終わりのリリィ 柊真昼、十六歳の転生(リインカーネーション)   作:志祈月織

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今回は天葉をはじめ百合ヶ丘学園サイドの話です。
リリィ視点からは、真昼はこう見える、というお話です。


眠りヒメ

「それで、彼女の様子はどうだね」

 

 百合ヶ丘女学園の理事長室。その部屋の主である、高松咬月が重々しい声で言った。

 

「よく眠っています。外傷は一つもない。それどころか、嫉妬を通り越して、見惚れちゃうくらいきれいな肌でしたよ」

 

 そう答えるのは、百合ヶ丘学園の二年生、真島百由だ。百由は眼鏡の奥で、いたずらっ子のように瞳を光らせる。

 

「もう、スタイルも抜群で、ウチの学園でも、あれほどの美少女はなかなかお目にかかれませんよ」

「真島君、その話はまだ続くのかね?」

「おっと、失礼。理事長代理には、刺激が強すぎましたか? いやぁ、お年を召していても、未だに現役ということですかね」

「真島君」

 

 咎めるような言葉に、百由は小さく舌を出す。

 

「失礼しました。なにせ、これから話すことは、少しばかり私にとっても信じられない話なので」

「そんなの、今更だね。私は最初から、あの子については、信じられない気持ち一杯だよ」

 

 そういうのは、ソファに深く腰を掛けた天野天葉だ。これから話す内容の当事者として、理事長室に呼ばれていた。

 

「学園が保護した彼女。仮称として、天葉が聞いたという、真昼さんと呼ばせていただきます。真昼さんの、正確な検査結果が出ました」

 

 天葉が、依奈と共に調査に向かったあの日から三日が過ぎた。あの後、依奈の報告で応援に駆け付けた学園のリリィと共にひと先ずの安全を確認した後、意識を失ったままの真昼を、百合ヶ丘学園で保護した。

 そして、天葉が見たという真昼の驚異的な強さから、徹底した身体検査が行われた。

 

 その検査をする際の中心人物、学園随一のアナーセルであり、研究者でもある百由から結果が報告されるのだ。

 

「結論から言えば、真昼さんは強化リリィです」

 

 そう、百由は断言した。

 

「血液検査や、摂取した細胞の解析や、その他もろもろ。そのすべてが、彼女が強化リリィだと示しています。それも、かなり重度の強化手術が施されています」

「やはり、そうか」

 

 天葉からの報告で、真昼が通常のリリィを超える大きな力があることはわかっていた。だから、人体実験を受けた強化リリィだということも、予測がついていた。

 

「でも、それだけだと、百由がなにを信じられないのか、わからないわね」

「真昼さんのスキラー数値ですよ。現在、確認さ入れているスキラー数値の最高値はご存じですよね」

「今年、高等部一年生となる立原紗癒さんの98だな」

 

 それが、現在世界で確認されているスキラー数値の最高値で、人間でいられる限界の数値と言われている。

 

「真昼さんのスキラー数値は100。正確に言えば、測定可能限界値というだけで、実際はそれ以上かもしれません」

 

 その言葉に、咬月と天葉の顔色が、驚愕に染まる。

 

「それだけじゃありません。彼女の体から検出されたヒュージ細胞は、他の強化リリィとは比べ物にならないくらい高いんです。マギだって、負のマギで汚染されている。検査結果だけで言えば、すでに人間とは言えない。人間の姿をしたヒュージ──」

「真島君!」

 

 咬月の強い声に、百由はバツの悪そうな顔をして、口を閉じた。

 リリィとヒュージを同列に見られる。それは、常日頃からリリィたちが苦しめられている行為だ。

 

 マギを使用できない人間から見れば、マギという超常の力を使い、圧倒的な身体能力を持って戦うリリィは、ヒュージと大差ないという、そんな意見がある。

 

 だからこそリリィは常に、自分を律し、規律に従い、人間としてあることに努めている。そしてこの百合ヶ丘学園は、そんなリリィたちが周囲の悪意から守り、ありのままに過ごすことができるシェルターとしての役目も果たしている。

 

 その学園の生徒が、同じリリィをヒュージとして扱っていい筈がないのだ。

 

「すみません。少し、結論を急ぎました」

「いや、私も少々冷静さを欠いていたようだ。続けてくれ」

「わかりました。とにかく、真昼さんへの対応は、慎重に行うべきでしょう。我々が刺激することで、彼女にどんな影響を与えるかわかりません」

「それって、例えばヒュージを呼び寄せたり、とか?」

 

 そう、天葉が言った。

 

「それは……」

「別に、彼女を悪く言うつもりはないよ。ただ、現状を正確に把握することは重要でしょう。三日前の突然のヒュージの出現、真昼ちゃんが呼び水になったんじゃないの? 状況証拠だけどさ」

 

 突然出現したヒュージの大群とその中心に真昼はいた。ただの偶然というには、出来過ぎだ。

 そして、調査のきっかけとなったヒュージ反応もだ。百由のいう検査結果が正しければ、ヒュージと誤認されても、仕方ないだろう。そして、真昼を仲間だと誤認したヒュージが、現れた。

 

「……それを否定する材料は、ないわね」

「それじゃ、今この瞬間、学園のど真ん中にケイブが出現する可能性もあるわけだ」

「否定はできないけど、でも、可能性は低いわ。今のところ、真昼さんは小康状態が続いているから」

「つまり、今は彼女が目覚めるのを待つしかないわけか」

 

