終わりのリリィ 柊真昼、十六歳の転生(リインカーネーション)   作:志祈月織

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終わりのセラフとアサルトリリィって親和性が高そう、と思い書き始めた小説です。
独自設定等ありますが、よろしくお願いします。


鬼のショウジョ

 

 それは、きっと恋だった。

 

 あなたに、そんな気がなかったのはわかっている。

 ありえないと、知っている。

 

 けど、私はあなたの、その言葉に救われた。

 

 深い闇の中で苦しんでいた。自分の意志などなく、世界とか、社会とか、運命とか、そんな見えないものに流されて、人形のように生きるしかなかった私を、あなたが救ってくれた。

 

 私と同じように、いや、私以上に苦しんでいたあなた。

 

 だけど、あなたは抗っていた。あなたは戦っていた。そんな姿に、私は恋焦がれた。

 

 だけど、あなたと私は結ばれることなどない。そんなこと、ありえない。

 きっと、誰もがそう言い、私を嗤うだろう。

 

 不本意ながら、私も同じ意見だ。

 

 あなたと私は、決して結ばれることなどない。想い人と結ばれないなど、それは絶望なのではないだろうか。

 

 けど、そんなことに、私は絶望しない。

 だって、絶望なんて感じないほど、私はあなたに焦がれていた。憧れや尊敬や、そんな絶望なんて吹き飛ばすほどの気持ちに溢れていた。

 

 だから、それは恋なのだ。一生に一度の、大恋愛だったのだ。

 

 だから、私は考えた。私を救ってくれたあなたを、今度は私が救うのだ。

 その方法を考えた。考えて、考えて、考え抜いた。

 

 私の想いを届けるために、あなたを絶望から救うために。

 

 それが、私の恋なのだ。

 

 私は、この恋に生きる。

 私は、この恋で身を焦がす。

 私は、この欲望に飲み込まれる。

 

 そして私は──

 

「あはっ」

 

 私は、鬼になった。

 

 

 

 

「いや、これはまいったね」

 

 天野天葉は、そう言葉をこぼした。

 

 三月も終わりに近づき、あと少しで進級するという時期だ。

 新学期からは正式に、二代目アールヴヘイムの主将に就任することも、江川樟美とシュッツエンゲルの契りを結ぶことも決まり、四月を今か今かと待つ日々だ。

 

 そんな時だ。二日前、一つの任務が天葉が与えられた。

 

 それは、百合ヶ丘女学院から少し離れた場所、そこでヒュージ反応があったというのだ。

 その場所は、今までヒュージの目撃例などなく、ヒュージネストからも離れた場所。ケイブの出現もないという場所だ。

 ヒュージ反応だって、極々短い時間にあったのみ。普通であれば、機器の故障や誤作動を疑うものだ。

 

 だけど、念には念を、ということで調査を行うこともあり、そこへ立候補したのが、天葉だった。

 

 なにせ、その場所とは、ちょっとばかり有名な観光地で、春休みを利用し小旅行をするのなら、絶好のスポットと言える。

 もちろん、調査を適当に行うつもりなどないが、それでも、自ら進んで任務を受ける程度には、悪くない場所だった。

 

 そんな、少しばかり邪な理由もあり、ルームメイトでもあり、親友でもある番匠谷依奈を誘い、この地に来たのだ。

 

 その依奈は、

 

「まいった、どころじゃないでしょう」

 

 油断なく、CHARMを構えて、天葉の隣に立っていた。

 

「これのどこが、ちょっとした小旅行なのかしら」

 

 目の前に広がる、ヒュージの残骸を目にして、少し硬い声で依奈は言う。

 

 事の起こりは、一時間ほど前。目的地に着いた二人は、移動疲れを癒すべく、観光ガイドにも乗るような、有名でおしゃれな喫茶店に入った。

 もちろん、任務を放り出して観光を始めるつもりなどない。一番人気の紅茶を楽みこそすれ、話す内容は、今後の行動予定だ。

 

