終わりのリリィ 柊真昼、十六歳の転生(リインカーネーション)   作:志祈月織

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アサルトリリィ展に行きました。
素晴らしい展示の数々でしたが、目当ての物販がほぼ全滅してました……。

それだけアサルトリリィの人気が高いってことですね!


未知のキオク

 真昼が押し倒した人物は、想像通り歳がそう変わらないだろう少女だった。

 かなりの美少女だ、などと思いながらも、真昼は淡々とその少女の右腕を背中に回して拘束する。

 

「ちょっ──」

「はい、静かにしようか」

 

 なにかを言いかける少女の口に、空いた手の指を押し込む。少女の口の中、ぬらぬらとした唾液の感触を指先に感じながら、さらに奥、喉に届くほど押し込む。

 少女が苦しそうに暴れて、目元に涙を浮かべる。同年代の少女に比べると強い力で、やはり何らかの訓練を積んでいるのだろう。

 

 だが、真昼の拘束を振りほどくことはできない。力では振りほどけないような拘束の仕方をしているし、それ以前に、鬼の力で強化された真昼の力は、多少力が強い程度では敵うものではない。

 

「ねえ、苦しい?」

 

 少女の耳元に口を寄せて、呟く。少女が視線だけを真昼に向ける。

 

「口から指を抜いてほしければ、大声を出さないと約束しなさい。約束できるなら、これ以上は傷つけないわ。けど、私の言葉を無視するなら、このまま舌を引きちぎる」

 

 その言葉に、ぴたりと少女が暴れるのをやめる。真昼を見る目に。わずかに恐怖の色が混ざる。

 

 わかりやすい、と真昼は思った。戦闘訓練は受けていても、拷問などに対する訓練は受けていないのだろうか。だが、この程度の軽い脅しに反応してくれる分には、やりやすくて助かる。

 

「私のこと、多少なりとも調べてるなら、できるかできないかくらいわかるよね。約束するなら、左目をゆっくり閉じて、開けて。それ以外の動作をした瞬間、拒否したと判断するから」

 

 少女は真昼の言葉に偽りがないと判断したのか、ゆっくりと左目を開閉した。真昼はそれを確認すると、少女の口から指を引きるく。

 

 長いこと異物が口内にあったせいか、むせたように少女は何度か咳き込む。

 

「大丈夫?」

「……そう見えるなら、ずいぶんいい性格してるよ」

「あは、ありがとう」

 

 非難するような少女の言葉を、真昼は聞き流す。

 

「ねえ、私はあなたの言う通り大人しくするつもりなんだけど、いつになったらどいてくれるのかしら」

「しばらくはこのままのつもりだけど、問題ある?」

「大ありよ!」

「それは、私みたいな美少女に押し倒されて、興奮が抑えられなくて爆発しそう、ってことかしら?」

「そんな思春期真っ盛りな男子中学生みたいなこと考えてないから! いい加減重いし、胸もつぶれて苦しいのよ」

「あはは、そうなの。でも残念。そんな童貞っぽいこと考えている貴女を開放して、興奮のあまり襲われたら困るもの。だから、あなたを自由にするわけにはいかない」

「だから、違うから!! ってか、女子に童貞とかやめてよ」

 

 少女の文句など、真昼は聞き流す。もちろん、少女を自由にすることもしない。言われたことを素直に信じるほど、真昼はバカでもお人よしでもない。この少女は、たった今あったばかりの、どこの誰とも知らない他人なのだ。そんな相手に、真昼は決して気を許したりしない。

 

「まったく、あなたなんな──っ!?」

 

 何かを問いかけた少女の言葉を無視して、真昼は少女の体を片手だけで全身を撫でまわす。

 

「ちょっ、くすぐったい! ヘンタイ!!」

「はい、黙ってね。あんまりうるさい子は、怖い鬼に舌を抜かれちゃうよ」

 

 真昼の言葉に、少女は口を閉じるが、くすぐったさは耐えきれないのか、身体だけは小刻みに震えている。

 

「持ち物は携帯電話と、これは学生証かな? 武器の一つも携帯しないで、私みたいな不審人物に会いに来るなんて、不用心なんじゃない?」

「あいにく、狸寝入りで人を油断させて、いきなり人を襲うような女の子と会ったことがないから」

「なら、いい経験になったわね。あなたに次があれば、気を付けたほうがいいわよ」

 

 次があれば。つまり、少女にその次が来る機会は一生ないのかもしれない。

 その言葉の意味を理解したのか、少女に緊張が走る。

 

「それで、えっと、天野天葉ちゃん、かな?」

 

 取り出した学生証を開き、そこに書かれている少女の名前を読み上げる。

 

「これ、本名?」

「当然でしょう。そういうあなたは、真昼ちゃん、でいいのかしら?」

 

