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30分後、ゴールドは学園寮に帰寮した。
自室に戻って部屋着に着替えると、ゴールドは帰りに買った弁当を手に自室を出、別の寮部屋へと向かった。
コンコン。
「先輩、いますか?」
目的の部屋に着くと、ノックしながら室内に問いかけた。
返事はないが、ドアノブを握ると鍵は空いていた。
そのままドアを開け室内に入ってみると、ベッドで寝ている先輩の姿があった。
「先輩、先輩。」
ゴールドはベッドに近づくと、毛布を頭まで被っている先輩を起こした。
「先輩、夕食買ってきましたよ。」
「…。」
揺り動かされ、ベッド上のウマ娘は目元を擦りながら起き上がった。
「…お帰り、ゴールド。」
あまり生気のない先輩の眼を、ゴールドは努めて明るく見返した。
「一緒に食べましょう。今晩のお弁当は、先輩の大好きなニンジン弁当です!」
「…。」
好物のお弁当を手渡され、栗毛のウマ娘オフサイドトラップは薄い微笑を浮かべながら、ゆっくりとベッドを降りた。
オフサイドトラップとステイゴールド。
二人は、トレセン学園のチーム『フォアマン』に所属してるチームメイト。
現在、同チームで活動している生徒はこの二人だけで、その為オフサイドとゴールドは密接な仲にあった。
ただ学年は、ゴールドはまだ3年生なのに対しオフサイドは既に6年生と、学園でもかなりの年長生徒だった。
「美味しいすね、ニンジン弁当。」
並んで座ってお弁当を食べながら、ゴールドは時折明るい口調でオフサイドに話かけた。
「私、普段あんまニンジンは食べないけど、これだったら幾らでもいけそーすね。大のニンジン好きのスペシャルウイークがめっちゃこの弁当推してたのも分かるわー。」
「…。」
やたら陽気に食ってるゴールドと対照的に、オフサイドは寡黙に箸を進めている。
好物のニンジン弁当を食べてるというのに、全く表情が冴えない。
食欲もあまりなかったのか、結局、半分くらい残して箸を置いた。
「明日のトレーニング、どうします?」
弁当を食べ終えた後、ゴールドはペットボトルのお茶をゴクゴク飲みながら尋ねた。
「…ゴールドの予定は?」
「特にないです。出来れば、先輩とトレーニングしたいっす。」
「私と?」
「久々に、二人で軽くランニングでもしませんか?気持ちいいと思いますよ。」
「…いい。」
オフサイドはお茶を一口飲んで、小声で答えた。
「私に構わず、ゴールドは好きにトレーニングして。」
「“構わず”って、」
ゴールドは困った顔をした。
「チーム仲間ですから構いますよ。」
「チームとか気にしなくていいよ。もう、『フォアマン』はおしまいだから。」
ペットボトルの口に目を落とし、オフサイドはポツリと呟いた。
「そんな悲しいこと言わないでください。」
オフサイドの呟きに対し、ゴールドはちょっと怒った表情を浮かべ、お茶をがぶ飲みした。
彼女がお茶を飲み干すのを確認すると、オフサイドは再びベッド上に戻った。
「先輩。」
「お弁当美味しかったわ、ありがとう。でももう部屋に戻って。一人にさせて。」
そう言うと、オフサイドは毛布を頭まで被った。
「おやすみなさい。」
ゴールドも残念そうに言うと、空の弁当箱を手に、オフサイドの部屋を出ていった。
自分の部屋に戻ったゴールドは、シャワーを浴びて汗を流し、寝巻きに着替え就寝の準備を整えると、机の前に座って鞄からチーム日誌を取り出し、今日の記録を記した。
『12月9日 チーム活動
朝
ゴールド カノープスの面々と練習。ランニング3000m・柔軟体操・真っ直ぐ走る練習
オフサイド 不明
放課後
ゴールド スピカの面々と練習。坂路往復3回・2500走2回・柔軟体操・真っ直ぐ走る練習
オフサイド 不明。
備考
故障離脱中のメンバー
ルソー
諸事情で離脱中のメンバー
6名
有馬記念まであと18日』
寂しい日誌を書き終えると、ゴールドはふーと大きく背伸びし、憂鬱そうに溜息を吐いた。
“…『フォアマン』はもう終わりだから”
先程、オフサイドが呟いた言葉が、耳に強く残っていた。
なんで、こんなことになってしまったんだろう。
私もチームの仲間達も、オフサイド先輩も、…誰も悪いことなんてしてないのに。
全ては、あの天皇賞・秋のせいだ。
あの天皇賞・秋を境に、何もかもが壊れた。
チームも仲間達もバラバラになった。