降りた。

 

 

オフサイドトラップとステイゴールド。

二人は、トレセン学園のチーム『フォアマン』に所属してるチームメイト。

現在、同チームで活動している生徒はこの二人だけで、その為オフサイドとゴールドは密接な仲にあった。

ただ学年は、ゴールドはまだ3年生なのに対しオフサイドは既に6年生と、学園でもかなりの年長生徒だった。

 

 

「美味しいすね、ニンジン弁当。」

並んで座ってお弁当を食べながら、ゴールドは時折明るい口調でオフサイドに話かけた。

「私、普段あんまニンジンは食べないけど、これだったら幾らでもいけそーすね。大のニンジン好きのスペシャルウイークがめっちゃこの弁当推してたのも分かるわー。」

「…。」

やたら陽気に食ってるゴールドと対照的に、オフサイドは寡黙に箸を進めている。

好物のニンジン弁当を食べてるというのに、全く表情が冴えない。

食欲もあまりなかったのか、結局、半分くらい残して箸を置いた。

 

「明日のトレーニング、どうします?」

弁当を食べ終えた後、ゴールドはペットボトルのお茶をゴクゴク飲みながら尋ねた。

「…ゴールドの予定は?」

「特にないです。出来れば、先輩とトレーニングしたいっす。」

「私と?」

「久々に、二人で軽くランニングでもしませんか?気持ちいいと思いますよ。」

「…いい。」

オフサイドはお茶を一口飲んで、小声で答えた。

「私に構わず、ゴールドは好きにトレーニングして。」

「“構わず”って、」

ゴールドは困った顔をした。

「チーム仲間ですから構いますよ。」

「チームとか気にしなくていいよ。もう、『フォアマン』はおしまいだから。」

ペットボトルの口に目を落とし、オフサイドはポツリと呟いた。

 

「そんな悲しいこと言わないでください。」

オフサイドの呟きに対し、ゴールドはちょっと怒った表情を浮かべ、お茶をがぶ飲みした。

彼女がお茶を飲み干すのを確認すると、オフサイドは再びベッド上に戻った。

「先輩。」

「お弁当美味しかったわ、ありがとう。でももう部屋に戻って。一人にさせて。」

そう言うと、オフサイドは毛布を頭まで被った。

「おやすみなさい。」

ゴールドも残念そうに言うと、空の弁当箱を手に、オフサイドの部屋を出ていった。

 

 

 

自分の部屋に戻ったゴールドは、シャワーを浴びて汗を流し、寝巻きに着替え就寝の準備を整えると、机の前に座って鞄からチーム日誌を取り出し、今日の記録を記した。

 

『12月9日 チーム活動 

朝 

ゴールド カノープスの面々と練習。ランニング3000m・柔軟体操・真っ直ぐ走る練習

オフサイド 不明

 

放課後

ゴールド スピカの面々と練習。坂路往復3回・2500走2回・柔軟体操・真っ直ぐ走る練習

オフサイド 不明。

 

備考

故障離脱中のメンバー 

ルソー

諸事情で離脱中のメンバー

6名

 

有馬記念まであと18日』

 

 

寂しい日誌を書き終えると、ゴールドはふーと大きく背伸びし、憂鬱そうに溜息を吐いた。

“…『フォアマン』はもう終わりだから”

先程、オフサイドが呟いた言葉が、耳に強く残っていた。

 

 

なんで、こんなことになってしまったんだろう。

私もチームの仲間達も、オフサイド先輩も、…誰も悪いことなんてしてないのに。

 

全ては、あの天皇賞・秋のせいだ。

あの天皇賞・秋を境に、何もかもが壊れた。

チームも仲間達もバラバラになった。

 

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