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12月23日、早朝。
ウマ娘療養施設。
夜が明けたばかりでまだ薄暗い中、施設外の遊歩道を散歩しているウマ娘がいた。
一人は車椅子に乗っているサイレンススズカ。
もう一人は、その車椅子を押しているスペシャルウィーク。
「寒いですね。」
「そうですね。」
二人とも上着を羽織っていたがかなり寒そうだった。
「何か飲み物買ってきましょうか?」
「いえ、大丈夫です。」
「寒いですけど、気持ちいいですね。」
スズカは白い吐息をつきながら、あたりの光景を見渡した。
夜が明けたばかりの高原は、空気が澄みきっている。
その空気が身体の内部にも浸透して、心身ともに清く浄化される気がした。
30分程遊歩道を散歩した後、二人は施設内に戻った。
特別病室に戻ると、既に朝食の用意がされていた。
スズカは、朝食を持参してきたスペと一緒にそれを食べた。
スペが施設で寝泊まり始めて以降、食事は朝から晩まで二人で一緒にしていた。
スズカの朝食は並の量だが、スペは朝から量が多い。
そして、すごく美味しそうに食べる。
その光景が、見てて実に気持ちいい。
勿論、その気持ち良さは、スズカ自身の彼女に対する特別な想いもあるからだけど。
スズカは、今日から身体のリハビリを始める予定だ。
当初の予定より大分早い。
その理由は、スズカの心身の急速な快復だ。
もともと今回の大怪我を負うまでは、故障とは全く無縁の柔軟な身体だった。
快復が早いのはそれもあるだろうが、一番の理由は心の安定が大きいからだ。
勿論それは、スペの存在が大きかった。
スズカのことを誰よりも愛している彼女の献身的な看護が、怪我直後からずっと不安定だったスズカの心を支え続け、同時に身体の状態も一気に上向きにさせた。
スズカは、自分をここまで立ち直らせてくれたスペに、心から感謝している。
彼女の献身に応える為にも、ただひたすら自己の快復だけに集中してきた。
外界の情報は殆ど入ってこないが、スズカ自身もそれを余り求めていないので特に気にしてない。
今の私が最優先するべきことは、この怪我を1日も早く治し、ターフに復活すること。
まだ両脚で立つことすら出来てないだから。
「スペさん。」
朝食を終えた後、スズカは食後のお茶を飲みながら、スペに言った。
「今日からリハビリ始まりますが、精一杯頑張ります。」
「はい!私も、精一杯スズカさんのサポートします!」
スペは、天使の明るさと笑顔で応えた。
それだけで、スズカの心は暖かく満たされる気がした。
この怪我負って以降、以前から抱いていた彼女への特別な想いが一層強くなった。
チーム仲間・ターフで闘う好敵手としてだけでなく、一人のウマ娘として。
つと、スズカはスペの手を握った。
「スペさん。私達、ずっと一緒ですね。」
「は、はい!勿論です!」
スペは顔をちょっと紅くし、あっかるい笑顔で頷くと、その手を握り返した。
「永遠に一緒です!」
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場所は変わり、メジロ家の別荘。
前日、ここに泊まったパーマーは、いつもより早目に起き、学園に行く支度をしていた。
「パーマーお嬢様。」
支度中、使用人がパーマーのもとに現れた。
「オフサイドトラップ様から、お頼み事があるとのことで、お伝えにきました。」
「オフサイドから頼み事?」
なんだろうと思っていると、使用人は一通の手紙を差し出した。
「これを、マックイーンお嬢様にお渡し下さいとのことでした。」
「了解。」
何の手紙だろうと考えながら、パーマーはそれを受け取った。
「オフサイドはどうしてる?」
「オフサイドトラップ様は、自室の方にずっとおられます。」
「そう。」
学園行く前に、昨日のことについて少し話そうかと思ったが、やめた。
一方のオフサイドは、自室でゴールド宛ての手紙と、回想録の完成にとりかかっていた。
ゴールド宛ての手紙を入れた封筒の表面に、オフサイドはこう記した。
