思わず眉間に手をやり、目を揉んでしまう。この事態は少々……いやかなり面倒なことになった。
「えー、もう一度聞きますが村正さん」
「応」
「そちらのお方は……?」
「酒呑童子だ」
「……はあぁ〜」
何を言ってるのか理解できるが、なぜそんな人物が今ここに居るのか。なぜ女性なのか、なぜ幼いのか、なぜ生きてるのか……もう全てがわけわからない……
「迷惑かけてたのはこちらですが、バチがこうなるとは……っん。それで村正さんはそちらの、酒呑童子さんをどうしたいのでしょうか?」
「どう、とはどういう事だ?普通に迎え入れればいいじゃねぇか」
「そうは行きませんから、はい。
「あぁ、そういえばお前さんら退魔師とかいうけったいな存在だったか」
「けったいなとは失礼ですね。まぁ、事実胡散臭い感じはしますが由緒正しいのですがねぇ……ちなみに酒呑童子さんはどのようなお考えで?」
「うちは旦那はんの傍ならどこでもええよ?」
「
状態?一体どういうことなのだろうか。
「今こいつは仮初の肉体を持って生き返っちゃいるが、刀がなきゃこいつぁ生きて行けねぇんだ。付喪神って言えばわかりやすいか?」
「付喪神、ですか……確かにあれほどの古い酒ならばその可能性は十二分にありますね……なら、村正さんの式神としましょうか」
「どうせ面倒になったんだろう?」
「それもありますが、一番穏便に済むのがそれですから。本当に生き返ったのならば大問題でしたが、あの刀のように依代が必要とした存在ならば我々は意外と寛容なのですよ」
最悪壊せばいいし、うちの身内にもそう言った特殊な式神持ちもいる。ただ、それが酒呑童子だと言うのが問題ですけども……ってなんですかその刀。いや、ちょっと嫌な予感が──
「じゃあついででこいつの説明も──「いえもう事情は」──こいつは【尺骨・羅生門】って言ってな。酒呑童子と同じように中には茨木童子が居るんだが、こいつも式神として扱っても大丈夫か?」
『な、吾に
「いや、前居たとこだと元々そうだっただろうに。元に戻るだけだ」
ため息がまた漏れそうになるが今回は抑えることが出来た。そういえば大江山に行く前に何かを回収していたのを見ていたけども、それを使って作った刀なのだろうか……そうなんでしょうねぇ。
「まぁ……はい、分かりました。こちらで色々と対処しておきますので村正さんはしばらく休んでいてください」
「おう、行くぞ酒呑」
「ほな、またね」
今後はかなり忙しくなりそうだ。刹那の処罰と鬼2人の復活、村正さんの刀も
$月★日
酒呑童子と茨木童子が復活した。しかもオレが前の世界でやっていたFGOの、オレのカルデアの酒呑童子と茨木童子だ。酒呑童子はレベル100、スキルマ、フォウマ、絆レベル15、宝具5にする程気に入っていたサーヴァントだ。うちの主戦力であった。茨木童子は聖杯以外は全て酒呑と同じだ、とはいえレベル90にはしているから2個ほど入れている。
で、どうやら彼女たちはサーヴァントとして顕現したらしい。英霊の座がこの世に存在したのか疑問に思ったが、どうやら存在しないらしく、今ここにいるのは刀を依代……英霊の座の代わりにして召喚されているとのこと。もしや、この世界ってオレのサーヴァントめちゃくちゃいるのか?
聞いてみたら居たらしい。えぇ……?オレは2部後期OPが発表された後ぐらいしか記憶が無いから、多分それまでの……オリュンポスまでのサーヴァントは存在するのだろう。
うーん、ギルガメッシュもいるのか、存在しているのか。生きているのか……まぁあいつのことだし、見届ける為にどっかにいる可能性も否めないんだよなぁ。
それと彼女達のスペックだが、霊核に聖杯が融合してるから魔力はほぼ無尽蔵とのこと。てことは酒呑童子は聖杯5個分の出力、茨木童子は聖杯2個分の出力を持つのか……と思ったらどうやらオレにも融合されてるらしい。しかも聖杯じゃなくて大聖杯が。
え?
$月∀日
どういう訳かやっとわかった。そういえばオレの体って一応サーヴァントとほとんど同じなのだ。霊体化できるし、スキルも宝具使える、食事も睡眠も必要ない。だけどこの体を維持する魔力はどこから来ているのか、それが不明だったんだが……まさか大聖杯と融合しているとは。
だけどコレのおかげでオレは存在できているのだ、感謝はするけども……なんで
「よう、マスター」
微睡みの中、声が聞こえた。
「おーい、聞こえてるかー?食べちゃうぞ?」
「……あ、あぁ……そういうお前さんはアンリマユ?」
「おうよ、皆さん大好き最弱英霊のアンリマユさんですよっと」
周り全てが真っ暗闇の中。より黒い男の子がそこにいた。全身には様々な紋様が刻まれており、赤い腰布を纏ったみすぼらしい少年だ。
彼が、彼こそが悪であれと、呪われて死んでいった哀れな英霊。もはや英霊ですらない最弱のサーヴァント……アンリマユである。
「それで、今になって出てきた?
「仕方がないだろ?今の今までオレは起きてなかったんだからよ。一応マスターの中に居たから事情とか諸々は知ってはいるけどな」
「そうか。じゃあ仕方がねぇ……それで?今のお前さんは何が出来るんだ?」
「なーんにも、今の所はマスターの中にいるしかないさ。だけど呼んでくれりゃオレも外には出れるぜ?最弱たるこのオレが必要になるなんて思わないけどな!」
「それでも並の人よりは強いし、お前さんの強みはその粘り強さに速さだろうに……後は
「ありゃあオレより融合しきってるマスターが居るからだな。いなけりゃ汚染されてるさ……こんぐらいか?聞きたいのは。じゃあ起きる時間だ、話しかけたい時は寝る前に呼びかけてくれ、それか現界させてくれよ」
「あぁ、相談相手ができたのはこっちとしてもありがてぇ。じゃあまたな」
「また、な」
「いっしし、あれが本来のマスターか」
ちょっと拍子抜けしたが、カルデアに居た頃とほとんど変わっちゃいない。いや、オレたちからすりゃカルデアだがマスターからするとゲームなのかね?
「そこは難儀な所だけど……人理修復を共に過ごしたマスターなんだ、大目に見てやるよ」
たとえ思い出がゲームだとしても、マスターはマスターだ。オレはだからこそ力を貸した訳でな。
「オレは確かに最弱英霊だけどな、マスターの期待に応えるにはオレ以上のサーヴァントは居ないだろうよ」