 まずは学園にヒュージ反応の報告をしたという地元の警察組織に行き、状況を確認。学園への報告以外にも、なにか些細な違和感などがないか、地元の人間だからこそ感じるものなどがないか確認する。

 

 それから、ヒュージ反応が観測された場所に向かう。

 

 そんなやりとりを依奈としていた時だ。

 

「!?」

 

 街の中に、ヒュージ出現を知らせる、大きなアラームが響いた。

 天葉と依奈はすぐに店を飛び出し、ヒュージが出現したという場所へ向かった。

 

 そして、今に至る。

 

「一応聞くけど、私たち以外にリリィが派遣された、とか聞いてる」

「聞いてないわよ」

「だよねぇ」

 

 百合ヶ丘から派遣されたリリィは天葉と依奈の二人だけ。ほかの学園からリリィが派遣されたという報告も受けていない。

 

 改めて、ヒュージの残骸を見る。数は、一体や二体では済まない。ギガント級こそいないが、中にはスモール級やミドル級以外にも、ラージ級までいる。

 つまり、警察や軍が倒したのではない。

 

「まさか、同士討ち?」

「ヒュージ同士が? そんなの、聞いたことないけど」

「いや、まあ、そうだけどさ。けど、この数だよ。それに、時間も。ヒュージ発生から、私たちがここに来るまで、そんなに時間経ってないけど」

 

 そうなのだ。二人がこの場所まで来るのに、十分程だろう。そんな短時間で、ラージ級まで含んだ両手を超える数のヒュージを破壊するなど、一人や二人のリリィでは足りない。

 少なくとも、高ランクのレギオンでなければ難しい。

 

 天葉と依奈が同じことをやろうとすれば、撃破こそできるかもしれないが、戦闘時間も長引き、そのせいで街に被害が確実に出るだろう。

 

「とにかく、依奈は学園に連絡して。私は、まだヒュージがいないか辺りを探ってくるよ」

「わかった。けど、無理しないでよ。報告だけ終わったら、すぐ私も追いつくから」

 

 天葉は依奈を残すと、自身のCHARM、グラムにマギを込めて走り出す。マギにより強化された身体能力で、まるで風のように、天葉は駆けた。

 

 そして、それを見つけた。

 わずかに聞こえた戦闘音。それに導かれて向かった先には、複数のヒュージと、一人のセーラー服を着た少女がいた。

 

 とても、きれいな少女だった。天葉と同年代か、少し年下だろう。薄い紫色のロングヘアー。口元には微笑を浮かべて、赤く染まった瞳からは、感情のようなものはうかがえない。そんな、背筋が凍るほど、きれいな女の子だった。

 

 その子が、ヒュージに囲まれるように立っている。そして、ヒュージが女の子に襲い掛かる。

 

「あぶなッ!?」

 

 少女に見惚れていた天葉が、やっと正気に戻り、駆け出そうとする。戦場で、思考を止めるという大失態を犯し、歯噛みしながらも、それでも懸命に、足を動かす。

 

 このままでは、あの子が死ぬ。リリィとして、そんなことは許せない。

 だが、天葉は間に合わない。明らかに、ヒュージの凶刃が、少女に先に届く。

 

「ははっ」

 

 だが、少女は笑った。天葉の気持ちを裏切る様に、愉快そうに声を出した。

 そして、ヒュージが破壊された。

 

「え?」

 

 今度は、思考だけでなく、天葉は足求めてしまった。

 だって、目の前の光景が信じられなかったから。

 

 あのままでは、少女が死ぬはずだった。だが、天葉の想いとは裏腹に、少女は生き残り、ヒュージが破壊された。それも、その瞬間を、天葉は捕らえられなかったのだ。

 

「ふぅん。さっきも思ったけど、ヒュージってこの程度なのね。ヨハネの四騎士と、どっちが強いのかしら」

 

