環境破壊は気持ちいいZOI
「お父さん、聞きたいことがあります」
「…言ってみなさい」
「私ももう高校生です、周りと私が違うってことも分かります」
「…」
「この耳とか、いつも使ってる魔法がみんなにとっては変な事なんですよね」
「だろうな」
「私って、所謂エルフですよね!?」
二人はコタツに入り、灯油ファンヒーターの効いた部屋でみかんを剥きながら話している。
シリアスは逃げた、奴はもういない。
「分かった、全てを話そう」
「よかったです、これ勘違いだったら家出する所でしたよ」
「寒いからやめろ、アレは今日のような冷え込んだ時のことでな…」
ーーー
ファンヒーターが灯油が切れたと電子音を鳴らし、ぬくぬくとコタツに入っていた私は当たり付きと書いてある癖に一度も当たったことのないアイスを食べ終えて立ち上がったんだ。
「うっわマジかよ、切れやがった」
灯油を入れてある倉庫は家の外からしかアクセス出来ない、だから寒さに耐えながら灯油をタンクに入れなければならないのだ。
「灯油がタンクから無限に湧き出したら楽なのになぁ〜」
ーーー
「熱で脳やられてません?」
「いやこれ伏線だから」
ーーー
「自動ポンプ買っておいて良かったなぁ本当に」
プラスチック製の自動ポンプのスイッチを入れればタンクに灯油が適量注がれる優れものだ。
例えるならば、産業革命もこんな感じだろうなってぐらいの便利さ。
「うおっ、それなりの重さ」
やっぱり空のタンクを持ってから満タンのタンクを持つと、重さの違いに毎回驚いてしまうなぁと感じながら倉庫の扉を開けると…
目の前に宙を舞う軽トラが迫っていた。
ーーー
「なんで???」
「さぁ…乗ってたお爺ちゃんもクソビビってたし、アクセルと間違えてターボを全開にしたとか」
「さてはその軽トラ黄色くて、カリオストロまで行くタイプのアレですね?」
「お爺ちゃんは怪盗の変装だった可能性を浮上させるんじゃない」
ーーー
気がついたら森の中で、木にタンクごと括り付けられてた。
「猿共に死を!」
「魔法も使えぬ劣等民族がァ!」
「あっ、やめっ、ギャアァァァァァ!!」
なんか隣で人間が金髪の蛮族スタイル野朗に焼かれてた。
なんとも風変わりな火葬ですねー、それともバーベキューですかー。
「この大森林に住んでいながら我々平原の民を脅かす蛮族が!何も畏れずに火を使うとは何事だ、恥を知れ!」
「煩いな、焼け」
「あ゛あ゛あ゛!」
自分と焼かれてる人の間にはもう一人縛られている人がいて、その人は高圧洗浄機ごと縛られていた。
ーーー
「ここまでツッコミどころ満載なんですけど」
「過積載だよな、ハハッ」
「隣でバリバリ人が焼き殺されているのに、どんな神経してるんですか」
ーーー
「うう、車を洗っていただけなのになんでこんな…」
「奇遇ですね、僕も灯油を入れに行っただけなんですよ」
高圧洗浄機おじさんは腹に縄で高圧洗浄機が固定してあるのが最高にシュールで面白い、ちなみに私の灯油タンクは顔に縄で巻きつけて固定されている。
「えっ、君大丈夫かい」
ーーー
「初対面で半ばドン引きされてますよね」
「顔の真正面に固定するなんて酷いことするよな」
「(どうやって周りを見てたのでしょうか…?)」
ーーー
「大丈夫ですよ、灯油が満タンなので首が今にも折れそうですけど」
「焼かれる前に死ねるなら楽かもね」
「「ハハハ!」」
ーーー
「死に直面しておかしくなってるじゃないですか」
「あの時はどうやって灯油をぶち撒けて火を付けた奴ごと死んでやろうかとしか考えてなかったな」
「精神が強固にも程がある」
ーーー
どうにかならないかと思っていた矢先、軽トラが突如現れて磔にされていた私達と近くに居た蛮族達を巻き込んで暴走する。
吹っ飛ばされる直前に確認したが、確実に自分を轢いたお爺ちゃんだ。
ーーー
「お爺ちゃんも死んでるじゃないですか、転移したなら」
「原因は私を轢いたことによる心臓発作らしい、ざまあないな」
ーーー
吹っ飛ばされたことで縄が解けたのを良いことに、顔から外したタンクで蛮族の顔面を叩き潰して高圧洗浄機おじさんを救出する。
「お爺ちゃんに助けられましたね!」
「あの人にはアクセルだけ踏んでいて欲しい気持ちで一杯だよ、心の底からね!」
高圧洗浄機おじさんと意気投合した私達は混乱する蛮族達を振り切り、軽トラが消えていった方向へタイヤ痕を追った。