 あっさりと少女、天野天葉は自分の名前を教えてくれた。彼女の口調や、表情から、嘘ではないと真昼は判断する。一方、天葉の問いかけに、真昼は首をかしげて答える。

 

「真昼? それって、誰のことかしら、私の名前は、山田小百合だけど」

 

 と、答えた。

 

「それ、本名?」

「聞いてる意味が分からないわ。あだ名でも教えてほしいの?」

 

 どこでどう、真昼という名前を知ったのかわからない。だが、天葉の問いかけから、真昼の本名に確証が得られていない、つまりまだ、真昼の素性を詳細に調べ上げられていないと判断し、平然と偽名を名乗る。

 天葉の行動から、どうやらこの学園施設を管理している組織は、それほど大したことがない──それこそ、日本帝鬼軍とは比較にならないほど程度が低い組織だと判断した。

 

 そんな組織に、大した利用価値があるとも、利害による協力関係を築こうとも思えない。だから、こちらから相手が求める情報を与える必要などない。天葉から最低限の情報を引き出して、この場から去ることを決めた。

 

 天葉はまだ、真昼の言葉について思考を巡らせている。真昼がどこまで本当のことを話し、どこまでが嘘なのか、悩んでいるのだろう。だが、天葉の答えを待つ必要などない。真昼は天葉のことなど無視して、次の質問をぶつける。

 

「ねえ、ここってどこなの? 病院、ってわけじゃないみたいだけど」

「──百合ヶ丘女学園よ」

 

 その言葉に、真昼は横目で学生証を見る。すると、そこには確かに百合ヶ丘学園と学院名が記載されていた。どうやら、変にごまかしたりする気はなく、真昼の質問に素直に答える気はあるようだ。

 

 もっとも、天葉が真昼を欺けるほどの話術を持つとは思えないが。

 

「……百合ヶ丘女学園」

 

 学園名を口に出すと、自然と次の言葉が出た。

 

「じゃあ、ここは鎌倉なのね」

 

 その言葉に、真昼は内心で動揺する。なぜ、自分でも、この場所が鎌倉だと口にしたのかわからない。だが、それと同じく、何となくの思い付きやひらめきで言ったのではなく、確証をもっての言葉だとわかった。

 

 そして、一度言葉に出すと、自分でも信じられないほどに、次々と言葉が出てくる。

 

「鎌倉府5大ガーデンの一角か……もしかして、貴女って、元アールヴヘイムの天野天葉かしら?」

 

 ああ、気持ち悪い。

 とめどなく溢れる、自分が知るはずもない知識の波に襲われて、真昼は吐き気を催す。

 もちろん、そんな弱みを、天葉に見せるようなことをしない。

 

 実際、天葉は真昼の異変に気付いた様子もなく、

 

「名前を知っていてもらえたとは、光栄ね。よかったら、サインでもあげようか?」

 

 なんて、強がりを見せている。

 

「……なるほど、伝説のレギオンと名高いアールヴヘイムの副将も、CHARMを持たなければ、この程度か」

 

 まただ。自分で口に出したCHARMという言葉が、リリィが使用する武器だということが、真昼にはわかる。すると、リリィとは何か、なんてことが、連鎖的に真昼の脳裏に浮かんでは、それが正しい知識だと、強制的に理解させられる。

 

「まったく、これは何なのかしら?」

「ちょ、ちょっと、大丈夫!? 顔色が悪いわ、やっぱりまだ体調がよくないんじゃない!?」

 

 天葉が、心配するように、真昼に声をかける。

 

 これが、ただの痛みならいくらでも耐えることができる。どのような拷問にも耐えられるように、子供のころから訓練を積んでいるのだ。だが、未知の記憶に襲われるという、今まで味わったこともないような不快感に、さすがに顔色を隠せなくなったのだろう。

 

 ただ、自分を押し倒している相手の心配をするなんて、天葉はどういうつもりだろうか。真昼の情に訴えて、拘束から逃げるつもりだろうか。

 

 いや、天葉が、そんな駆け引きができるとは思えない、だとしたら、本心から、真昼のことを心配しているのだろう。だとしたら……、

 

「そういう善人ぶった態度、心底ムカつくんだよね」

 

 真昼は天葉の首に手をかけて、力を籠める。

 

「どうも、貴女からは大したことを聞けそうにないわ。後は好きにするから、もうおしゃべりはおしまいにしましょう」

「ちょ……苦しい……」

「大丈夫、私は約束を守るの。傷が残らないように、優しく楽にしてあげるから」

 

 天葉の瞳が、恐怖に揺れる。

 

「おやすみ、天葉ちゃん。次がなくて、残念だったわね」

 

 真昼は最後に、天葉に告げた。




次回、本作のメインヒロインがようやく登場する予定です。
早く真昼と絡ませたくてしょうがない。

感想等、お待ちしています。
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