 そう、楽しそうに、けれども無感情で話す少女の手には、いつの間にか武器が握られていた。それは、黒い刃を持つ、日本刀だ。日本刀の形をしたCHARMなのだろうか。だが、今までどこかに持っていた素振りなどない。まるで、突然手の中に現れたかのように思える。

 

「さあ、そろそろ終わらせましょうか」

 

 そして、少女は言う。

 

「私に憑依しなさい、ノ夜」

 

 その瞬間、少女の体からマギがあふれ出る。黒い靄のようなマギ。まるで、ヒュージが使用する負のマギのようなものを身にまとうと、少女の姿は消えた。

 そして、次の瞬間、ヒュージが破棄される。

 

(まさか、縮地!?)

 

 高速移動を可能とするレアスキル、縮地。それを使用しているかと思うほどの速度で少女はいつの間にかヒュージの横に立つ。そして、刀を振るうと、それだけでヒュージが破棄されるのだ。

 

 それを見て、天葉は自分の考えを否定する。かつて同じレギオンに所属した吉村・Thi・梅が縮地使いだったからよく知っているが、縮地は高速移動を可能にするが、身体能力を上げているわけではない。だから、ただ刀の一振りで、ヒュージを破壊するほどの力を得ることなどできないのだ。

 

 そんなことを考えている間にも、ヒュージが次々と破壊される。スモールもミドルも、ラージ級でさえ関係なく、少女の前に、ヒュージの残骸が積みあがっていく。そんな、今まで見たこともないような異様な光景を目にして、天葉は動くことができない。

 

 そして、思う。

 それは、先ほど依奈と見たものと同じ。目の前の少女が、先ほどのヒュージを破壊した犯人だ。

 

 そして、いつの間にか、残されたのは少女と、天葉の二人になった。

 

「どこの誰だか知らないけど、のぞき見は趣味悪いんじゃない?」

 

 その少女が、気が付けば天葉の顔を覗き込むように立っている。

 世界有数のリリィである天葉が反応できないほどの速さで、そこにいた。

 

「まあ、私って天才美少女だから、見とれちゃうのも無理ないけど」

「……それ、自分で行っちゃうの?」

 

 冷や汗をかきながらも、天葉は少女の軽口に答える。

 ヒュージではない人間の姿をした少女。でも、同じ人間とは思えないような力を持った少女(ナニカ)に、天葉は恐怖を抑え込む。

 

「事実だから」

「いや、そうかもしれなけど」

「けど、大丈夫。私ほどじゃないけど、貴女もそれなりにかわいいよ」

「えっと、褒められてるの?」

「もちろん」

 

 そう、少女は笑う。

 

「そんなに私のことを警戒して、懸命に怖いのを我慢して、思わず殺したくなるほど、かわいいわ」

「っ!?」

 

 そんなことを、酷薄な笑みを浮かべて言うのだ。

 

「……あなた、リリィなの?」

「リリィ……ああ、そうね。リリィ、そうよ。私は、リリィよ」

 

 本心を見透かされ、絞るような声で聞いた天葉の質問に、どこか不自然な返答をする少女。

 

「まったく、ダメね。あっちの真昼と、記憶の同期がまだできてないのかしら。いや、でもこれはこれで都合がいいわね」

「なにを、言っているの?」

「あは、貴女には関係のないことよ……と」

 

 突然、少女が足をふらつかせて、天葉から離れた。手に持った日本刀はいつの間にか消えていて、空いた手で頭を抑えている。

 

「残念、時間切れ。身体の方も、限界か」

 

 少女は腰を落として膝を地面につけると、天葉を見上げるように言った。

 

「私が寝ている間に、私を傷つけたら、許さないから」

 

 そういうと、少女は気を失い、地面に倒れた。

 

「天葉、だいじょう……なに、これ!?」

 

 その直後、天葉に追いついた依奈は、目を見開いて、天葉に聞いた。

 

 それに対して、

 

「いや、まいったね、これは」

 

 そう、答えるしかできなかった。

 

 

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