すると見つけた時には事故って木に突っ込んでた。
ーーー
「まあ、そうなるかなって」
「お爺ちゃんアグレッシブですよね」
「主にアクセル周りだけがな」
ーーー
「お爺さん、大丈夫ですか!」
「灯油飲みます?轢かれた時に持ってたんですよ、タンクを」
ーーー
「確実に怨みが表面に出てきてますよね」
「いやまあ、それなりに痛かったしな」
ーーー
「灯油は飲み物じゃないぞ?」
「良かった、人は轢いても話せないほどボケてはいないようですね」
ーーー
「キレッキレですね」
「そりゃもう、ねぇ?」
ーーー
「それよりも、これからどうしようか」
「今の現状を整理しましょうか、軽トラ動きます?」
「何故かピンピンしておる、バンパーに傷一つない」
「私を轢いた時の血痕と凹みは健在でなによりですね」
ジジイ、いやお爺さんの言う通り木は大きく割れているものの軽トラにそこまで大きな衝撃が加わったようには見えないのだ。
そういえば自分は最も簡単にタンクで蛮族っぽい金髪の顔面を殴り倒したが、あそこまで簡単に人の顔面を破壊出来るのは不思議だ。
「これは、元の世界から持ち込んだ物が鍵になるかもしれませんね」
その後、三人で蛮族ごと森を焼いた。
ーーー
「色々アレですけど、なんというかまあ…焼きましたね」
「焼いたぞ、エルフの森だったみたいだし良いだろ」
「エルフの森だからって焼いていい訳ではないです」
ーーー
軽トラにお爺ちゃんが乗り込み、荷台に都合よく乗っていた発電機を灯油で動かして高圧洗浄機で火の付いた灯油をばら撒いた。
軽トラは物理的に破壊不可能なレベルで頑丈で、高圧洗浄機は法律で規制されるレベルの高圧さを見せ、灯油タンクからは灯油が尽きることなく湧いて出たのだ。
即席火炎放射器と足の速い軽トラが合わさり最強に見えたそれは確かに強く、さっきまで人を焼いて楽しむ宴の最中だったパツキン蛮族を火だるまにして回った。
住処のある木の上から矢を放つ彼らにノズルを向け、高圧洗浄機のパワーを全開にすると十数メートル上であろう場所にも難なく届いて火の海にすることが出来た。
その結果火に飲まれたパツキンが右も左も分からなくなって、上からボトボト落ちてくるのが印象的だった。
ーーー
「印象的だったー、じゃないんですよ工場見学か」
「いやだって燃えたし…」
「そんな至極当たり前のことみたいに言われても」
ーーー
軽トラとスマホの何故か表示できた地図を頼りに森を抜け、大規模な山火事を逃れてからもう一度蛮族の拠点に行ってみた。
木という木は焼け落ちていて、視界が開けていたために来るのは楽だった。
「ここが、あの場所か」
「見る影もありませんね、真っ黒で煤けてますよホラ」
唯一無事らしい巨木には様々な言語で同じ事が書き込まれているようだった、その中の一つには日本語と英語で「火を畏れよ」と書き込まれていた。
火で人間を焼くから回り回ってこんな目に遭うのだ、自業自得と言える。
ーーー
「この理論なら焼かれるべきはこの家ですよね」
「なんで?」
「えっ怖…この人素で言ってる…」
ーーー
念入りに火炎放射器で死体が死んでいるか確認しながら進むと、難を逃れたらしい地下室を見つけた。
その中には一人の赤子が放置されていて、放っておくのもなんだしなぁと連れて地下室の外に出たらアクセルとブレーキを踏み間違えたジジイに轢かれてこの世に戻って来れた。
拾った赤子は然るべき場所に届け出た後、拾った本人である自分が育てることになり今に至る。
ーーー
「ということだ、分かったか」
「うん、サイコパスかそれに似た何かですよね」
「何でそうなる」
「いや森焼いて私拾って育てるって、脈絡ゼロじゃないですか不整脈起こしますよ」
「でも赤子に罪は無いし…」
「いつの時代の人間ですか、さては現代の倫理観にアップデートしてませんね?」
「はは、ぬかしおる」
「…あれ、そういえばもしかして」
エルフっぽい娘はふと何かを思いついたようでコタツから抜け出し、ファンヒーターのタンクを抜き取った。
タンクを持って外の倉庫にまで行き、空の灯油タンクを開いてファンヒーターのタンクを傾けて中身を出してみた。
「これがその灯油タンク、道理で一度も灯油を入れに行ったことが無いわけですね」
最近ホームランバーのアタリを引きました、やったね。