 咬月の言葉を聞くと、天葉がソファから立ち上がった。

 

「じゃあ、今は様子見ってわけで。私はお見舞いにでも行ってくるよ」

「ちょっと、なんか軽くない?」

「そう? まあ、話はできるみたいだしさ。いきなり暴れだす、みたいなことはないでしょ」

「もし、暴れだしたら」

「別に、そうなったら、仕方ないでしょ」

 

 それに、実際に真昼の戦いを見た天葉だからこそわかる。

 

「もし真昼ちゃんがその気になったら、対処できるリリィは、この学園には誰もいないよ。もちろん、私を含めてね」

 

 そう言い残し、天葉は理事長室を後にした。

 

「まあ、天葉が言うなら、そうなんでしょうね」

 

 百由はため息をつくと、諦めたように頭を振った。学園どころか、世界有数のリリィである天野天葉の言葉だ。

 過大評価と、そう簡単に言えるものではない。

 

「真島君、この件はどこまで話している?」

「検査結果は、今この場で初めて話しました」

「わかった。しばらくは、真昼君の存在は秘匿する、先日の調査にかかわった人間に箝口令を引く。検査結果については、我々以外には生徒会の三役と特務レギオンの主将、副将のみとする。また、LGシグルドリーヴァには真昼君について、調査をしてもらおう」

「G.E.H.E.N.Aですね」

「ああ」

 

 G.E.H.E.N.Aは表向きこそヒュージ研究機関だが、その裏ではリリィに対して非人道的な実験を繰る返している、危険な組織だ。真昼が強化リリィである以上、その存在にG.E.H.E.N.Aが関係していると考えるのが自然だろう。

 

「ふぅ」

 

 咬月が、疲れたように息をつく。

 

「お疲れですね」

「ああ。もうすぐ新学期だからね。色々と、仕事が立て込んでるんだ」

「もうそんな時期なんですね」

「ああ、願わくば未来あるリリィたちに、少しでも健やかに笑顔で学園生活を過ごしてもらいたいものだ」

 

 眠っている真昼君を含めてね。

 

 そう、咬月は小さくこぼした。

 

 

 

 

「でも、さすがに眠り過ぎだと思うんだよね」

 

 そう、真昼が眠っている病室の前で、天葉は独り言ちた。

 百由から真昼のついての検査結果を聞いて、早四日が過ぎた。

 つまり、真昼はすでに一週間も眠り続けていることになる。

 

 そして、一週間、天葉は暇さえあれば真昼の病室を訪ねていた。

 

「真昼ちゃん、起きてる?」

 

 軽い足取りで病室に入ると、天葉はベッドに近づき、真昼に声をかける。

 だが、真昼はまだ起きていない。

 今も静かに眠り続けている。

 

「本当に、きれいな顔で眠ってる。まったく、惚れ惚れしちゃうよ」

 

 穏やかに一定の呼吸を続ける真昼の顔は、それだけで心を奪うほどきれいだった。

 少しばかり、自分の容姿に自信がある天葉だが、それでも、真昼の前では形無しだ。

 

「本当に、生きているんだよね?」

 

 そう、死んでいるのでは、と勘違いするほど、人間味のない美しさだった。

 

 けど、確かに生きている。真昼の体に取り付けられた器具は、彼女の心臓が動いていることを示しているし、点滴で生きるのには支障がないだけの栄養は与えている。

 時折上下する真昼の大きな胸元も、彼女が呼吸を続けていることを示していた。

 

「まるで眠り姫だね。王子様を連れてこないと、目覚めてくれないのかな」

 

 だとしたら、ずいぶんとぜいたくな話だ。

 周りの苦労も知らないで、穏やかに眠り続けて、その上王子様を連れて来いと要求する。

 とんだ、わがままお姫様である。

 

「やっぱり、特殊な強化をされたリリィだからかな。百由が色々調べてるみたいだけど、いい結果はまだ出ないみたいなんだよね」

 

 百由も真昼の身体検査を続けているが、成果は芳しくない。この学園にも強化リリィは在籍しているが、その誰とも異なる強化が施されている。

 それは学園きっての才女である百由をしても解明困難で、下手に治療を施してどんな悪影響があるかわからないと、ただ自然と目を覚ますのを待つしかない状況なのだ。

 

 ふと、病室にかけられた時計に、天葉は視線を向ける。

 

「ああ、もう時間か。樟美との待ち合わせに遅れちゃう」

 

 今日は、天葉のシルトとなる樟美のハレの日だ。真っ先におめでとうと言うと、ずっと前から天葉は決めていた。

 

「今日は入学式なんだ。真昼ちゃん、このままじゃ高校生になれないよ?」

 

 真昼の年齢は、わからない。学園の特務レギオンが真昼の経歴を調査しているが、一向に成果が出ないのだ。

 真昼の大人びた顔つきから、天葉よりも年上の可能性もあるが、けど何となく、年下なのでは、と天葉は感じていた。

 

「それじゃ、私は行くね。次は、出来たら王子様を連れてくるよ」

 

 そう、天葉は真昼に背を向けて、病室の外へ向かう。

 だが、

 

「残念ね、私の王子様は、もう決まってるの」

 

 そんな声と共に、背中に強い衝撃が走った。

 

 




なんだか天葉が目立っていますが、天葉は残念ながらヒロインじゃありません。
アニメの第一話にもたどり着いていなければ、まだメインヒロインも出ていない。

そんな小説ですが、感想などお待ちしております。
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