『この手紙は、有馬記念終了後に見て下さい。』
完成すると、オフサイドはそれを鞄に入れ、外出の支度を始めた。
パーマーが別荘を出た一時間程後に、オフサイドも外出の支度を整え、別荘を出た。
ただ、一人で外出するつもりだったが、マックイーンの指令なのか、メジロ家の使いの者も付いてくるということだった。
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場所変わり、学園。
誰よりも早く学園の生徒会室に現れたマックイーンは、会長席で早速事務にとりかかっていた。
〈オフサイドトラップ、有馬記念出走取消〉…
マックイーンは、独断で決めたそれを遂行する決意を固めていた。
まだオフサイド本人に計画の全貌を明かしてないので、今すぐはしないが、今夜もう一度彼女と会い、それを打ち明ける。
昨日の話だけでは彼女も納得できてなかったが、1日考える時間を与えれば、頭のいい彼女のことだから私の計画が正しいと分かってくれる筈だ。
オフサイドが受け入れてくれれば、猛反対していたパーマーだって協力に踏み切るしかないわ。
ガラガラ。
生徒会室の扉が開き、今しがた着いたばかりのパーマーが入ってきた。
「おはよう、マックイーン。」
「ここでは生徒会長と」
「そんなことどうでも良いわ。」
パーマーはつかつかと会長席に歩み寄ると、鞄から一通の手紙を取り出し、マックイーンに手渡した。
「これは?」
「オフサイドトラップから、あなたに渡してくれって頼まれたの。あの子、滅茶察しが鋭いわ。もしかしてあんたの狂気の計画も全部見抜いてるかもよ。」
冷ややかな口調でそう言うと、パーマーは自席に戻っていった。
…。
マックイーンは無表情で、渡された手紙の封を開けた。
それを一読した時、マックイーンの冷徹な無表情が蒼白くなった。
『生徒会長メジロマックイーン様
昨日、有馬記念の出走に関してお話を頂いた際、私は出走の目的を『勝つ為・栄光を手にする為』と答えました。
あれは虚偽の返答であり、お詫びいたします。
有馬記念に出る真の目的は、『〈死神〉との闘いに終止符を打つ為』です。
それが終われば、私はもう何も求めません。
栄光も未来も称賛もいりません。
あとは、盟友が待つ場所へいくだけです。
なので、どうか有馬記念に出させて下さい。
生徒会長は、私の未来や名誉を思って出走を止めようとして下さってるようですが、そのようなことはされなくて構いません。
どうかお願いです。
私に、死に場所を下さい。 オフサイドトラップ』
“死に場所”…?
その言葉を見つめ、マックイーンは蒼白な表情の中、胸中で呟いた。
それは、競走生活の最期の場という意味?
それとも、命の意味?
…まさか、ね。
マックイーンは軽く首を振った。
そんな訳がない。
オフサイドトラップが、そんなことする訳がない。
あれほど、命に対して真摯に向き合い、命の重みを誰よりも感じて生きてきたウマ娘が、そんな愚かなことを考える訳がない。
だけど、もしかして…
マックイーンは手紙をしまうとスマホを取り出し、使いの者に連絡をとった。
「オフサイドトラップはどうしてますか?」
『オフサイドトラップ様は、他の使いの者共に外出されています』
「外出?どちらに?」
『それは分かりませんが、夜には戻られるとのことです』
「分かりましたわ」
連絡を終え、マックイーンはスマホを閉じた。
「パーマー。」
スマホをしまい。パーマーに話しかけた。
「事態が、変わったかもしれません。」
「…?」
自席に座ったまま、怪訝な表情のパーマーが見たのは、机に両肘をつき口元に手を結んでいるマックイーンの蒼白な表情だった。
「どうしたの?」
パーマーには、マックイーンのその表情に記憶があった。
今年初め、クラスニーと再会し、その姿を目の当たりにした時と同じだ。
「マックイーン…」
「何も聞かないで下さい!」
パーマーの言葉を遮り、マックイーンは珍しく大声を出した。
高貴な名族令嬢の顔に、冷たい汗が滲み出していた。
この日、朝から濃い曇り空で、冷たい雨が今にも降り出しそうな天気だった。